余韻
「!!!!!!!!」
まるで、何が起こっているのか、分からないという風に、ミエルは動かない。顔が赤くなり、固まっている。
「…仲間の為に、一步を踏み出す手助けをしてあげる。これも、ヒーローの勤めですね!!」
カザネは、何かやりきった顔をしているが、これはどうなんだろうか?シデンは、親指を立てて、カザネを褒めているが、少々物理的すぎないか?まぁ、多少の押すぐらいでは、今のミエルはバランスを崩したりはしないだろうけども…。
「…」
そうこう考えている内に、ミエルは、やっと正気に戻ったのか、今の状況を受け入れ始めているようだった。だが、まだ俺から、唇を離そうとはしない。むしろ、そのまま、俺の背中に手を回して、抱き合う形になった。
「ううん…」
ゆっくりと、ミエルの唇が動き始める。まるで、我慢できなくなったように、情熱的に俺は求められた。触れ合うだけだが、それでも、何度も重ね合わせるように、ミエルの唇が動いていく。俺も、その気持ちを受け止めて、唇の動きを返した。
「うん…、はぁ…」
息を吐く暇もない、長いキスがおわり。ゆっくりと、ミエルの顔が離れていく…。その顔は、熱で赤く染まっていて、うっとりとした目で、俺を見ていた。
「愛してます…、ベイさん…」
「ああ、俺もだ…。ミエル」
お互いに見つめ合い、お互いの大切さを噛みしめる。ゆっくりと、ミエルは俺に近づき、俺の胸に、顔をうずめた。俺は、その頭を優しく撫でてあげる。幸せそうなミエルの顔が、俺からは見えないが、手に取るように分かった。
「これで、残りは3人ですね…。こん…」
「うわぁ…、シデンちゃんが、こっち、睨んでるっすよ。私達、何か変なことしたっすかねぇ?」
「ミエル様も、正式にキスしたし、私達の番ってことじゃないかしら?」
「むっ…、やはり、私もしなければならないのでしょうか…。序列というのは、時に困難なものですね…。私はまだ、心の準備が出来ていません…」
シスラ達は、幸せそうに抱き合っているミエルと俺を見ながら、そう会話する。ということは、次はシスラとか。うーん、シスラとなら、案外簡単に出来そうな気がするなぁ。
「主人も、ミエルも、幸せそうで何よりです。いい仕事をしました…!!」
カザネは、決めポーズをして余韻に浸っている。まぁ、ミエルが幸せそうだし、よしとするか。ありがとう、カザネ。と、ミエルは心の中で、思っているかもしれないし。
「殿、今日は、大分時間が経っています。そろそろ、晩御飯の時間ですよ」
「おっと、もう、そんな時間か…!!じゃあ、取り敢えず、帰ろう」
「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」
全員の、元気な返事と共に、俺達はアリーが待つ部屋へと、転移して行った。
*
「ふーん、やっぱり神魔級は侮れないってことね。今のベイ達で、そこまで苦戦するなんて…」
「そうだね。俺も、ここまで苦戦するとは、思ってなかったよ…。ひょっとしたら、結構、早く攻略できるかもと、思ってたくらいだ。…やっぱり、色々な可能性を考慮に入れて、動いて正解だったと思う」
部屋に帰って、アリーに迷宮攻略の話をする。アリーと話をしていると、落ち着くなぁ。帰ってきたって気分になれる。流石、俺の嫁だ。癒やし効果がすごい。
「うーん、でも、神魔級ボスと戦っている時は、今のとこ、毎回、誰か進化しているわよね?やっぱり、そう言う、強い相手と戦うからこそ、進化しやすくなったりするのかしら?」
「さぁ、どうだろう?いい経験には、なっていると思うけど…。でも、何かしら実力的に困ったことがあった時に、進化しているから、生命的に追い詰められると、進化しやすかったりするのかもしれないなぁ…」
「生存本能的なことかしらね…。追い詰められると、突然、強い力を発する時があるとか、そういうことなのかしら…。まぁ、結果的に、ベイが無事ならそれでいいわ。今の所、皆の進化に救われているからいいけど、あまり無理はしちゃ駄目よ」
「ああ、気をつけるよ」
アリーに出会えて、皆がいて。この状況で死ぬなんて、絶対に嫌だ!!だが、まだ、神魔級に挑んでいかないと、この先にある、世界の危機は救えそうに無いもんなぁ…。自分から危険に飛び込んでいかないと、いけないなんて…。本当に、辛い世界だと思う。だけど、皆がいるから、この世界を終わらせたりなんてしたくない!!ともかく、次の神魔級迷宮に行く前に、また力をつけよう。その前に、次は、学校の闘技大会があるのか。よし、水属性神魔級迷宮も攻略したし、闘技大会も、上手く攻略してしまおう。俺は、晩ご飯を食べながら、闘技大会での戦いに関しての、準備を考えるのだった。
*
「はあぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
周辺を、木で囲まれた森の中。気合の声と共に、剣が振り下ろされる。その威力は、周辺の土をえぐり、木々を吹き飛ばし、周りの風景を一振りで変えていた…。
「…なかなか、気合入れて鍛錬してるじゃねぇか。サラサ」
「お祖父ちゃん…。何時からそこに?」
「なぁに…、ほんのさっきさ…。にしても、すごい威力だなぁ。近いうちに、お前の学校で闘技大会っていうのがあるんだろ?お前がこの調子なら、他の奴らは、相手にもなりそうにないなぁ…」
「いえ、…1人だけいます。今の私でも、勝てるか怪しい人物が…」
「ほう、それは誰だ…?」
サラサは、ゆっくりと目をつむり、彼の顔を思い浮かべる。
「ベイ・アルフェルト…。彼ならば、今の私でも勝てるかどうか…」
「ほう、あの坊主かぁ…。まぁ、確かに、あの年齢にしては鍛えてはいたからな…。お前と渡り合えるとしたら、そのぐらいか…」
「はい…」
暗くなった夜空を見上げ、サラサは思いを馳せる。もう少し、もう少しで、待ち望んだ時間が来る。その考えが、彼女の胸を高ぶらせていた。
「…」
背中に背負った、大剣を振るう。剣は、風を切り裂き、一直線に太刀筋を描いて、綺麗に空中に静止した。
「ベイ、もうすぐ、お前の本気が見れる…。だから、私も本気でぶつかろう…」
再び、サラサは、地面目掛けて剣を振り下ろす。地面に斬撃の亀裂が入り、少し遠くにあった木ごと、真っ二つにして、その威力は止まった。
「ちっ、我が孫娘ながら、恐ろしい実力をしてやがる…。そのうち、俺も超えられるかもしれんな…。まぁ、その気はないがな、ガハハハハハハハハハハハ!!!!!」
サラサは、剣を握る手に再び力を込める。待ちに待った大会が、もうすぐ始まろうとしていた…。