製作交渉
次の日の放課後。闘技場の一区画を借りて、練習試合は行われた。その場には、レラの研究会の会員もいる。せっかく借りたんだし、今日はこっちでの練習をしたい、ということらしい。
「よーし!!!2人共、気合入れて頑張って!!!」
「やっと、戦えますねベイ君」
「ああ、そうだな…」
ミオは、ゆっくりと剣を抜き放つ。彼女の口元が、笑っているように釣り上がり。逆に不気味さを漂わせていた。素振りのように、数回、剣を振ると、剣に書いてある呪文が赤くなり、魔力が剣を包んでいく…。
「ふふっ、やっぱいいわね…」
何と言うか、威力の有りそうな剣だ…。赤く光ってるのも、剣の軌跡が分かって、面白い。ミオの顔から察するに、相当な価値のある剣なんだろう。ミオは、煌めく刀身を見つめて、うっとりとした顔を浮かべている…。
「ふむ…」
ところで、俺の剣はどうだろう?毎日、手入れを怠っていないから、刀身は綺麗に光っているし。なにより、しっくり手に馴染む。極めつけに、アリーに、貰った剣だ。俺にとっては、どんな剣よりも価値がある。思えば、ずいぶん長い間使ってるなぁ…。こいつと一緒に、何回もの戦闘をこなしてきた…。特殊なところはないけれど、十分に、こいつはいい剣だ。相手の剣が、どれだけすごかろうと、俺にとって、こいつに勝る剣は無い…。
「へー、いい剣ね。この子ほどじゃあないけど…」
俺が、自分の剣を見ていると、ミオも俺の剣を見ていたのか、そう言ってきた。まぁ、悪い気はしないな。赤く光ったりはしないから、相手より性能は低いのかもしれないけど、そこは、俺の腕でカバーすればいい。今日も、頼むぞ。そう思いながら、俺は剣を軽く振って、気合を入れた。
「よーし!!!それじゃあ、試合を始めようか!!!」
レラの合図で、俺達はそれぞれ構える。周りで、準備運動をしていた、他の研究会の人達の目が、こっちを向いている気がした。
「ベイー!!!ファイトー!!!!!!」
アリーの応援の声が、耳に届く。……、絶対勝つ!!!!!!!!そう、思わずにはいられなかった。
「それじゃあ…、始め!!!!!」
レラの合図とともに、ミオは魔法を放つ。無詠唱で、その弾数は10発。全ての魔法が、剣の刀身から放たれている。………やっぱり、魔法威力増幅の剣、ということだろうか?
「うーん…」
アリーは、ミオの剣を観察している。魔力の動きを眺めているんだろう。俺は、普通に10発の魔法を展開して、迎撃した。
「へー、易々とあの弾数を防ぐなんて、やるわね…」
つい最近、隕石が無数に降ってくる魔法を相手にしたから、それからすると、楽なのもいいところだけど…。実際の年齢的には、このぐらい弾数出せればいいほうなのかなぁ…?でも、アリーは訓練の時に、余裕で30発同時撃ち、とかしてくるからなぁ…。アリーは、やっぱりすごいんだなぁ…。
「なら、これはどう?」
今度は、上級程度の魔法を、1つずつ放ってくる。俺も、丁寧に、一個ずつ相殺した。…うん?何かおかしい。これだけ、連続して撃ってるのに、この年齢の子にしては、魔力量が多すぎじゃないか?いくら、魔力消費を抑える剣と言っても、流石に限界があるだろう…。だが、ミオは、お構いなしに魔法を連発してくる!!
「次は、これ!!!!!」
広範囲に広がった炎の壁が、俺を押しつぶさんと、迫ってきた。ピンポイントで、俺に当たる部分のみ、相殺して魔法を消す。
「はああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
魔法を消したところから、ミオが俺に切り込んできた。横薙ぎ、袈裟斬り、と続けて剣を振るう。俺は、自分の剣で、その攻撃を受け止めた。…、昨日、攻撃を受けた時より威力が高い。強化魔法を、使っているようだ。でも、本当にお構いなしに、魔法を使うなぁ…。何か秘密があるんだろうか…?
「でええええあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
気合を入れた、ミオの一撃が振り下ろされる!!が、今の俺なら、強化魔法をかけて、防ぐまでも無い。横から剣を当てて、ミオの剣を弾いた。
「うわぁ!!!」
そのまま、持ち手で、ミオの剣の柄部分を叩き。ミオの腕から、剣を離させる。すっ飛んだ剣は、闘技場を滑り、少し先に転がった…。
「あっ…」
俺は、ミオに剣を向ける。…これで勝負は決まりだろう…。
「……なんてね」
転がった剣が、赤く輝く。瞬時に、宙を飛んで、剣はミオの腕に戻ってきた。ミオは、そのまま再び、俺に斬りかかる…!!
「やっぱり、すごい技量ね。とてもそっちでは、敵いそうに無いわ…。だから…!!!!!」
ミオの剣が、俺の剣を狙うように振り下ろされた。こいつ、武器破壊を狙っているのか…。
「あなたの並外れた技量も、剣がなければ意味が無いもの。それさえ無くなれば、後は、私が勝つ!!!!!」
………、余程、魔力に自信がある、ということだろう。まぁ、この剣がなくても、俺が負けることはないだろうけど、こいつを壊される訳にはいかない。アリーとの、大切な思い出のある剣だしな…。俺は、ちょっと本気をだすことにした。
「え…?」
今までは、受けているだけだったが。今度はそのまま、力に任せて、相手の剣を押し返した!!軽々と、強化魔法をかけているミオの身体が、宙に浮く…。
「…くっ!!!!」
何とか、体勢を崩さず、着地したミオだが。俺は、そのまま足払いをした。今度こそ、ミオは体勢を崩し、地面に尻もちをついてしまう。
「うわっ!!!」
その間に、俺の剣は、ミオの首筋に押し当てられた…。ミオは、その事実に気づき、動きが止まる…。
「…ベイ君の勝ちいい!!!!!!」
レラの合図で、試合が終わる。俺は、ミオからゆっくり離れると、剣を鞘に戻した。
「はぁ……。完敗ね…」
ミオも起き上がると、剣を鞘に戻す。
「うん」
ふと、ミオは握手するように、腕を差し伸べてきた。取り敢えず、俺も握り返す。
「次は、私の剣が勝つからね…」
「え、ああ…。楽しみにしてるよ」
……この学校の女子は、負けん気が強いなぁ…。…それにしても、幾つか気になる点がある。俺が、そう思っていると…。
「あなた、ミオって言ったかしら?」
「うん?えっと…」
「申し遅れたはね。私は、ベイの嫁の、アリーって言うの。よろしくね」
「よ、嫁!!!ええ、よろしくお願いします…」
「それで、幾つか質問があるのだけれど、ここじゃなんだし、場所を変えないかしら?」
「場所を?何が聞きたいんですか…?」
「その剣について、ちょっとね…」
「………分かりました。では、向こうで話しましょう…」
「分かったわ。じゃあ、ベイ、一緒に行きましょう」
「えっ?ああ、うん」
俺達は、レラに一言、話してから。闘技場の、人通りがない裏手で、話し始めた。
「……単刀直入に言うけど、その剣、空気中から魔力を吸い上げているわよね?」
「…!!!!!!!!!!!……ええ、その通りです。何故、知っているんですか?」
「さっきの試合中に、魔力の流れを見てたからよ。面白い機構ね。魔力を自ら溜め込んで、放出することが出来る魔石の剣。良いものだわ…」
「!!!!ふふっ、そうでしょうとも!!!この剣がある限り、私は無限に魔法が撃てる…!!!私の、最高傑作です!!!!!」
「へー……」
確かにすごいな。そんな剣、魔法使いとしては喉から手が出るほど、欲しい剣じゃないか?
「でも、一定以上の魔力を貯めれず。一定の威力の間でしか魔法を出すことが出来ない…。そう言う作りよね?」
「……ええ、その通りです。この剣ですと、上級魔法1発分ですね。その容量内でしたら、複数発に分けた、魔法の射出も可能です。あの短い時間で、そこまで分かるとは…」
「ふふ、まぁ、私、天才だからね…。で、質問なんだけど。その容量を上げる方法ってある?」
「えっ、………あ、あるにはあるんですけど……」
「もしかしてだけど…、高純度のランクの高い魔石を使えば、容量を上げられるんじゃないの?」
「………え、ええ。その通りです…。でも、高ランクの魔石は高いですから、とても手が出ません。この剣の素材以上の魔石となると、家が買えてしまいますし…」
……俺、それをぽんぽん量産できるんだよなぁ…。……もしかして、俺。もう、働かなくてもいい?
「ふむ、なるほどね…。ねぇ、高ランクの魔石で、剣を作ってみたくはない…?」
「いや、確かに、作ってみたいですけど…。お金が…」
「作った剣をくれるなら、魔石を提供してもいいわよ…?」
「!!!!!!!ほ、本当ですか……?」
「ええ、それもとっておきの、神魔級クラスの魔石をね……」
アリーはそう言うと、俺に笑顔で微笑んだ…。