四人の実力
「しかし、視界が土の壁に遮られていることが多いな。魔力での索敵をしていなかったら、もっと不意打ちを食らっていたかもしれない・・・」
「しかも、地面も歩きづらく、段差が多いですね・・・。足を取られないように気をつけないと・・・」
フィーは、空中移動しているからそんなことはないだろうが、確かに俺達は気をつけたほうが良さそうだ。ボスを目指していると言っても、一応、修行できているのだ。こなせる戦闘はこなしていくから、そういう地形に関しての適応は、確かに必要なことだな。
「右から、4匹接近する魔物がいますね・・・」
「神魔級は、複数でいることが魔力反応を見る限り多いみたいだな。しかも、この感じからして、向こうも俺達に気づいて、不意打ちのために隠れている感じか・・・」
「うーん、いやらしい連中ですね・・・・。しかも、今まで戦ってきた奴らより強敵には違いないですから、余計むかつきますよ・・・」
「そうだな・・・、あの岩の陰か・・・・。ミズキ」
「承知」
ミズキが、岩陰に向かって手裏剣を投げる。爆発とともに、魔物がこちらに突っ込んできた。
「あの攻撃を受けても怯まずに突っ込んでくるとは・・・。根性もあるようですね、っと!!」
出てきたのは、熊ほども大きいイノシシだった。勿論、普通のイノシシではない。大きな牙と、鋭い角が生えており。その突進する力で、固い地面にヒビが入っていることから、かなりのパワーが有る魔物だろう。その魔物を、ミルクは真正面から受け止めた!!!
「それなりに力はあるようですね・・・。ですが・・・・!!!!」
受け止めるために、地面に踏ん張っていた足を、ミルクは地面を踏抜き、突き立てる。そしてすぐに、腕に力を込めると、イノシシをそのまま持ち上げた。
「私ほどでは、無いですね!!!!!!」
ミルクは、持ち上げたイノシシを、迫ってきている別のイノシシ目掛けて投げつけた。二匹のイノシシが、その巨体からは考えられないほど吹き飛び、岩壁に激突する!!!
「ブギイイイイィィィィィィッィイィィィィィィィ!!!!!!!!」
「厳ついですが、鳴き声は見た目のままみたいですね・・・。なんだか安心します・・・」
「あんな簡単に受けれるのは、ミルクだからみたいだけどな・・・・」
レムも、突っ込んできていた一匹を、盾で受け止めていた。レムも相当パワーはある方だが、ミルクのように吹き飛ばすまではいけないようだ。闇魔法を剣に纏わせ、盾を逸らすと同時に相手を切りつける。
「ブギイイイ!!!」
斬撃によって、片足をイノシシは失った。そのまま、体制が崩れている間に、レムの追撃の斬撃が入る。血しぶきを上げて、イノシシは細切れになった。
「うおおおっと!!!!私等じゃ、足止めは難しいみたいっすね!!!!おっと!!」
残った1匹を、シスラ達が相手にしていた。難しいと言っても、相手の攻撃を食らわないように、連携して上手く立ちまわっている。ミズキとの修行が活きてるなぁ・・・・。
「あたしに、お任せ!!!」
カヤが、棒を下からすくい上げるように振るって、イノシシの頭を殴り上げる。
「ブギィ!!!!」
イノシシは、そのまま背中から倒れ、体勢を崩した。
「お、ナイスっす、カヤ!!」
シスラ達がその隙に攻撃するが、攻撃は通るものの、致命傷に至るような攻撃はできていない。その隙に、イノシシが転がって起き上がり、体勢を立て直した。
「でりゃああああああ!!!!!!」
ミエルが、イノシシの正面から、頭目掛けてハルバードを叩き込む!!だが、イノシシはその頭部のツノで、ハルバードを受けた。
「ふええ!!!!」
イノシシが頭を震わせ、ミエルのハルバードを弾き返す。どうやら、ミエルのパワーよりも、イノシシのほうが優っているようだ。弾き返されたミエルは、後ろに飛んで体勢を立て直す。
「ミエル様、気をつけて!!」
「さすが神魔級、ミエル様よりもパワーがあるとは・・・!!」
サエラと、シゼルが、弓と魔法で攻撃するが。どれも、決定的な攻撃にならず。イノシシも、特にその攻撃を気にせずに、直接体で受けている。鼻を鳴らすと、イノシシはミエル目掛けて突っ込んだ!!
「うわああああああ!!!!!」
「ブギイイイイ!!!」
イノシシを、ミエルが受け止める。だが、イノシシのほうがパワーは上で、頑張ってはいるが、徐々に押されていた。
「ミエル様!!」
「くっ!!!!!!!!!」
シスラ、サエラ、シゼルが、ミエルが受け止めている間に攻撃するが、イノシシの突進の威力を落とすことは出来ない。このままでは不利なので、俺が土魔法でイノシシを下から押し上げる。
「ブギイイ!!!!!!」
突然、地面から生えた岩の槍によって、イノシシは腹部に大きなダメージを受け、更に空中に飛ばされた。すかさず、ミエルが上に飛び上がり、イノシシ目掛け、ハルバードを振り下ろす!!!!
「おりゃああああ!!!!!!!!」
「ブギイイイイイ!!!!!!!」
そのまま、大きな音をたてて、イノシシが地面に激突する。空中からの強烈なハルバードの一撃と、落下のダメージを受けて、イノシシは絶命した。ミルクと、ミズキも、投げ飛ばしたイノシシの方から戻ってくる。どうやら片付いたらしい・・・。
「ふむ、よくやってはいますが、まだ火力不足ってところですかね・・・」
「ああ、連携は良く出来ているが・・・」
確かに、シスラ、サエラ、シゼルは上手く立ち回れてはいるが、攻撃力が足りてはいない。ミエルは、ぎりぎりとどめを刺せるくらいの威力は出せるようだが、やはりミエル一人がアタッカーでは、この迷宮はまだ4人にはきついかもしれない。
「くっ・・・、やっぱり神魔級相手となると、私達もまだまだってことっすね・・・・」
「そうね・・・。進化でもしないと・・・」
「ですが、あの敵の攻撃にも対応できてはいました・・・。訓練の成果は出ています。あとは、進化して威力さえ上げられれば、何とか安定しそうですね・・・」
「おっと、ストップです!!安易に、力を求めてはいけません!!いいですか、そのまま強くなることを考えるんです!!あんな、イノシシみたいにパワーばかりあっても嫌でしょう!!」
ミルクが必死に訴える。心の傷がそうさせるのだろう。
「そ、そうっすね・・!!私も、獣は勘弁っす!!」
「私も・・・、このまま強くなりたいなぁ・・・」
「ですね・・・。ミルクさん、心に留めておきます」
「うん、それでいいんです!!」
一方、ミエルはハルバードを振って、感覚を確かめていた。その表情は、もっと練習しないといけない、と語っている。
「まぁ、攻撃力が足りなくても、いい戦闘経験にはなるだろうから、このまま頑張っていこう。まだ、中心まではだいぶ距離がある。相手の動きをよく見ながら、狙う練習をしてくれ」
「はいっす!!」
「分かりました」
「はい」
そのまま、改めて移動を開始しようとするが・・・。
「ベイさん・・・」
「うん?どうした、ミエル・・・」
ミエルは、少し元気なく俺に訪ねてきた。
「私は元から聖魔級ですし、皆さんのように進化してきたというわけでもありません・・・。この先、私は足手まといになったりしないでしょうか・・・?」
不安げに、そう尋ねる。
「うん?そんなことはないよ。カヤも元から聖魔級だったけど、今は前より強くなって、あの強さだ。進化するだけが、強さを手に入れる方法じゃない」
「カヤも・・・。では、私も、もっと頑張れば・・・!!!」
「ああ・・・。でも、無理はしちゃいけないよ。ミエルに何かあったら、皆が悲しむからね・・・」
「・・・それは、ベイさんも、ってことですよね・・・・」
「ああ、当たり前だろ。ミエルに何かあったら、俺が一番悲しい・・・」
ふと見ると、ミエルの顔は嬉しそうだった。顔は若干赤くなり、先ほどの、少し気落ちしていた雰囲気はなくなっている。
「・・・なら、気をつけます!!訓練や、実戦で、少しずつでも強くなっていきますよ!!見てて下さい、ベイさん!!!」
そう、意気込んで、ミエルはやる気を取り戻したようだ。うん、よかった。ミエルには笑顔がよく似合う。
「何かあったら悲しいのは、当然、自分達にもっすよねぇ?ベイさん!!」
「ですよねぇ!!」
「うわっと!!」
突然後ろから、シスラとサエラが抱きついてきた。さっきの会話を聞いていたらしい。
「勿論そうだよ」
「ひゅー!!ベイさんの女ったらしー!!」
「でも、嬉しいです!!」
「・・・2人共、はしたないですよ・・・」
「またまたー。シゼルも抱きついたらどうっすか?なんか幸せな気分になれるっすよ?」
「け、けけけ、結構です!!!!」
シゼルが顔を赤くする。別に、俺は抱きつかれてもいいのだが、シゼルは恥ずかしいようだ・・・。
「あー!!!!ちょっと、皆!!!」
「ミエル様ばっかり、かまってもらうのはずるいっすからねぇ。私達も、攻撃が通じなくて悲しいんだから、ベイさんに癒していただかないとっすねぇ!!!」
「うんうん。あー、ベイさん、暖かい・・・・」
先まで動いてたから、汗とか気になるんだけど大丈夫みたいだ。まぁ、俺を抱くぐらいで癒やされるなら、俺も嫌ではない。それに、背中に胸部分があたって・・・・。いやいや、皆が元気になるなら、これぐらいお安い御用だ!!
「・・・・・・・」
「うん?」
ふと見ると、シゼルが、俺の腕を申し訳程度に握っている。その顔は、赤い。
「ああー!!!!シゼルまで!!!!むー!!!!!ベイさん!!私も、抱きしめさせて下さい!!!」
「え、ああ、おっと!!!」
正面から、俺はミエルを受け止めた。うん、ミエルの胸はすごいなぁ・・・・。おっと、いかん!!ここは迷宮。常に気をはらねば!!!だが、ミエル達が嬉しそうだし、まぁ、これはこれでいいか・・・。
「ふふっ、マスターは大人気ですね」
「今日は、頑張っている4人に譲ってあげるとしよう」
「私もしたいんですが、しょうがないですねぇ・・・」
「私もしたい・・・。いや、これであの4人も更に強くなるだろう。いいことだ」
「あたしは、帰ったらしてもらおっと・・・・」
「なんですと!!!!・・・よろしい、ならば順番ですね!!!」
どうやら、今日は帰ったら全員と抱き合うらしい。ボスを攻略して帰ったら、まず風呂に入ろう。俺はそう思った。