005「03 穢れの刻印は消えない」
「03 穢れの刻印は消えない」
勇気が、海外で英会話を無理矢理に勉強させられ帰ってきた後も
悪夢は続いていた
勇気の前の仲間達も眠れぬ夜を過し
彼等は、前と同じ様に無免許運転を繰り返し事故を起こしては
罪による罰を合法に逃れ…また、罪を重ね続けているらしい。
勇気が大きな失敗の為に親の監視の元、前までの自由を無くし
親と祖父母の準備した大学へ進み、同じ手順で就職しても
彼等は変わる事無く、罪は大小変われど罪を重ね
行き場所を無くし・・・
派遣の仕事で生計を立てる者
卒業できても、日雇いの仕事をする者
高校を中退して働き口が見つからずフリーターをする者
親の脛を齧って、生きてゆく者達
彼等は勇気の両親曰く・・・脱落者らしい。
『理解、出来ているわよね?』
勇気の母親は人付合いにも口を出し
警察沙汰になってから、勇気の全てを今も管理し続けている
勇気は、追掛けて来る悪夢に辟易しながら
親に逆らえず、親から「脱落する事」を許されず
親の監視の中、必死で他の社員と足並みを揃え働いていた。
そんな中、何の柵も無かった相手と友人になった
花井は「ずっと真面目に生きてきたであろう真面目な男」で
勇気の取り巻きには、存在しなかった種類の人種
慈悲深く綺麗な心、名前の通り「正しい」心意気
恋人に見せる愛情深さは、深すぎて底が見えない
天然記念物級に穢れた部分が見えない「花井」は…
勇気と同じくらい金持の
勇気より少し由緒正しい家柄の御坊ちゃんだった。
だから、勇気が花井と深く付き合えば付き合う程
似た環境で育ったのに…と憤り
花井の純粋さに引かれ、羨ましく思い、花井の優しさに癒され
自分の穢れに苛立ち…その上で・・・
「花井には、嫌われたくない」
自分が今まで「犯してきた罪」を花井には…
花井だけには「絶対に、知られたくない」と思った。
その気持ちを・・・
人の気持ちに敏感な、男性恐怖症を患う花井の彼女が
男である勇気に怯えながら
『正は、どんな過去があっても受け入れてくれますよ』と
花井の友達である勇気を心配してくれる
勇気は最初、花井の彼女に・・・
「そこまで怯えなくても良いじゃないか?」と、腹を立てていたが
3人でのメールのやり取りや、3人で遊びに行く内に
勇気は、花井に対するのと同じ様に
彼女にも好意を寄せていく様になっていく。
狭い世間、不幸は気付かぬ内に忍び寄る
彼女に花井が付き添い
今もカウンセリングまで受けさせている事を知った時…
その理由の全てではないが、その一部を知った時…
恐怖感が、勇気を襲う
花井が「壊れやすいガラス細工」を扱うかの様に
彼女を大切する理由を知った時には…
それが、「自分が犯した罪」で無い事を心の底から願った
自分が昔「犯してきた罪」を花井の彼女にも…
「決して、知られてはイケナイ」と思う様になっていた。
花井の彼女が・・・
怯えずに勇気にも微笑みかけてくれる様になった頃
勇気は、彼女に対して淡い恋心を抱いて居る事に自分で気付く
「穢れた自分が彼女を幸せにする事は出来ない」だろう
それに「花井を傷付ける事なんてしたくない」
勇気は彼女のメル友として
自分に芽生えてしまった心を押し殺す努力をする
「これは、神様の思し召しかもしれない
罪を犯してきた自分への試練と、犯してきた罪への罰なのだろう」
勇気はそう信じ、2人を結婚させるために画策する事にした。
人を救う事に関しては、押しが強い癖に
自分の色恋沙汰には、押しの弱い花井を勇気が後押しし
花井と彼女は婚約と同時に、結婚する事を決めてしまった
勇気はそのスピードに驚き、胸に小さな痛みを覚えながら
愛し合う大切な2人の友人を祝福する
本当に幸せそうな彼女を見て、勇気は涙をにじませた。
花井が自分の両親に彼女を紹介してから、暫くして…
気付かぬ内に忍び寄った不幸が・・・
勇気が起こした行動の為に、彼女に向かって牙を剥く
花井から「助けてくれ」とメールを受け
花井の彼女の住むワンルームマンションを訪ねると
幸せだった筈の彼女が、花井の腕の中で涙を零していた
花井の両親が、彼女の身辺調査をし
彼女が10年近く前に巻き込まれた事件の事を引き摺り出し
『妻に相応しくない』と、結婚を反対し始めたと言う。
過去に犯した罪の罪悪感と後悔が勇気を襲う
『花井、負けるなよ…2人は幸せになるべきなんだ
俺は2人が幸せになる為に何でもするからな』
勇気は過去の罪を償うかの様に、身を粉にするかの如く
2人の為に動き回る
元から疎遠だと言う彼女の親族と
花井の親族を無視して結婚式の準備が順調に進んでいく
そんな折、花井の両親は強硬手段に出てきた。
花井の両親によって悪い噂が流され、囁かれ始める
探偵を装った者が、彼女が働く会社と
彼女が住む家の周りに現れ、訊き込みを装い噂を流す
こうして、彼女の生きる環境を
花井の両親が簡単に、残酷に・・・破壊してしまった。
噂を曲解した彼女の職場の誰かが・・・
彼女を襲おうとして、彼女の心を傷付けた
なのに、醜悪に変化していく噂の為に
風紀を乱したと、彼女だけが職場を解雇される
彼女に対して、理不尽過ぎる周囲の反応
彼女は人間不信に陥り、引籠り
傍に寄り触れる事ができるのは花井だけになっていた
勇気は彼女から少し離れた
手の届かない、でも近い場所で2人に手を貸し見守る。
結婚を…結婚式を中止しない様子を確認し
花井の親は、追い打ちを掛ける為に、彼女を傷付ける為だけに
2人の傍に居る勇気を、彼女を昔に襲った加害者だと知らしめる
悪意に満ちたアリエナイ設定の噂が流れ始めた
彼女が怖がり、彼女に近付く事も出来ない勇気
この二人の間に、愛が芽生える訳も無いのに・・・
彼女を護るべき花井までもが一瞬
噂を信じ、勇気と彼女の関係を疑い3人の関係が揺らぐ
疑われた事に気付いていた彼女は、何も言わずに沈黙を守り
花井は、噂より彼女を信じて勇気との関係を修復した。
花井が信じても・・・「人の不幸は蜜の味」
周囲は、そちらの方が面白く感じたのであろう…
噂をしていて楽しかったのであろう…
皆が噂の方を信じ、創作して語り
真実味を噂に持たせ、言葉にして態度で示し
噂の対象である彼女を追い詰め、精神的に追い込んでいく
「噂の宴は、何処まで行けば終焉を迎えるのだろうか?」
それは、噂をしている誰もが気付かない
自らが気付く事無く、犯している大罪の行方
知っていたら、誰か教えて欲しい。
花井は・・・
「このまま結婚しても、彼女を護れない
何処へ行っても、両親は彼女を苦しめ続けるだろう」と
全部知った上で受け入れた彼女を護る為
「ほとぼりが冷めるまで
彼女との結婚を祝福してくれる者が、少しでも増えるまで
結婚式を先延ばしにしよう」と、思い
彼女に「別れの時」と、誤解させてしまわないか?と、言う
不安な緊張した面もちで・・・
2人で協力して進め、招待状まで送ってしまった結婚式を…
『僕が全額負担するから、今回キャンセルしよう』
と、彼女に告げた…
彼女は一瞬、強張った表情を見せたが
花井に告げられた言葉に、怒る事はなかった。
彼女は理由を聞く事も無く、結婚式のキャンセル承諾し
彼を見詰め、悲しげな微笑みを浮かべて
『私の為に、迷惑を掛けてしまってごめんなさい』と、だけ
花井に言った
「彼女の儚げな姿が痛々しい」
花井は胸を痛め、一つの結論に辿り着く
「今、式はしなくても
籍だけは入れて、将来的な約束と安心感を与えよう」
花井は『やる事があるから帰る』と、彼女を部屋に残し…
此処から少し遠い自分の本籍がある市役所へと向かった。
市役所に着いた時には、市役所は閉まり掛けていた
花井は掛け込み、事情を話し無理矢理
「明日1番で結婚に必要な書類を揃える」との、約束を
市役所職員にさせた
花井は、その足で
注文していた結婚指輪を宝石店へ引取りに向かう
「式は二人きりでしても良いだろう…
何処か、引き受けてくれる教会はあるかな?
キャンセル序にウエディングプランナーに訊いてみよう」
花井の足取りは、彼女の喜ぶ顔を思い
自分の思い付きを称賛するかの様に軽かった。
そして、翌日・・・
誰もいない部屋で花井は立ち尽くす
彼女を一人にしてしまった罪が…
以心伝心を過信して
自分の思いをしっかり伝えなかった愚かさが…
彼の前に突き付けられる
彼女の日記には、
「花井が、彼女を疑った事に気が付いていた事」を示す文章が
書き残されていた。




