本戦一回戦・続
ヒイラの炎の魔神が腕を大きく引き、拳を構える。俺の牛鬼も、同じように腕を引き、拳を構えた。2つの巨人の、腕の筋肉が盛り上がる。
「さぁ…、受けろ!!ベイ・アルフェルトォォォォォォオオオオオオオ!!!!!!!」
ヒイラの叫びとともに、炎の魔神の拳が放たれた!!一直線に、俺の牛鬼目掛けて、その拳が振るわれる。しかし…。
「ああ、受け止めてやるよ…!!ヒイラ・スペリオ…!!!!」
俺の牛鬼も、全く同じタイミングで拳を放っていた!!空中で2体の拳が激突し、空気が破裂したような音と衝撃を、周辺に伝える。
「なんと、これは凄い!!我々は、魔法戦を見ているのにも関わらず、これではまるで肉弾戦です!!魔法戦による、肉弾戦を見ているのです!!なんと、レア!!そして、なんという迫力!!!これには客席の皆さんも、総立ちで食い入るように試合を見ざる追えない…!!!!」
「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああーーーーーーーーー!!!!!」」」」」
衝撃音に負けず劣らずの大きさで、観客席の興奮の声が届く。その間、打ち付けあった拳を合わせたまま、2体の巨人は静止していた。
「くふふ…。本当は最初に、アリーちゃんに食らわせて驚かせたかったんだけど、今思えば負けて良かったかも知れないね。…だって、こんな最高の魔法戦が出来るなんて、思っても見なかったもの…!!!!」
また、炎の魔神の拳が振るわれる。そしてまた、俺の牛鬼の拳と、炎の魔神の拳がぶつかり合った!!
「本当に、本当に、本当に…。…あなたがこの魔法を見せる相手で良かった、ベイ・アルフェルト…!!」
その言葉をきっかけに、休み無く何度も炎の魔神の拳が放たれた!!咆哮を上げながら放たれるその拳は、迫力も威力も十分過ぎるほど出ている!!しかし、俺の牛鬼も負けてはいない!!同じく咆哮を上げながら、同じ数だけ拳をうち、相手の拳を尽く空中で叩き止めていた。衝撃音が、連続して周囲に鳴り響き、観客の興奮度合いを上げていく…!!
「壮絶な打ち合い!!!未だかつて無いほどの、大スケールでの試合に、観客席の盛り上がりも最高潮です!!!勿論、私も!!!!!!」
ヒイラから、更に魔力が消費される。炎の魔神の出力が上がり、周囲の大気の熱を上げていった。勿論、拳の速度も速くなっている。ならばと、俺も牛鬼にさらなる魔力を流し、その筋肉と硬度を上げ、炎の魔神に対抗していった。均衡を保った攻防が、数分間続く…。
「ふふふ…」
スッと、炎の魔神の攻撃が変化した。深く体勢を落としこんでのアッパー!!こちらの牛鬼の顎を砕かんばかりに、拳に炎を纏わせ放ってくる。牛鬼は体勢を後ろに倒し、そのアッパーを回避した。追撃に右手のフックをかます!!だが、素早く身を引いた炎の魔神に、攻撃をすかされてしまった…。
「楽しい、楽しい、楽しい…。でも、そろそろ…」
身を引いた炎の魔神の拳に、さらに大きな魔力が注ぎ込まれる。炎の魔神の拳が、紅蓮の炎で包まれ、あからさまに強力な一撃を放つ体勢であることが分かった。
「決着を…つけなきゃ!!!」
引きに引いた炎の魔神の拳が、牛鬼目掛けて放たれる!!その見た目は、まさに必殺の一撃と言わんばかりだ!!ならばこちらも、奥の手を使うのが礼儀…。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお…!!!!!!」
ヒイラの気合と共に、牛鬼目掛けて拳が迫る!!俺は牛鬼に、そのまま先ほど通り、拳を合わせて迎撃するように拳を放たせた。その瞬間、牛鬼の拳が変化する…。
「破神の…」
それは、巨大な牛鬼の腕を、一瞬で包んでいった。更に大きな土の魔力で出来たそれは、ミルクが使って、幾千の魔物を葬り去っていった武器…。
「ガントレット…!!!」
強大なガントレットが、牛鬼の腕を包む。デザインは、今の聖魔級ミルクと同じ物だ。その瞬間、牛鬼の筋肉が膨張し、拳の速度が、一気に上がっていく!!
「(うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!ご主人様、私の事好き過ぎ!!私も大好き!!!両想い!!!もう抱いて!!好きにして!!!)」
…今夜は、ミルクの胸を揉みながら寝てみるか…。一度やってみたかったんだよなぁ…、あの乳で抱きまくら…。じゃない…、威力を増した両者の拳が、空中で激突する!!!!ものすごい衝撃波が辺りを包み、土煙を巻き上げた…!!
「こ、これは!!!両者、渾身の一撃の打ち合い!!!果たして、立っているのはどちらなのかぁ!!!」
ゆっくりと、土煙が晴れていく…。そこには、放った腕が粉砕され、ゆっくりと消えかかっている炎の魔神の姿があった…。
「くふふ…、お見事、ベイ君…。私は、魔力切れ…。君の…、か…ち…」
ヒイラが、前のめりに倒れていく。俺は、すかさず動き、倒れるヒイラを抱き止めた。…どうやら魔力の使いすぎで、気絶しているみたいだな。後で、救護室に運んであげよう。
「……け、決着ぅぅぅぅうううう!!!!!!!第3試合勝者は、ベイ・アルフェルトだぁあああああ!!!!!!!!!」
「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああーーーーーー!!!!!」」」」」
観客の声援と共に、俺の勝利が告げられる。アリーが、いい顔でサムズ・アップしてきたので。俺も親指を立てて、笑顔で返した。取り敢えず、ヒイラを休める所に連れて行こう。俺は、ヒイラに回復魔法をかけながら、救護室に向かった。
*
「うわあああああああああぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!すごいいい試合だった!!!見た!!副校長!!わしの采配、間違ってなかったよこれ!!」
「…ええ、そのようですね。どちらもまだ、学生とは思えません…」
「しかも1年と2年じゃろ!!いやぁ、才能と実力のある生徒が、我が校にこんなに入学してくれるとは…。うーん、教師冥利に尽きるのう!!!!」
(そういう生徒の、戦闘が見たいだけなのでは…。まぁ、いいですか…)
確かに、校長の言った通り、とても見応えのある試合だった。迫力的な意味でも、魔法的な意味でも…。だが、少し残念なことがある…。
「…このレベルの試合なら、もうちょっと後半で見たかったですね…」
「ああ、それ分かる。迫力がありすぎて、次が小さく見えそうな感じじゃな…。そこは、ミスだったわい…、すまんの」
「いえ、まぁ、いいですが…。こほん、ですが校長。くじ引きの結果。次は、間違わないで下さいよ」
「えっ、ああ、そうじゃな…。気をつけるよ…。うむ…」
そう言って、校長は所在なさ気に顔を伏せる。それを見て副校長は、やれやれ、とため息を吐いた…。