職人との遭遇
「ふむ…。そんな面白いことになっているのか……。ならば、私も行くぞ…!!!」
お昼に、サラサに昨日の話をしたら、そう言われた。
「ベイとの訓練。とても胸が踊る話だな…!!」
サラサは、子供のように目を輝かせている。……、ときめくかなぁ、訓練って…。いや、俺と、ってところは嬉しいけども。
「あ、あの!!また、私も行っても良いですか…?」
「え、ああ、勿論、全然いいよ!!ニーナも、入会を考えだしたってことかな?」
「そ、そうですね。昨日、レラさんに分かりやすく教えて貰えましたし、ちょっと気になってます…」
なるほど。ということは、今日は3人で、押しかける訳だ…。俺に会いたいって人が、誰かは知らないけど、面倒なことにならないといいなぁ…。そう思いながら、俺は食事を進めた。
*
「ベイ君~!!!」
放課後になり、校舎前で待っていると、いきなり正面から飛びつかれた。丁度、顔の前に胸がある。柔らかい…。いい匂い…。
「もう、レノン。そんな頬ずりしないの。ベイ君が、前が見えないでしょう?」
「あ、そうね…」
するすると、俺から降りて、レノンは俺の腕を取る。相変わらず、俺の手を、太ももに挟むのは、忘れない。
「で、私はこっちっと…」
反対側の腕に、サラが抱きつく。
「ふむ、では私は後ろにしよう…」
そしてサラサが、後ろから俺に寄り添った。…って、いつ来たんだ!!サラサ!!!さっき、前が見えなかった時か!!!!
「え、えっと、私は……」
あ、ニーナ。別に、無理に俺に抱きつこうとしなくていいんだよ…。空気を読んでのことだろうけど、もう前しか空いてないし。この状態で抱きつくとなると、さっきのレノンみたいにしか、ならないからね…。
「お?なら、私は、ニーナちゃんに腕を譲って、前に……」
「いや、流石に、それで研究会まで行くのは、恥ずかしいんじゃあ……」
「う、それもそうね……」
良かった。そこに気づいてくれて、とても良かった…。でも、胸が目の前にあった状況は、名残惜しい……。帰ったら、後で、皆にして貰おう…。
「ふむ。それではニーナは、私と一緒に、ベイの背中を押そう…」
「は、はい!!」
「よし、準備出来たし!!研究会に向かってしゅっぱーつ!!」
いや、どういう状況なんだこれ!!!…ともかく、俺は四人に連れられて、研究会活動に向かった。
*
「あっ、いたいた!!ミラちゃん…!!!ベイ君、連れてきたよー!!」
「うん?」
俺は、4人に連れられて、活動場所についた。うん?ミラ、なんかいつもと、髪型違わないか?ほんの少しだから、気分の問題かな?それに、いつもは持っていない、剣でも入ってそうな、細長い袋を持っている。
「ふむふむ…、これがベイ・アルフェルトかぁ……。意外と、普通ね」
「え?」
「ミラちゃん、何言ってるの?…ベイ君のこと忘れちゃった…?」
「先輩、ミラは私です…」
「え?」
遠くから、いつも通りのミラが駆けて来た。と言うと、こっちの子は…?
「どうも初めまして。ミラと双子の、ミオ・ストレイドと申します。今日は見学に来ました。よろしくお願いします」
「え、ああ、よろしく」
「よろしく」
レノンと、サラは、驚きながらも挨拶をする。へー、双子だったのか。知らなかった。
「さて、今日、わざわざ見学しに来たのには、理由がありまして……」
「理由?」
「ええ。ミラから、ここに新入生最強の子が、いると聞いたものですから……」
「新入生最強……。ああ、ベイ君のことね!!」
「ええ、そう聞いています…。そんなに強いんですか…?」
「ああ、ベイは強いぞ…!!」
「なんて言ったって。毎回、闘技大会でも好成績を残す、うちの研究長が、全く歯がたたないからね!!」
何故か、レノンと、サラサが嬉しそうに、俺が、いかに強いかを語っている…。……何か、照れるなぁ。
「………という訳で、ベイは、私が今まで見てきた実力者の中でも、抜きん出ている実力を持っていると思う…!!」
「うんうん。私達を長時間相手にして、息切れもしない体力を持ってるし。サラサちゃんの考察通りで間違いないと思うよ!!やっぱり、ベイ君はすごいんだねぇ……!!」
「なるほど……」
……なんだ、嫌な予感がするなぁ。ミオって子の、俺を見る目が怖い…。怖いというか、完全に殺気を感じるんだけど、これ……。ちょっと、警戒しないといけないかなぁ……。
「……」
ミオは無言で、持っていた袋の口を開けようとする…。ミラは、そのミオの腕を、やんわりと押さえた。
「…何をする気?」
「何って、実力を見るなら、これが1番でしょう…?もともと、そのつもりだったし…」
「……やめといた方がいい」
「うーん、いつも通りの反応ね。そんなに、彼が心配?でも、強いんでしょう?」
「確かに、いつも似たようなこと言ってる…。でも、今回は、ミオがヤバイ…。だから、やめといた方がいい…」
「……まさか、私の心配をされるとは思わなかったわ……。まぁ、それならそれで面白そう」
ミラの静止も聞かず、ミオは、袋から剣を取り出す。……何だあれ。鞘からして、禍々しいんだけど。彫り込んであるの、あれ全部呪文か…?
「さぁて、ベイ君。よかったら新入生最強と言われる、その実力。見せてもらえないかな?勿論、真剣を使っての勝負でね……」
ゆっくりと、ミオは剣を抜き放つ。その剣の刀身にも、無数の呪文が彫り込まれ、言い知れない禍々しさを放っていた。ミオの魔力を受けて反応しているのか、彫ってある文字が、赤く輝き始める…。
「ストレイド家は、鍛冶師の家系…。丁度、私の、最高傑作の相手を出来る人材を、探していたところなの…。話を聞く限り、君なら丁度良さそうね…」
うん?鍛冶師?何で鍛冶師が、この学校に?……実際に、武器を作るなら、使い方を覚えろ的なやつだろうか?……ともかく、ミオはやる気みたいだけど…。さて、どうしたもんか…?
「……、ずるいぞ」
「え?」
「ずるいと言っているんだ…。…私でさえ、まだベイと手合わせをしていない…!!!」
サラサが、子供のように駄々をこねる。そうなんだよなぁ…。結構、忘れがちだけど、サラサも若いんだよなぁ…。
「ベイと、少しでも対等に戦うために、放課後は毎日、一緒に帰るのを惜しんで、私は練習しているというのに。こんな、今日会ったばかりの女が、ベイの相手を……!!!!うぐぐぐぐ…!!!」
……、いや、落ち着こう、サラサ。しょうがないので、背中を撫でてなだめる。
「ひっぃう…!!!な、なんだ、ベイ!!いきなり!!!お、驚くじゃないか…!!」
「まぁ、まぁ…」
しばらく撫でていると、サラサも大人しくなってきた…。
「い、いや、そのだな…。私が、先に戦いたいというか…。頑張って、大会まで我慢しているのに、他の奴が先に、と言うのは、気に食わないというかだな……」
「うんうん…。サラサの気持ちは、良く分かった…。よし。後で、練習試合でもしてみるか…?」
「ほ、本当か…!!!!」
「ああ…。本番前でも、練習くらいならいいだろう…?お互いの実力を、もっとよく知る、いい機会にもなるし……」
「ベイを、よく知る……。うーん、いい響だなぁ……」
そ、そうかな…?と、取り敢えず、サラサは落ち着いたようだ…。で、ミオの方はどうするかだが…。
「流石に、真剣でって言うなら、ここではちょっとさせられないのよねぇ……」
そう言ってきてのは、レラだった。やっぱり、事故とかあるといけないだろうからなぁ…。そうだと思った。
「え、そうなんですか?他の研究会では、結構、そのままの感じで勝負できたんですけど…?」
「他の研究会…?ああ、闘技場の方の研究会なら、事故防止できるから、そのままでもいいんだけど、うちはそうじゃないから、真剣でっていうのは出来ないのよ」
「なるほど…」
……いや、待てよ。今の話を聞く限り、すでに他の研究会で、試し切りをした後、みたいに感じたんだけど…。
「向こうの、人たちは生ぬるかったですからねぇ…。ベイ君には、期待していたんですけど…」
そう言って、ミオは剣の刀身を眺めている…。…性能を、完全に引き出すまで、暴れられなかった。ってことかな…?恐らくだが、普通じゃない強さだろう…。やはり注意したほうが良さそうだ…。
「うーん、そうだねぇ…。どうしても真剣で戦いたいなら、明日までに申請出しとくから、明日に許可が降りてれば、戦ってもいいよ?」
「……そうですか、なら、是非お願いします」
「うん、分かった。……所で、向こうで誰と戦ったの?」
「誰と…?そうですね。いい感じだったのは、短剣2本使ってた人とか、先が5本に分かれてる、変な杖、使ってた人とかですかね…」
「うわぁ~。レキさんと、ハインさんかぁ……。あの2人で生ぬるいなんて、求めてるハードル高すぎるよ…」
うーん、、相手も結構、強かった感じみたいだな。どんな剣なんだ、あれ…?
「所で、ミオちゃんは、どこか研究会入ってるの?そんなに強いなら、うちなんてどう…?」
「……、そうですねぇ。ベイ君が私に勝てたら、考えさせていただきます…」
「お、約束だからね…!!よーし、そうと決まったら、今のうちに申請出して来るよ。今日は、ゆっくり見学していってね」
「はい。よろしくお願いします…」
レラは、上着を着ると、校舎に走って行ってしまった。……、ということは、俺は明日も来ないといけない訳か…。
「ふむ、ベイ、あっちが空いている。この木剣で、相手してくれ…」
「うん?ああ、そうだな、サラサ。じゃあ、練習するか……」
「ちょっと待って下さい。剣が使えないとはいえ、ベイ君の実力が見たいのは事実…。いずれ真剣で戦うにしても、私も木剣でよろしいので、相手して頂きたいのですが…?」
「え。そうだな、じゃあ、サラサの次ってことで…」
「私も、お願いします…」
「私も!!!!」
「私も!!!」
……、いやいや、新人の子は分かるんだけど、何故、先輩たちまで…。
「ふむ、人気だな、ベイ…」
「あはは…。今日も、帰りが遅くなりそうだ…」
取り敢えず、一人一人こなして行こう…。俺は、サラサと練習試合を始めることにした。