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004「02 椿の愛しき女性」

「02 椿つばきいとしき女性」


彼女は小さいころ、店の関係者でもないのに店の水道を使い

『植物がれてしまったらかわいそう』と

植え込みのかわいた土に勝手に水をいて怒られてしま


うタイプの

心優こころやさしい、元気で少し破天荒はてんこうな少女だ


った。


「彼女は人間ではない私にも、時々話し掛けてくれる優しい娘」


あの日、あの時・・・

私に人間の様な手足があれば彼女を現実の悪夢から助け出せたのにと

今でも、くやんでも悔やみきれない


でも、彼女は自力で少しづつ立ち直り

うわさに傷付けられる事があっても、頑張がんばって前を


向いて生きて

私の前に姿を見せて、私の存在を時に心配してくれた。


「私の愛おしい姫君」


そんな彼女は、極度きょくど男性不信だんせいふしんを少


しづつ乗り越え

自分にしっかりとした愛情をかたむけてくれる

自分が好きになれる人と出会い、時間を掛けて恋人同士になった


彼女を抱締だきしめてなぐさめてやる事の出来ない私は

彼の存在に、嫉妬しっとしながらも心の底から感謝した


彼の家は御金持で、彼は自腹で彼女をカウンセリングに連れて行き

恋人として彼女を生き地獄から救い出してくれたのだ。


「彼女の笑顔が私の宝物」


彼の友人の一人に、人生をやり直していた加害者の一人が

ざっている事が、少し気にはなりもしたが


彼が彼女の、恋人から婚約者になり

私は彼女が彼に救われて、とても幸せだと心の底から祝福(しゅくふ


く)していた

彼の両親が彼女を調しらべ上げ、過去の事件を穿ほじくり出


してしまうまでは…


「彼女の笑顔がうしなわれてしまった」


彼女は婚約者の両親に、過去に巻き込まれた事件を持ち出され

『妻に相応しくない』と、事件の事も周囲に公言され

彼女は、仕事場でも住んでいた場所でも居場所を無くしてしまった。


身動きが取りにくい婚約者の為に

婚約者の友人の加害者だった男が、2人に近付き彼女をささ



追い打ちを掛ける為に婚約者の親は、彼女を傷付ける為に

彼女のそばに居る加害者を加害者だと知らしめる


そこで婚約者の友人として彼女に近付いてきていた

加害者の面が割れ・・・

彼女の立場と彼女の心が、更に追い込まれる。


修復されていたはずの彼女の心の傷が、元の様にけて


血をしたたらせる


「彼女は被害者なのに・・・

何故なぜにそこまで、おとしめられなければならないのだ


ろうか?」


私はそれでも、彼に彼女をまもって欲しいと望んでいた…なの


全部知った上で、受け入れて婚約していた筈の彼が

世間体せけんていを気にして、決まっていた結婚式の日付を…

2人で協力して進め、招待状まで送ってしまった結婚式の日程(にっ


てい)を


『今回の費用、僕が全額負担するからキャンセルしよう』と・・・


何かの約束を彼女に取り付ける事も無く

彼は何のフォローをする事も無く、それだけを彼女にげる


私は彼にいきどおりを感じた

「今、彼女に掛けなければイケナイ言葉はソレではないだろう!」

だが、しかし…人間ではない私にどうする事も出来なかった。


彼女は、彼に告げられた言葉に怒るでも無く

泣くでも無く、なげくでも無く、彼に理由を聞く事も無く承諾


(しょうだく)する

緊張きんちょうした表情を見せていた彼から、安堵あんど


た様な表情が生まれる


彼女はそんな彼を見て

『私の為に、迷惑めいわくを掛けてしまってごめんなさい』と告


げる


「痛々しい彼女の頬笑ほほえみが、私にはつらかった」


彼女にゆるされた彼は『やる事があるから帰る』と

彼女を一人、部屋に残し…

彼女が1人で住むワンルームマンションを足早に後にした。


生きたまま幽鬼ゆうきの様になった彼女は、うつろろな瞳


で彼を見送り

彼の気配が完全に遠ざかってしまった後

玄関げんかんくずれる様に座り込んで、しばら


そのまま時を過ごす


部屋の中が、少しづつ夕闇ゆうやみまっていく

ベランダ側からの光がうすれ、彼女のかげを夜が飲み込


み始める

うつむ項垂うなだれる彼女のうつろな視界の中・


・・

彼女のかげの中から黒猫がゆっくりと姿を出現させた。


少し低い、き通るような声が彼女の心にかたり掛ける

『俺様が、たましいと引きえに御前の願いを叶(かな


)えてやろうか?』


彼女は最初…不思議そうに、その光景に見入り

黒猫に手を伸ばし、やわらかでしなやかな黒い毛並みに触れる

『君は・・・もしかして、死神か何か?』

黒猫はゆっくりとうなづき、微笑んだ


彼女も優しい笑みを浮かべ、黒猫を抱上げ抱締だきしめる

『私は私を知る人達に見送られたくないです

死んだ後まではずかしめられるなんて嫌…

だから、どうか私を・・・この世から消して下さい』

願う理由をずっと見てきたからか、悲しくなる様な願いだった。


「彼女は、死ぬ事をよろこんでいる様子だった

彼女は誰をのろう事も無く、自分の存在が消える事だけを願っ


ていた」


そして彼女から・・・

何か大切なモノがこぼれ落ち始めた事に、私は気が付いた

心を残す時・・・

人は皆、生き霊を生み落とす…では、今の彼女は?


零れ落ちていく欠片かけらは、空中に溶け霧散むさんして何


も残さない

私は彼女が今どう言う状態なのか、私は知るよしもなかった。


『願いは聞きとどけた、願いが叶う場所までの案内人を付けよ


う』

黒猫は、私を彼女に差し出した

彼女は一瞬いっしゅんおどろいたような表情を浮かべて


後ろに引いた


『一人で行くのはさみしいだろ?心許こころもとないだろ


う?

それと共に、のまま歩いて外へ出て行く


と良い

最期さいごつながる道は、それと共に進めば見付けられ


はずだ』

黒猫はそう言い残して姿を消した。


彼女は不思議な笑顔を向けて私に触れる

『ドッペルゲンガー?』と、つぶいた様に聞こえた

私は彼女に触れられ、触れる事が出来てうれしくて微笑んだ


彼女は納得なっとくした様子で、私の手をにぎり『行きま


しょう』と

何も持たず、家のかぎを閉める事も無く家を出る

私は彼女にみちびかれるまま

玄関げんかんの先には無い筈の、明るい森の中へ足を


入れる


彼女は裸足はだしのまま、柔かい腐葉土ふようどを踏みしめ


森を進む

根元がこけした木々、ひんやりとした水の香り漂(た


だよ)う森の中

私は彼女と共に森林浴しんりんよくを楽しんだ。


歩く彼女から、キラキラとした粉が舞い落ちる

私は訳も分からずに綺麗きれいだと思い、彼女を抱締める

彼女は一瞬、少し困惑こんわくした表情で私を見て


何かを見付けて喜んだ

『最期に繋がる道が、此処ここにあると教えてくれたのね

本当に嬉しい…ありがとう…』

彼女は私のほほにキスすると、目の前に突然とつぜん現れ


た炎に

呆然ぼうぜんとし取り残され困惑する私に

『これが彼女に願いだ』と、黒猫がささやく様に声を掛けた。


彼女が炎に飛び込むちょうの様に姿を消し、炎に飲み込まれて


行く

あたりの景色が一変した…


暗闇に取り残された私は

車の多重事故現場の直ぐ近くで立ち尽くしていた


『彼女は半月後、身元不明のまま意識も戻らず命を落とす』

黒猫の宣言せんげんに私は絶句ぜっくする


『それでは可哀相かわいそうぎる

眠る彼女に私は何かできないのだろうか?』

私の願いに黒猫が答える

『それならせめて、夢の中だけは…』

私の願いの一つは叶い・・・

幸せな眠りの中で彼女は、幸せそうに微笑んでいた。


彼女は蜘蛛くもの巣に掛かった蝶の様に

真っ白な部屋の中で、沢山たくさんのコードやチューブに繋がれ


夢を見る

私は彼女をうばわれない為に、余計な虫が寄りつかない様に…

彼女を優しく私の透明な糸でくるんだ


「彼女はもう、誰にも渡さない…

小さな欠片にいたるまで全部、全てが私のモノだ」


私は、最初に傷付けられた時に生まれた彼女の生き霊を彼女に戻す為

加害者達全てに、ばつを与える事にした。


『奴等を生きたまま、苦しめながら食べてしまおうね』


私は彼女の眠りを護る病院と言う入れ物の中からい出し

あの場所で出会った彼女以外の被害者達の欠片を

蜘蛛の子に変えて、風に乗せ飛ばす


『もう、手加減はしない!さあ、今度は御前等が狩られる番だ』


復讐ふくしゅうを許された被害者達は々として


らばり

加害者の元へ向かって行った。


私は彼女の為に狩りをし、病院内へと戻る

天井てんじょうが高く、一番広い会計待合の場所に巣を作った


そこで、天井からぶら下がり

まだ、悪夢の中に居て眠れない彼女の生き霊…

「彼女の欠片」を8本ある足の1本に座らせ

他の数本の足を使って抱き寄せる


うめき声と滴る音、小さな乾いた摩擦まさつ音と濡れた音


の響く中


『私を復讐の為のかてにすると良い…

一つになろう、一緒になって恨みを晴らそう』

私は彼女のかみでつけ、彼女のくちびるに優


しく触れて

おす蜘蛛としての最大の愛情表現を彼女に受け入れさせた。

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