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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第ニ章・三部 高みを目指して
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なりたいもの

 簡単に言えば、私は、ここに残ろうとは思っていなかった。確かに、出るご飯は美味しいし、主人は強いし、皆、気のいい人ばかりだが、ここには自由というものがない。野生は、野性なりに辛いところもあるが、気ままに好きにできるという強みがある。残るか、残らないかは、私が決めていいということなので、優しい主人に甘えて、しばらくしたら出ていこうと考えていた…。


「ですから、人のものを獲るのはいけないのです…!!分かりましたね!!」

「こん…!!」

「(ふーむ…)」


 しかし、ここで学べたことで、得るものもあった。確かに、自分がされて嫌なことを、他人にするのもどうか?と言う考えは、それまで生きてきた私にとって、面白いと思える考えであった。これまで、私が生きてきた野生の中では、私より大きく、力のある同種が、競いあうように餌の確保を行っていた。それは、食べれないと死ぬという、当たり前的な考えから来ているのだが、身体が大きな分、あいつらは必要な餌の量も多いのだろう…。他人の獲った獲物だろうと、執拗に狙ってくる。特に、同種の中でも体格が特に小さい、私が獲った獲物なら、簡単に奪えるだろうと、手を出してくる同種は、跡を絶たなかった。


「うーん、それは辛かっただろうね…」

「(そうなんですよ…)」


 主人は、こんな私の話にも、共感してくれるいい人だ。実際、その時の私は、同種に比べて弱く、簡単に餌を奪われる日々が続いた。なら、こちらが奪っても文句はないだろう、と言うか、奪わなければいけない…。でないと、自分が死んでしまうのだから…。だから、私は考えた。どうやれば、奴らを出し抜けるのか…。奴らに無くて、私にあるもの…。それは、スピードと、体格の小ささだった。


「狭い所に、餌を奪って逃げ込んで、よく食事をしたものです…」

「大変だったね…」

「ええ。お陰で、最近は逃げ込まずに物が食べれて、満足しています」


 それからは、その手段が私の中で、当たり前として確立されてしまった。私のいた谷の餌は、どれも大きく、自分で取る分には、力を使いすぎてしまう。その上、他の同種に奪われるとなれば、私の心が折れるのは時間の問題だっただろう…。その点、必要な量だけ、相手から奪い。自分のものにするというのは、とても効率的で、今までの復讐もしているようで、とても気分が良かった…。


「(でも、ある時、ふっと思ったんです。私は、他の同種に比べて、体格も小さく、必要な餌の量も少ない…。なら、よその餌場で、もっと簡単に、生きていけるような場所があるのではないか?と…)」

「それで、こっちに飛んできたわけか」

「(はい)」


 いつまでも奪い合いを続けるよりは、そのほうがいいだろう。私は、谷を出る決意をした。思った通り、外の餌場には、簡単に取れるような獲物が多く存在していた。多少の、危機はあったものの、谷にいた頃に比べれば、このぐらい、危機の内にもはいらない。そうやって、私は移動を繰り返し、理想の餌場を探り当てるまで、飛んで回った…。


「(そこで、いい感じの狩場だったのが、あそこにある魔力で出来た、空間内ですね…)」

「初級迷宮のことかな?」

「(多分、そうだと思います…)」


 いくら取っても、餌には事欠かない。それに、餌自体の抵抗も少ない…。その時の、私にとっては、まさに理想的だった。…しかし、多くの場所を回って、色んな物を食べるうち。いつしか、私の中に、味に飽きる、と言う考えが芽吹いていた。いくら、狩り易い狩場であると言っても、その中にいる、獲物は限られてくる…。回すように、別のものを食べていっても、その内、もっと変わったものが食べたいなぁ…、という考えが、頭のなかに浮かんできてしまうようになっていた。


「(そこで、目をつけたのが、人間が持っている食べ物です…)」 

「まぁ、学校も近いからね…。そりゃあ、そうなるか…」


 迷宮から、人間の通っている学校まで、私にとっては、お散歩程度の距離だった。その時、たまたま見てしまった、人間のお弁当に、私が目を奪われたのは、当たり前の事だっただろう…。谷での経験を活かし、すぐに私は獲物の確保に動いた。……それが、また美味かった。今まで、食べてきたものと、どこか別種の美味さを感じた…。それ以来、私は、学校に来ては、人間の弁当を狙うようになってしまった。あと、何故か惹きつけられてしまう、光るものも一緒に…。


「(今となっては、恥ずかしいことです…。私が、谷と同じように振舞っていたことが、考えなしでした…)」

「うーん、それが分かったなら。とてもいいことだと、思うよ」


 思えば、人間は私から何も奪ってはいないし。私が、人間から奪う必要はなかった…。谷での考えが、身体に染み付いてしまっていたのだ。反省しなければ…。それを教えてくれた、ミルクさん達には感謝しないといけない…。だが、それと、ここに残るかは、別の話だ。聞けば、大半を召喚石?内で過ごすこともあるようだし…、毎日、訓練もあるらしい。その上、唯でさえ強い主人なのに。それより、更に強い相手と、戦うというのだから…、正直、私としては、ついていけない…。と言うよりも、ついていける気がしない…。


「(あなたは良く、そんな所でお世話になれてますよね…)」

「こん!!ご主人様は、私の命の恩人ですから!!!」


 命の恩人…。にしても、こんな弱そうな子ですら、一緒に戦っているとは…。そんな、役に立つようには思えませんが、何か強くなる秘密でもあるんでしょうか…?ミルクさんは、仲間になるまで、その質問には答えられないと言っていたので、何かはあるんでしょう…。私が教えていただくことは無さそうですが…。


「シデンは、立派な妖怪になって、ご主人様のお役に立つのです!!」


 妖怪?って何でしょう?聞く所によると、主人が話してくれた、何処かの魔物の話のようですが…。ふーむ、その話を聞いた時。私の中で、何かが揺り動くのを感じました…。だがそれは、本当に僅かなもので、近いけど違う、と言うような、微妙な感覚でした…。


「カラスさんは、なりたいものとかあるんですか?」

「(…なりたいもの、ですか…?)」


 そう問われても、私には考えが思い浮かびませんでした。このまま、のんべんだらりと、食べ物を獲って、寿命まで過ごす…。それが、今思い浮かぶ精一杯の将来で、他に何かになりたいと、思うような考えはありませんでした…。


「(無いですね…)」

「こん!!!それは、勿体無いと思います!!ここにいる以上、何か考えがあったほうがいいですよ…!!」


 ……そうは言われても、私、ここに残る気もないんですが…。この子の中では、もう、私が残ることは、決定しているみたいですね…。そう言うやいなや…、ご主人様に聞くのが1番です!!と言われて、私は主人の元へと、連れて行かれました…。


「という訳で、ご主人様!!カラスさんに、何かお話してあげて下さい!!」

「え、…うーん、そうだなぁ…」


 主人は、こんな馬鹿げた質問にも、丁寧に答えてくれます。昔、自分が見たり、聞いたりした話を、無数にしてくれました。…その中に、いくつか、私の心を揺さぶるものがあったのですが、どうも似ているようで違う…。そのことを、主人に言うと…。


「……うーん、なら、こう言う話がいいのかもしれないね」


 と、別の話を、語って聞かせてくれました…。……その話を聞いた時、私は、胸の内が震えるのを感じました。自分でも、止まらないほどに、その話に夢中になり、自分から、主人に多くの質問をしていました。ヒーローと言うのでしょうか。その人達は、強い力があるのにもかかわらず、弱いものを助けてばかりいるのです。…幼かった私が、悔しい思いをした時に、そんな人がいてくれたなら、どれだけ良かっただろうか…。そう、考えずにはいられませんでした…。


「(……本当に、そんな人がいるんでしょうか…?)」

「うーん、実際にはいないかもしれない…。だけど、この話が、俺達に行動する勇気だったり、大切さを教えてくれているように、俺は思う」

「こん!!ご主人様もヒーローです!!!皆のために、創世級に挑もうとしておられるのですから!!」

「そ、そうかなぁ…」


 確かに、シデンが言っている通り。お話のように、無償で皆の命を救おうとしている主人は、まるでヒーローのようだ…。…格好いい。今にして思えば、私は、そういう感情を感じていたのだと思います…。こんな風に、自分もなりたいと、思えるほど…。


「これで、カラスさんは、どうなりたいか決まったみたいですね。後は、修行あるのみです!!」

「(……と言うと?)」

「ご主人様の元で修行すれば、なりたい自分になれるのです!!あっ!!その前に、ご主人様と契約しないといけませんね…。さぁ、早く、契約してしまいましょう!!そのほうが、なりたいものになる、近道です!!」


 ……私が、話の中のヒーローみたいに…。その、シデンの言葉は、大きな波紋となって、私の中に広がるのでした…。





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