次段階
サラサとの練習を始めて、今更ながらに俺は気づいた…。己の、異常な成長具合に…。
「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
サラサの木剣が、上から振り下ろされる。何かしらの強化もかけていない、素の腕力での攻撃だが。それを受け止めた俺は、少し地面にめり込んだ…。普通の人間なら、こんなの受け止められるはずがない。だが、今では俺も、強化魔法をかけずとも。このくらいの攻撃なら、微動だにせず受け止めることができている。
「ふっ。やるなぁ、ベイ…!!!」
サラサに、お褒めの言葉を頂いたが、実は俺は必死だった…。何故って、サラサの攻撃は、どれも重い一撃で、威力もあるし、スピードもある。そんな攻撃を、まともに受け続けたら、俺の持っている木剣が保たない…。そう、俺はサラサの攻撃の威力を、いかに逸らすかに必至になっていた…。さっきの一撃も、斜めから、こちらの木剣を近づけることで、威力が完全に乗り切る前に、受け止めた。でも、俺、ちょっとめり込んでたんだよねぇ…。サラサ、恐ろしい子…。
「はい、はい。10分経ちましたよ!!交代しましょう!!」
「む、もう、そんなに時間が経っていたのか…。楽しい時間は、あっという間に、過ぎるものだな…」
「では、次は私が。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
ミオの剣は、なかなかに洗礼された動きをしていた。確かに、技量はあるが、そこまですごいという程でもない…。やはり、彼女の強さの秘訣は、あの剣か…。
「……、聞いた通り、只者ではないですね。明日が、楽しみです、ふふふ……」
「…………」
笑い方が、怖ええええええええええええええぇぇぇ!!!!!!どこと無く、彼女の内にある狂気を見た気がする…。いや、それだけ、あの剣に自信と、信念を注いでたって、ことかもしれないなぁ…。
「ミオ、はしたないですよ…」
「あら、ごめんなさい、ミラ。なんだか、久しぶりに、楽しくなってしまってね…。高い壁に、私の剣が挑戦するのって、いつでもわくわくするわ…。ふふふっ…」
「…………」
その表情で、楽しいのかぁ…。俺には、今にも危ないことをしでかしそうな表情に見えるんだが…。周りの皆も、ちょっと引いてるから、そう見えてるのは、俺だけじゃないだろう…。
「じゃあ、ベイ君…。次、私ね!!」
「あ、レラ。帰ってきてたのか…」
「ふふーん!!バッチリ、明日は使えるように、予約してきたからね!!明日は、よろしく!!」
「え、ああ、分かった」
「よし!!じゃあ、練習再開…!!!」
そうやって、時間になるまで、俺は会員たちと、練習試合をし続けた…。
*
「ふーむ、ストレイド?ストレイド?どっかで聞いたことがあるような…」
今日の練習もおわり。俺は、愛する嫁の元へと帰ってきた。夕食の支度を、協力して行い。その夕食を食べながら、今日あった出来事を話す。すると、アリーは、ストレイドという単語に、興味を示した。
「ちょっと待っててね、えっと、確かここに…」
アリーが取り出したのは、分厚い武器辞典だった。タイトルは、特殊な武器の作成と、その効果。うん、分かりやすいタイトルだと思う。
「えっと、……あった!!ここよ、ここ!!」
「どれどれ…」
ジミー・ストレイド作、晶石剣。この剣は、刀身から、持ち手に至るまで、魔石で製作されており。使い手は、より高威力の魔法を、少ない魔力で撃つことが出来る様になる。なお、その製作方法は、秘匿されており、今尚、解明されていない。
「へー、面白そうな剣だね…」
「そうね…。うーん…」
何か、アリーは腕組みして悩んでいる。一体どうしたんだ…?
「うーん…。決めた!!明日は、私も付いて行くわ!!!」
「えっ!!研究会に…?」
「そう。ちょっと、そのストレイドって子の剣を、見てみたいのよねぇ…」
「うん。なら一緒に行こう」
「ええ。ベイの活躍も見れると思うし、楽しみだわ」
そんな感じで、明日の練習には、アリーも来ることが決まった。
*
「…………、全然、歯がたたない……」
「…お気になさらず。マスターなら、すぐに、このぐらいに成れますよ…」
いやいや…!!!!今のフィーは、皆を足したような力を持っている訳だから、そんな簡単に俺が敵うはずないだろう……!!!!!前に、聖魔級に成った時のレムとの、練習以上の絶望感を、今感じている…。こんな実力差で、どうやって相手しろっていうんだ…。理不尽極まる…。
「……だからと言って、創世級との実力差は、確実にこの差以上…。……はぁ……。よし!!やるか!!!フィー、とことん付き合ってもらうぞ…!!!!」
「はい!!マスター!!!!」
そのまま、フィーと短時間ではあるが訓練をした。おわってみれば、俺はこの短い間に、何回死んでいたことだろう…。正直、自分の小ささを再確認したような、練習だった。やっぱり、皆の力ってすごいんだなぁと、改めて感じた…。今は、フィー1人で、この力に成っている訳だけども…。
「ぐっ、はぁ、うっ、はぁ……」
ここまで体を鍛えた俺でも、短時間で、この有り様だ。聖魔級強化を常にかけて、己の身体の動きを常に全開で…。そこまでやっても、今のフィーの動きは、捉えきれない…。もう、身体に負荷がかかりすぎて、死にそうだ…。
「ああー、回復魔法、覚えててよかったー……」
自分に、聖魔級回復魔法を使う。ほんと、何故か自分に使う分には、普通の回復魔法なんだよなぁ……。それ以外には…。まぁ、いつも通りというか…。
「こん?」
「おっと、シデンにはまだ、ご主人様の回復魔法は、早いですよ…!!!癖になってしまいますからね…!!!」
「こん…!!!」
ミルクに止めらたが、シデンは、1回、回復して貰ってるから大丈夫ですよ。という意志を念話で送った…。……うーん、あの時と状況が違うからなぁ…。まぁ、受けないほうがいいと思う…。
「あの時は、大怪我でしたからね。でも、今、あの回復魔法を受けると…。ああ、とても筆舌には尽くせない幸福が…!!!!!!!!!!」
「こん?」
ミルクの大げさなリアクションでは、伝わらなかったのか。シデンは、首を傾げている。まぁ、シデンにかけるにしても、また今度だな…。……、よし、だいぶ体力が戻ってきた。そろそろ、うちに帰って、眠るとするかな…。
「お疲れ様です。マスター」
「ああ、ありがとう。フィー」
フィーに、タオルを渡されて汗を拭く。うーん、俺が、今のフィー並に強くなるには、どれだけ時間がかかるんだろう?想像もできないな。まぁ、やるだけやるしかないか…。創世級との差を、一歩ずつでも埋めないと…。
「うわああああ!!!!!!そっち行ったっす…!!!!!」
「ひゃあああぁぁ!!!!ミエル様!!!援護を…!!!!」
「任せて!!!!!よっと!!!!!!」
「私も、援護します!!!!2人共、体勢を立て直して!!!」
「「は、はい!!!」」
うーん、あの4人も、だいぶ、ミズキ地獄で動けるようになってきたなぁ。俺も頑張らないと…。……、それにしても、なんだろう。シスラ、サエラ、シゼルが皆と、魔力に違いが出ているような…?今まで、こんな見え方したことなかったなぁ…。見えない所でも、俺は変わっているんだろうか…。
「……まぁ、考えても仕方ない。今日は、身体を洗って、寝よう。おーい!!!皆、そろそろ帰るぞー!!」
「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」
集まってくる皆を、見た後。俺は、自分の腕を見る。……、普通の人間だよな…。
「どうしました、ご主人様?」
「いや、何でもない。よし、帰るか」
転移で、部屋に帰る。俺は、アリーと、皆の顔を見ながら、変わりつつある、自分への恐怖を投げ捨てた…。