烏
あれから、数日経って、もう5月…。授業も中級魔法の解説に入り、少しは面白みが出てきた。研究会では、行く度にレノンと、サラに抱きつかれ。皆と一緒に、楽しんで訓練をしている。ニーナも、少しではあるが、魔法が上達してきた。サラサとも訓練をするが、彼女は決して俺の前では、本気を見せない…。夏の大会まで、取っておく気だろう…。ちなみに、ミオに頼んだ魔石剣は、だいぶ時間がかかるらしく、まだ出来ていない…。
「にしても…」
俺自体は、相変わらず、フィーに追いつけないでいた。今は、攻撃を、防ぐ手前まで行けるようになったが、もう一步足りない感じだ。まぁ、まだ手加減されてて、それなんだけど…。強すぎるよなぁ…、フィー。
「何とかならんものか…。いや、少しずつではあるが、前進してるんだ。このまま、頑張ろう…」
俺は、中級魔法授業を受けながら、1人、小さくつぶやいた…。少しは、面白みがあると言っても、まだまだ、知っている内容が出てくるので、たまに打倒フィーに向けて、考えを巡らせている。俺の、授業中のお供は、最近は、念話での皆との会話、神魔級回復魔法研究、フィーにどうやったら早く追いつけるか、窓の外の風景を見る、これぐらいだ。これだけあれば、授業を、退屈せずに凌げる。
「おっ…」
今日も、窓の外の木に、カラスが止まっていた。しかし、やっぱり変わってるカラスだよなぁ…。頭に、とさかみたいな、毛が生えている。いつも、俺が見える位置の木で、休んでるんだよなぁ…。その挙動が、ちょっとした退屈しのぎにはなっているよ。ありがとう。そう考えていると、午前の授業がおわった。
「ベイ君、ご飯食べに行こうー」
「ああ、サラサも来たら、すぐに行こう」
最近は、もう、ニーナと、サラサと、ごはんを食べるのも習慣化してきてるよなぁ。嬉しいことだ。で、サラサが来たんで、合流して食堂に行ったんだが…。
「…なんでお二人までいるんですか?」
「そりゃあ、ベイ君とご飯が食べたいからに、決まってるじゃん!!」
「ねー」
食堂に行く途中の道で、レノンと、サラが現れた。そのまま、勢いで食堂に引っ張られて、今は4人で座っている。なんだ…、また頼み事か、何かかと思ったけど、普通にごはんを食べるだけなのか。杞憂だった。
「なら、食べましょうか…。で、両手を掴まれていると、食べれないんですが…」
「平気、平気!!」
「私達が、食べさせてあげる!!!」
俺の両手は、2人の胸が押し付けられ、太ももに挟まれ、股付近にも触れている。…食事するには、ちょっとエロ過ぎる体勢では、ありませんかね…。
「うわぁ!!!ベイ君の、お弁当!!!すごい!!!」
「美味しそう…」
まぁ、アリーが作ったお弁当だからね。毎日、俺も楽しみにしている。しかも、最近また、レパートリーが増えたようで、アリーの、料理の進化は留まることを知らない。
「はい、ベイ君。あーん!!」
「あ、あーん…」
「美味しい?」
「お、美味しいです」
食堂でこれは、さすがに恥ずかしすぎるんだが…。特に誰も、注目しては、いないな。良かった…。
「はい、私も、あーんしてあげる」
「あーん」
「ふふっ、なんか幸せだなあ…」
サラは、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「うーむ…」
サラサは、そんな二人の行動を見て、腕を組んで、なにか考えている。そのあと、サラサの弁当の中にあった肉巻きを、すくい取り…。
「ベイ、あーんだ…」
「あ、あーん…」
「どうだ、美味いか?」
「うん、美味しいよ」
「そうか。なら、良かった」
濃厚な肉の味に、上からかけられた、程よいソース。うん、たしかに美味い。サラサは、サラサで、アリーとは違った、魅力のある料理をするよなぁ…。
「サラサちゃんのお弁当、手作り?」
「ええ、そうです」
「ふーん、……次から私も作ってみようかなぁ…?」
「ここまで、クオリティーの高いのは難しそうだよ…」
そう言いながら、2人は、アリーの弁当を見る。まぁ、アリーの弁当は、センスの塊だからね。ちょっとや、そっとじゃ超えられないと思う…。
「「「待てこらーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」」」
いきなり、外から、怒声が聞こえた。複数人の生徒が、空を見上げて、何処かに走っていく。…一体、何だろうか?
「ああー、これって、もしかして?」
「噂の泥棒?」
泥棒?噂の?
「この学校内に、泥棒がいるんですか…?」
「うん。噂だとね…」
「お弁当のおかずが勝手に消えたり。身につけていた、アクセサリーが無くなったり…。ともかく、狙われている物の、意味は分からないんだけど、その犯人は、ものすごく早くて、目で追えないくらいなんだってー」
「皆、黒い影を盗まれる前に目撃したって、言っているみたい。私達も、注意しないとね…」
ふーん、黒い影ねぇ…。…にしても、盗まれている物の共通項から考えて、あの生物なんじゃないか?いや、普通のあの生物は、目で追えないくらい、早くはないよな…。
「(…ご主人様、気づいてます?)」
「(ああ、どうにも、さっきから視線を感じるな…。主に、俺の弁当を見ているようだが…)」
俺は、気配のする方向の木を見る。
「……カー」
あの頭の、とさかのような毛。間違いない。俺がいつも、授業中に見ているカラスだ…。
「………」
あのカラス、俺と目が合っているのに、怯みもしないどころか、より、俺の弁当を見ているように思える…。…流石に、アリーが俺のために、愛情込めて作ってくれた弁当だ。やるわけには、いかないなぁ…。
「(ご主人様の弁当に目をつけるとは、命がいらないと見えますね!!ご主人様!!先制魔法で、さっさと倒してしまいましょう!!!)」
「(落ち着け、ミルク…。まだ、取りに来ると、決まったわけでは…)」
ズバァァンンン!!!!!!!!
それは、一瞬だった…。カラスが、ものすごい速さで、俺の弁当目掛けて飛来する。…だが、その動きを確認した俺の魔法によって、カラスは地に撃ち落とされた…。いけない、結構、威力を込めて撃ち落としてしまった…。あのカラスは、大丈夫だろうか?
「……カァ……」
「(ちっ!!まだ息があるみたいですね!!!)」
うーん、弁当を食べたら、ちょっと覗きに行ってみるかな…。それまでは、倒れててもらおう。俺は、皆との食事を再開した…。
最近忙しくて、なかなか更新できませんね。土日は、頑張って更新したいと思います