神魔級迷宮前
金曜日。授業もおわり、訓練もそこそこに神魔級迷宮入り口を目指す。
「・・・・あれだな・・・」
近づけば分かる、その強大な魔力で覆われた空間。今まで戦ってきた、どの迷宮とも魔力量の違う、圧倒的な存在感。・・・普通の人間なら、まずここに入ろうとは思わないだろう・・。
「・・・・うーん、流石に創世級に近い奴がいるという迷宮。変なプレッシャーを感じますね」
「と言っても、合体してない俺達でも十分近づけるくらいのようだがな・・・・・」
「こん・・・・・・」
シデンは、神魔級迷宮から一步後ずさるように後退する。その身体は、震えており、恐怖を感じていることがよく分かる・・・。
「・・・・どうやら、普通の人間では立ち入ることも難しいようですね、主。シデン、大丈夫だ。私達が付いているし、戦闘時は、お前はご主人様と共にある。何も恐れることはない」
「こん・・・・・」
シデンが、ゆっくりと俺の身体に抱きつく。恐怖を我慢して、精一杯、俺と共にいてくれようとするその姿に、俺は嬉しさと、感動を覚えた。・・・そっと、シデンを抱き上げて抱っこしてやる。
「ひゃぁ!!ご主人様!!」
「よしよし、俺達がついてるからな。怖くない、怖くない・・・」
ゆっくりと、シデンの頭を撫でる。シデンから少し震えが引いていき、我慢できなくなったのか。シデンは、怖さを忘れるように、俺を強く抱きしめてきた。うん、可愛いなぁ・・・。
「あーーー、ご主人様!!私もちょっと怖いかもしれません・・・!!!抱いて下さい!!!」
「おい、ミルク・・・。シデンは、まともに怖がっているんだから、お前は遠慮しとくべきじゃないか?」
「まぁ、レムがそういうのも分からなくはないです・・・。ですが、自分が怖がっている時に!!!ご主人様に抱きしめてもらう!!!!!このシチュエーション!!!!レムも、したくないとは言いますまい!!!!」
「・・・・・なるほど、確かにしてみたい・・・・」
「でしょうとも。でしょうとも・・・」
すると、その会話を聞いていた皆も、うんうんと頷き始める。・・・・帰ったら、全員抱っこで撫でてあげよう。アリーも含めて。
「まぁ、やりたいことは置いといて。・・・・・一筋縄ではいか無さそうですね・・・」
「ああ、明日は気合を入れないとな・・・・」
「腕がなります・・・。殿の期待に答える働きを致しますよ」
「ふふ~ん、あたしも早く戦ってみたいなぁ~。久しぶりに楽しめそう」
ミルク達は、だいぶやる気のようだ。
「うううううううう。私達は戦えるんでしょうか・・・・?」
「確かに、シデンほどでは無いにしても、1人じゃ絶対にあそこに行きたくないっすね・・・」
「うん、みんなと一緒でやっとって感じね・・・・」
「・・・まずかったら、すぐにベイさんに戻してもらいましょう。でも、いい経験には違いありません。創世級に立ち向かうのは、この比ではない恐怖でしょう・・・。慣れも含めて、この恐怖の中でできるだけ戦ってみるのも、ありだと思いますね」
「な、なるほど・・・・。よし!!私、頑張る!!!」
「ミエル様、ファイトっす!!ベイさんに、いいとこアピールして熱烈なチュウを・・・・・!!!」
「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!!!!!!!!!!」
「むぐっ!!!!!」
慌てて、ミエルがシスラの口を腕で塞いでいる・・・。シスラの顔色が悪くなっていくが、大丈夫だろうか?ミエルはテンパっているのか、その事実に気づいてないし。手を離させようと2人が、ミエルの腕を引っ張っているが、剥がせそうにもない。
「そそそそそそそそ、そんな!!!!私にはまだ、早いっていうか!!!ベイさんと・・・・、し、したいけど、いきなりそこに行くには、まだちょっと早いって言うか!!!!!」
「ミエル様!!落ち着いて、腕を離して!!!シスラ!!!耐えるのよ!!!!」
「なんてパワー!!!!普段、あのハルバードを振っていることはありますね。ふーん!!!!・・・駄目だ。ミルクさん、手伝って下さい!!!!」
「しょうがないですねぇ・・・・」
ミルクの軽い引っ張りで、ミエルの腕は離れた。さすが、うちのメイン・パワーファイター。並じゃない。
「うへええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううう!!!!!!!!!!!はぁぁぁぁあああ!!!!・・・・ああ、空気が美味しい・・・・。すううううう・・・・」
解放されたシスラは、元気に空気を吸っている。どうやら、大丈夫そうだ。
「はぁああ、・・・・ミエル様なら、あの中でも一応戦えそうっすね・・・・」
「うーん、知らぬ間にこんなにも力をつけていたとは・・・・・。私達の中でも、流石、ワンランク上のミエル様といったところでしょうか。シスラの言うとおり、ミエル様なら奮闘できるかもしれませんね・・・」
「でもね、でもね、私もそろそろベイさんと・・・・・。そ、そそそ、そういうことをしなきゃとも思うんだけど!!で、でも、まだ心の整理が!!!!」
「落ち着いて下さい、ミエル様!!落ち着いて!!!」
サエラが、必死にミエルを羽交い締めにして押さえている。ミエルが落ち着くまで、まだまだ掛かりそうだ・・・・。
「はぁ・・・・。私とご主人様がキスできるのはいつになるんでしょう・・・。まだ先なのは、確かみたいですね・・・・(ボソッ)」
「うん?」
シデンは、なにか言ったかな?ミエルの声で、かき消されて聞こえなかった。・・・そろそろ、俺が止めに入るとしよう。俺が、ミエルの腕を掴むと、ミエルは我に帰ったように俺を見て・・・・・。
「あ、ああ!!ベイ・・・、さん・・・!!」
「ああ、ミエル。そろそろ、落ち着こう・・・」
「へっ・・・、あっ・・・!!!」
ミエルは一瞬、少し落ち着くと。それまで自分がやっていたことの事実に気づいたのか。急に、更に顔が赤くなり、そのまま俺に寄りかかって、気を失ってしまった。
「あ、ああああああ・・・・・・」
「うおっと!!・・・大丈夫・・・・、じゃ無さそうだな、ミエル・・・」
「あ、私・・・、ベイさんに・・・聞かれ・・・・、あわわ・・・・」
「やれやれ・・・・」
ミズキが、水魔法をかけて、ミエルの熱を冷ます。それからミエルが気がつくまで、10分ほど時間が掛かった・・・・。
*
その夜。フィーは、寝ているベイの寝顔を見ていた。自分に優しく接してくれ、また強くもしてくれた、愛しい人の顔を・・・。
「・・・・・」
ベイは、穏やかに寝息を立てている。その顔を、愛おしむように、フィーは優しく撫でた・・・。それだけで、フィーの心に、甘い何かが広がっていく・・・。フィーはそれが愛なのだと、自分の中で確信していた・・・。
「・・・・・眠れないの、フィー?」
「え?・・・アリーさん・・・・」
ふと見ると、向こう側のアリーが目を開けていた。今起きたのか、少し眠そうに目を擦っている・・・。
「・・・明日は迷宮攻略でしょう?少しでも寝ないと駄目よ・・・」
「・・・その、少し不安で・・・。自分が神魔級迷宮で、どれほどマスターのお役に立てるのか・・・」
「・・・・なーんだ、そんなことで悩んでるのね・・・・」
アリーは、上体を起こし、フィーに向き合う。
「いい、フィー。あなたは、この中で1番ベイに近い実力を持っているのよ。そんなあなたが、何とか出来ないことなんて、この中の誰も、どうにも出来ないわ・・・。・・・でも、それだけあなたは強いということ。それに、あなたはこんなにも強い皆のお姉さんですもの・・・・。神魔級ごときに負けるはずがないわ!!・・・・いい、自分を信じるのよ!!ベイの為に、自分の為に・・・・。そうすれば、自ずと結果は付いて来るわ。・・・フィーはそれに見合う努力を今まで、皆としてきたもの。不安?そんなの、する必要がない・・・。だって、あなたは、この中の誰よりもベイと一緒に戦ってきたんだもの。どんな状況でも、あなたが役立たなくなることなんて、絶対にないわ・・・!!」
アリーの目は、情熱的にフィーを見ていた。
「・・・自分を信じる・・・、ですか・・・」
「そうよ。フィー、あなたは十分に強い。それが不安程度で動きが鈍って発揮されないなんて、もったいないわ。自分を信じることで、弱気も、不安も消し飛ばすの!!いいわね?」
「・・・・はい!!」
フィーは、アリーの言葉に深く頷いた。アリーもそれを見て、笑みを浮かべた。
「まぁ、最悪、一体化もあるし・・・。そこまで不安に思うこともないでしょう。皆を戻さないといけないから、多少隙ができるって弱点はあるけど・・・。・・・いつでもすぐあの状態が使えたらいいんだけどねぇ・・・」
「一体化ですか・・・・」
「まぁ、あの状態で戦い続けても、皆の個人としての動きの経験にはならないから、常にあれでいるっていう訳にもいかないし・・・・。やっぱり、皆が個人で強くなる方が、最終的にはいいかもしれないわね・・・・」
「・・・・」
フィーは何かを考えている・・・。それをアリーは見たが、もう夜も遅い・・・。
「もう寝ましょう、フィー。明日に備えないと・・・・」
「・・・そうですね。おやすみなさい、アリーさん・・・」
「おやすみ、フィー」
2人はそう言い合うと、程なくして、眠りに落ちていった。
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