包み
数分後、食事をおえて、1人、カラスが落ちた辺りにやってきた。レノンがついていくると聞かなかったので、トイレだと言うことで、ようやく1人になれた。……何故か、トイレだと言ったのに、それでも付いて来る気まんまんだったような気がするが、気のせいだと思おう。サラサとサラが、取り押さえてたけど、幻覚のはずだ…。
「で、気絶してるみたいだな…」
「(そうですね。早くとどめを刺しましょう…!!)」
いやいや、弁当狙ったくらいで一々殺すのもどうかと思うんだが…。それに…。
「……」
「おおー、これは珍しい鳥ですね」
俺の近くに、後ろから人が歩み寄ってきた。見た目は学者風の男性だが、この学校の教師だろうか?
「ふむ、気絶しているんですか?ですが、危ないですから下がっていたほうがいいですよ。えーっと?」
「ベイ、ベイ・アルフェルトと言います」
「ベイ君ですか。初めましてかな?私はこの学校の召喚魔法教師、ウイリス・ブラウンだ。よろしく。それはそうとね、このカラスは、ただのカラスじゃないんだよ。この頭の毛を見てご覧。これは、西の谷に生息すると言われている、ビッグクロウのメスに出る特徴なんだよ。つまり!!このカラスは、魔物ということになるね」
「ビッグクロウ?」
「ああ、そうなんだよ。本来のビッグクロウは、このカラスの20倍の大きさがあるはずなんだが、この子はとても小さいね。発育不良なのか、まだ子供だからなのか…。子供にしても小さいから、発育不良の子供と考えたほうがいいかもね…。ちなみにだけど、オスは、メスより大きなとさかと、こんもりとした、首元の毛を持っている。大きさから、まず間違えることもないと思うけど、こんな子もいるからね。見分けるのに使って欲しい」
「はぁ…」
ウイリスは、しげしげとカラスを眺める…。
「にしても、こんな小さな身体では、餌を取るのに相当苦労したはずだろう。…それで、西からこちらに飛んできたという訳かな?…ふむ、実に面白い…」
「あの~、先生は、どんな召喚魔法を使われるんですか?」
「うん、私かい?どんなのと言われても、普通の召喚魔法だよ。召喚魔法を無詠唱には出来ないからね。まぁ、それも私の研究の一つでもあるんだけど…」
ウイリスは、俺の質問に、胸ポケットからノートを取り出して、見せてくれる。
「ほら、これが今、僕に協力してくれている魔物たちだよ。餌代がかなりかかるけど、皆いい奴らだ」
どれどれ…。ウインドボアに、フレアホース、ロックフロッグに、ビッグバット。中級四体と、ロックバイソン…。こいつだけ、上級かな?
「多いですね…」
「ふふーん、頑張って迷宮を巡ったからねぇ!!!!でも、僕の実力では、これ以上のランクの魔物に、会いに行くことも難しそうだ…。そこだけが、今は悔しいねぇ…」
大きくリアクションを取り、ウイリスは息を吐く。
「だが!!ビッグクロウの子供を味方につけ、成長させれば上級迷宮での活動も安定する!!!こんなチャンスに出会えるなんて、人生とは、分からないものだ!!!!!!って…」
ウイリスが、気絶していた、カラスのいた場所を見る。そこには、すでにカラスの姿は無かった。
「いなーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!」
両手で頭を押さえ、のけぞった後。ウイリスは、くの字に、前に屈んでいく。…ちょっとした、ショックだったんだろう。そのまま、動かずに、固まっていた…。
「……あっ、そろそろ授業が始まるんで、僕は戻りますね。失礼します」
俺は、その場にウイリスを残し。校舎に向かって、歩き始めた。
「(た、助かったぜ…。人間…)」
「……」
ローブの中から、念話の声がする。本人曰く、ウイリスの自分を見る目に、変なものを感じたのだとか…。それで、俺が質問をした隙に、俺のローブの中に入ってきた訳何だけど…。別に、他の所に行けばよかったんじゃないだろうか…?
「(あいつ。ここ数日、私を追いかけまわしててな…。気色悪いったら、ありゃしない…)」
そうだったのか。まぁ、ウイリスも、強い仲間を得ようと必死なんだろう。ウイリスの口ぶりからすると、このカラスは、成長すれば、上級程度の魔物っていうとこか…。全然、そんな風には、感じないけどなぁ…。
「(よっと。なぁ、人間。何か食い物持ってないか?助けてくれた、お礼に、私に貢いでもいいぜ?)」
「(巫山戯たことをぬかす鳥ですね…。殺されたくなかったら、黙ってなさい…)」
「(ひいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!!!な、なんだ!!!この強大な、殺気は!!!!ど、どこだ!!!私は、逃げも隠れもしねぇぞ!!!!出てきやがれ!!!)」
そう、言いながら。カラスは、俺の肩に止まって、震えている。…聖魔級のミルクに殺気を向けられてるのに、強がりを言えるだけ、むしろすごいやつかもしれない…。
「(こら、人間!!!お前も、私を守る為に庇わないか!!!!この…)」
カラスが、俺の頭をくちばしで突こうとする。すると…。
「(グウェヘ!!!!!!!)」
どこからともなく、放たれた魔法の火・水・風・土・雷・光・闇の玉が、カラスに向かって、命中した。
「(か、……カァ………)」
そのまま、あえなくカラスは、俺の肩から落ちて、地面で気絶する。
「(マスターには、攻撃させません…)」
「(主への、攻撃は見逃せないな…)」
「(ふん!!この期に及んで、ご主人様に攻撃を加えるとは…!!やはり、とどめを刺しましょう!!)」
「(まぁ、待て。殿が、それは決めることだ。抑えろミルク)」
「(そうそう。あたし達は、主様の為に動かないと…。ここは我慢よ。我慢)」
「(で、でも!!ベイさんに攻撃したんですよ!!)」
「(落ち着いて下さい、ミエル様!!ちょっと、突こうとしただけかもしれません…)」
「(にしても、この子。態度がデカイわね…)」
「(そうですね。何も考えず、1人で生きてきたんでしょう…。むしろ、同情できるかもしれません…)」
「(こん!!だとしても!!!私の恩人である、ご主人様への攻撃は、許せません!!!)」
相変わらず、皆は俺のことを思って行動してくれている。それが、かなり嬉しい…。…にしても…。
「カァー……」
「……」
手加減されていたとはいえ、あの攻撃を受けて、気絶で済んでいるのか…。本当に、すごい魔物かもしれないなぁ…。それに、最初から、念話が使えるなんて、かなり貴重だし…。
「うーん…」
俺は少し考えた後、ローブにカラスをくるんで。教室に、戻った。