丘の下での戦い
俺達から少し離れた所に、それは丘の上から降ってきた。それは、巨大な岩だった。着地の衝撃で、地面には凹みが出来ている。地面に突き刺した石の剣を引き抜き、左手の盾を構えその岩はゆっくりとこちらに歩いて来た。ゴーレム・ナイト、と言ったところだろうか。造形的には、鎧を着込んだ戦士のようにも見える。今までの戦闘とは、違う感覚が俺の中に響いていた。
「フィー、援護を……」
ズドォォォン!! という音を立てて、ゴーレム・ナイトは大きく一足で移動すると俺目掛けて石の剣を振り下ろしてきた!! このての鈍重な魔物は、重いから遅い。という固定観念があったが、今の一撃はそんなことがなくかなり早かった。風魔法でとっさに移動しなければやられていただろう。フィーが、風魔法でシールドを張ったようだったが、それごとお構い無しに切り裂いてきた。……簡単には、防げ無い威力もあるようだ。
「くっ……」
俺とフィーが、移動しながら魔法で攻撃する。俺は、ゴーレムの後ろに移動しながらアクアブラストを4つ。フィーは、前側に距離を取りながらウインドブラストを3つ撃ち込んだ。ゴーレムは、振り下ろした剣を俺の方に向け剣の側面でアクアブラスト4つを叩き壊す。左手の盾で、フィーのウインドブラスト3つを防いだ。魔法を防御すると、即座に飛び退き俺とフィーを正面に捉える位置まで移動する。盾を構え魔法に注意しながらも、攻撃のチャンスを伺っているようだった。俺の感じていた感覚は、確信に変わりつつあった。
(強い……。気を抜いたら、殺されるほどに強い)
全体的に技量が高く、対処しにくいのもあるが。どうやらこいつには、戦術があるようだ。動物的に突っ込むのではなく、相手の動き自分の立ち位置、それらを考慮して動いている。しかも、俺とフィーを同時に相手に出来るほどの力量があるのだ。確実にあの剣での攻撃を一回でも受けたら、俺でもフィーでもその場で死ぬだろう。かつてない危機的状況なのに、俺は自然と笑っていた。
(強い……、欲しい)
俺は頭の中で、こいつを仲間にするとすでに決定を下していた。なる、ならないではない。するのだ。この巨大な岩の魔物を、実力で従える。今日の残りの時間、全てをこいつにかけてでも仲間にしてみせる。それぐらい俺は、こいつに興味を持っていた。固い魔物も斬り潰せそうな技と攻撃力。魔法・物理的な攻撃を防ぎきれそうな技量。俺が欲しいと思っているものを、こいつは全て持っている。
「フィー、こいつに話しかけてみてくれ!!」
近づかれても困るので、グランドスピアを放つ。ゴーレムのいる地面から、ゴーレム目掛けて土の槍が飛び出した!! ゴーレムは後ろに飛び退くが、すぐさまアクアブラストを撃ち動きを牽制する。アクアブラストは、正面に構えられた盾で受けられた。
「う~ん、反応がありませんマスター!!」
「それでもいい!!今から言うことを伝えてくれ!!俺が勝ったら、俺に従えってな!!」
「分かりました!!」
「あとフィー。こいつとの戦いをしている間、手を出さないでくれ。こいつとは俺がやるから、周りの警戒を頼む」
「え、でも」
「こいつに、俺の実力を見せる必要がある。こいつを従えられるほどの力があると!!俺は、こいつに勝つ!!だからフィー、俺を信じろ!!」
「……はい!!」
俺は、ゴーレムに対して一歩前に出る。ゴーレムも俺を見据え、俺の前まで移動しまた武器を構えた。フィーの言葉が、届いているのかは分からない。だが、通じていなくても分かるだろう。魔物でも、こいつは戦士だ。言葉でなくても、俺の気迫が通じているはずだ。一騎打ちをしよう。ってな……。
張り詰めた空気が流れる。俺とゴーレムはお互いに動かないが、牽制をし合っていた。沈黙を破ったのは、ゴーレムだった。剣を横薙ぎに、俺目掛けて一閃する。俺は、風魔法で横薙ぎの剣を飛び越えゴーレムの懐に飛び込んだ。こいつには、遠距離の攻撃も全て防がれてしまう。ダメージを与えるには、接近戦での魔法攻撃しかない。
懐に飛び込もうとした俺だったが、それが分かっていたのか岩の盾に進行を遮られた。ゴーレムは、そのまま岩の盾に張り付いた俺を叩き潰そうと盾を地面に叩きつける!! ズドォン!!!! という音と共に、地面が凹んだ。すかさずゴーレムの左手横側に飛んで俺は難を逃れたが、あの光景を見ただけで肝が冷える。ゴーレムは、盾を振り下ろしているので攻撃するなら今しかない!! アクアブラストを4つ放つ。 だがゴーレムは、直ぐ様姿勢を低くし瞬時に盾を構えこれを受けきった。
「ちっ!!」
続けてアクアブラストを放ち牽制するが、お構いなしにゴーレムは、盾を構えたままこちらに突進して来た。アクアブラストを盾ではじき、横薙ぎに斬りつけて来る!! 俺は避けずに、ゴーレムめがけて滑り込んだ。グランドウォール。土の壁を作り、敵の攻撃を防ぐ魔法。普段はこれを応用してベンチや机を作ったりしている。それが横薙ぎに振り下ろされていた剣を、下から突き上げた。込める魔力を上げ高威力で下から出てきた土の壁に、ゴーレムの腕は跳ね上げられる。ゴーレムの足を風魔法で避けながらくぐり、後ろを取った。ゴーレムが振り向こうと止まるが……。俺はすでに、ゴーレムの首の後ろに張り付いていた。
「おわりだな」
まだだ!! と言わんばかりにゴーレムが後ろに倒れ、俺を潰そうとする。
(そう来ると思っていた!!)
グランドウォールで、ゴーレムの身体を捕らえ固定する。ゴーレムは、パワーがあるためいつまでも捕らえてはおけないが少しで充分だ。俺は、ありったけのアクアブラストをゴーレム目掛け連射した!! ズドン!! ズドン!! と、命中するたびに、音がなる。最初は耐えていたが、度重なる衝撃に耐えきれず、徐々に前のめりにゴーレムは傾き始めた。重さと衝撃で、拘束していたグランドウォールを潰しながらそのままゴーレムは地面に倒れふす。
俺は、ゴーレムから飛び退いた。これで向かってくるなら、その時は何度でも相手をするまでだ。気を抜かず俺は、ゴーレムを見据えた。ゴーレムは起き上がり俺の前に立つ。ゆっくりと膝をつき、俺に頭を下げた。
……よかった。内心ヒヤヒヤの戦いだった。アリーとの特訓がなければ、死んでいただろう。俺は、心の中で息を吐いた。戦っている間は身体が熱かったが、ギリギリの戦闘を思い出して一気に身体が冷え始めた。後ろで、フィーが拍手してくれている。ありがとうフィー。頑張ったよ、俺……。
ゴーレムが、剣を両手で俺に渡してきた。
(……これ、あれか?騎士の、任命みたいなやつか?)
つまり、この剣で俺に誓いをたてさせろ。と、いうことだろうか?こんな巨大な石の剣を、俺に持てと……。や、やってやろうじゃないの!!
「フィー!!風魔法で、俺がこの剣を持つ手伝いをしてくれ!!」
「はい、マスター!!」
俺は、渡された剣の柄を持つ。火魔法で身体力強化、土魔法で硬化、風魔法で剣の重さ制御。足りなければ、土魔法のグランドウォールで支え台でも作ろう。
(ふぅ……、よし、やるぞ。あがぁぁぁぁぁれえぇぇぇぇぇぇ!!!!)
俺は、全力を使って石の剣を持ち上げた。やばい、俺すごい!! もう一回、自分を褒めたい!! たぶん、今の俺の顔は真っ赤だろう。俺は、すぐさま剣をゴーレムの肩に置いた。
「これからお前は、俺達の仲間だ。よろしく頼むぞ!!」
俺は剣をもう一度持ち上げ、あぁぁぁ、やばい!! 重いよこれ!!!! どんだけ、どんだけ重量あるんだよ!!!! ……ゴーレムに返した。
「ぜぇ……、ぜぇ……、ぜぇ……」
かなり疲れた。しかも、戦闘とあまり関係のないことで。だがついに2体目の仲間を、俺は手に入れたのだった。