水属性神魔級ボス
遠巻きに、地面と思わしき物体を眺める。見事に、一面ピンク色だな。それに、よく見ると、ゆらゆらと動いている。
「なんだろう?イソギンチャク…?」
一面、びっしりと生えている、イソギンチャクと思える物体。やはり、あれも魔物なんだろうか。それとも、ただの原生植物か。どちらにしろ、近づきたくはないな…。
「とは言っても、ボス戦を始めるには、近づかないといけないか…」
俺は、ゆっくりと地面に降りて、イソギンチャクを手に取る。なんか、半透明で、とても幻想的だ。それに若干、光っているし。暗い水の中では、ありがたい。さて、敵はどこかな…。あたりを見回すが、それらしい魔力の動きはない。
「うん?あれかな」
遠くに、一際、大きな光の塊があるのを、見つけた。ゆっくり歩いて、近づいていく。それは、大きな蕾だった。見た目は、閉じた花のようだ。中心から、光を放っているようで、近づくと、とても輝いているのが分かる。
「……、こんなに綺麗に見るけども、この大きさ…。中身は、普通じゃないだろうな…」
更に近づこうと、一步踏み出す。すると、周りの地面が、振動して、震え始めた。ゆっくりと、目の前の蕾が開いていく…。
「さて、勝負開始、ってところか…」
蕾が開ききると、中から異形の怪物が現れた。身体は水色、赤い鋭い目をしており、腕には、鋭利な爪が付いている。
「魚人ってところか…。下半身は魚じゃないみたいだがな…」
まるで、触手のように、地面から根が這い出てきた。そのまま、その魔物は水中に浮き上がる。
「まるで、クラゲだな…」
ゆらゆらと、根で水中を蹴りながら、漂っている。腕組みをして、俺を見ている姿は、流石、神魔級迷宮のボス、と言ったところだろうか…。鋭い眼光から放たれている殺気は、土属性神魔級迷宮ボスを倒した俺達にでさえも、多少の圧力を感じさせる…。
「……」
俺は、少し睨み返すと、ゆっくりと剣を構えた。ボスの身体が、青白く発光し、根の周りに水属性の魔力が渦を巻く…。
「…行くぞ」
水中の地面で、足を踏み込む。俺の中にいる皆に、開戦の合図を告げると、俺は背中に風属性の魔力を放出させて、一気に、ボス目掛けて、飛び出した!!!
「グゥッ…」
ボスの根が、まるで槍のように、俺達に襲いかかる。根の先を、剣で弾くが。すぐに水中で折り返し、俺達を、根は追いかけて来る。
「クッ!!」
何十にも張り巡らされた根の防壁に、少しずつ突進の威力をそがれ。遂には、近づく前に、こちらが手数で負け、防御せざる負えなくなった。水中を、水の魔力と、風の魔力で移動するが、どうにも、相手のほうが動きが早い。それに、何本もの根が、縦横無尽に動くので、相手は、一体なのに、複数の敵を相手にしているみたいで、とてもやりづらい…。
「根を、切り落としていくしか無いか…!!!」
剣に魔力を込め、一本ずつ切断していく。
「はぁぁぁぁああああ!!!!!」
固いんじゃないかとも思ったが、意外とあっさり切断できた。後は、このまま、ボスを丸裸にするだけだが…。
「…まぁ、そう簡単には行かないよな…」
「グルル…」
低いボスのうめき声とともに、切られた根が伸びていく。回復魔法の阻害をしようと、回復している根を見てみるが…。
「…?あれは、回復魔法じゃないのか?」
どうにも、回復している根に、魔力が感じられない…。どうやら、あの再生は、完全にあいつの能力であるらしい。うーん、これは、かなりきつい戦闘になるかもしれないな…。
「……」
ボスは、俺達から距離を取ると、根を一気に回復させた。…駄目だな。水中で、あいつの動きに、ついて行けてない。距離を取られると、距離を詰めている間に回復される。やはり、この勝負は、強力な一撃を本体に叩き込むことに専念したほうが、良さそうか…。
「……、解せませんね。あいつには、まだ、余裕が有るように思えます…」
「本当か、ミズキ?」
「ええ。私達から逃げる時もそうですが、まだ、余力があるような、動きをしていますね…。本当は、もっと早く動けるんじゃないでしょうか?」
「……、聞きたくなかった、事実だな…」
今でさえ、スピードで圧倒されているのに、これ以上相手が早くなるだって…。絶望以外の、何物でもない。ただ、ひとつ言えることは…。
「俺は、俺より強い奴の相手には、慣れてるからな…。なんとでも、凌ぎ切ってみせるさ…」
そう。前のレムの時といい、今のフィーといい。俺が、勝てている部分なんて、殆どなかった。勿論、攻撃の早さもだ。その分、今の俺なら、相手の攻撃がどれだけ早くなろうと、受けきる自信がある。
「グルッ…」
不意に、目の前から、ボスが消えた。…いや、早く移動しただけだ。
「…右!!」
右から襲いかかってきた、速さを増した根での攻撃に、俺は瞬時に対応する。確かに、早いが、まだ付いてけないほどじゃない!!盾で防ぎ、剣で根を切り、相手の攻撃の勢いを削いでいく。
「グルルッ」
再び、素早く、ボスは俺達から離れると、その巨体で体当たりを仕掛けてきた!!これは、チャンスだと思い、剣に魔力を込め、叩きつけるが、根が何十にも、ボスを覆い、俺達の剣との衝突の威力を減らす。
「チッ!!!浅いか…!!!」
俺達との衝突後、ボスは水中でまた折り返し、再び体当たりを仕掛けてきた。しかも、先程よりも、速度が増しているような…。
「今度こそ…!!!」
剣に魔力を込め、また迎え撃つ!!!だが、またしても、攻撃が本体に届いていないようだ。これは、まさか…。
「あの根に、威力が受け流されているのか…」
「その可能性はありますね。根、自体が威力を引き受け、本体に届く前に、威力を逃がす。根は壊れるでしょうが、すぐ回復しますからね…。こいつも、厄介な相手のようです…」
ボスは、再び、更に速度を上げ、俺達に体当たりをしてくる。
「クッ!!!」
根で覆われている状態で、斬りつけるのが無意味なら、ここは攻撃を逸らすのに専念したほうが懸命か…。俺は、盾でボスの突進を防いだ。しかし…。
「……、まだ、速度が上がるのか、こいつ」
何度も、何度も、速度を上げて、ボスは体当たりをしてくる。遂には、息をするまもなく、ボスの攻撃が、連続で、俺達に届くようになっていた。
「……何とかしないと、まずいな」
剣で攻撃をしようとも、ボスの足は止まらないだろう。盾で防いでいても、このままでは、何時まで持ち堪えられるか、分からない…。
「何か、手は無いのか…。何か…」
その時、俺の脳に、ある考えが閃いた。