018「16 再会の宴」
「16 再会の宴」
花井の彼女が、ウエディングドレス姿で現れたのにも驚いたのだが
山中には、もっと驚く事が待ち構えていた
『久し振り…山中君、私の事を憶えてる?』
山中にとって、淡い恋心を思い出させる相手が
ある日、突然…連絡が途絶え、高校を中退してしまった
「高校時代の片思いの相手」が・・・
山中の背中のTシャツの布地を少し掴み
振り返る山中の顔を覗き込むようにして見詰めていた。
その相手は、山中にとって・・・
幼馴染で、子供の頃から親が勝手に公認して押し付けられていた
今の恋人を除外すると・・・
一番、好きで…一番、仲の良かった女の子
それが大人になって
ワインレッドのパーティードレスに身を包み現れて
一瞬、さっきまで体験していた
不可思議で恐ろしく、恐怖を感じていた出来事を忘れさせる
頬が熱くなり、鼓動が跳ねる様に高鳴る
山中は愛おしく感じる女友達の名前を声にならない声で呼び
『連絡も寄越さないで居なくなるから
俺は、ずっとお前の事心配してたんだぞ!』と
逃がさない様に、Tシャツを掴む手を捕まえ引張り
捕まえたのとは逆の手で肩を掴んで、自分の正面に連れてきてから
もう片方の肩も掴み…彼女の顔を正面から見据えた。
昔の面影がしっかり残る…でも、大人になり綺麗になった女友達は
山中の真剣な顔に一瞬、驚き
昔と同じ、懐かしい顔でクスクスと笑いを漏らす
『それは嘘ね』
山中の昔の思い人は、山中の手を
クルリと体を回転させるようにして振り解き
深紅のドレスの裾を翻して、軽蔑の眼差しを向け山中から離(は
な)れた
『君の大切な恋人ちゃんは、そんな事言わなかったよ
寧ろ、私が君の前から「消えて喜んでた」って言ってるもの』
『嘘だ、そんな事はある筈が無い
そもそも俺の今の恋人がそんな事を言う筈も無い
アイツは生まれる前から隣に住んでて兄妹みたいに育った幼馴染だぞ
アイツの性格は俺が理解している
アイツがそんな嘘を吐く様な女である筈が無い』
山中は、女友達の言い分を無視し
話を聞いて貰う為に、女友達をもう一度捕まえようとして手を伸ばし…
何かに足を取られ、更に足を滑らせて転倒する
山中が手をついた場所から、土の香りが上がってきた。
山中は、その香りで途絶えた平常心を復活させ
女友達との再会で混乱した頭を整理して
茶色い絨毯が敷き詰められた食堂の床の素材と目の前の女友達
そして、蜘蛛の存在を確認した。
女友達のドレスの胸元を飾るコサージュの中に
朱色に反射する深紅の瞳を持つ闇色の蜘蛛がもそもそと蠢いている
虫があまり得意でなかった女友達が
光沢のある胸のラインを出し強調したドレスの上を
カシャカシャと歩く音を立てる
人間の拳ほどの大きさの、生きた蜘蛛の存在に気が付かずに
平然な顔して居られる筈が無い
山中は、手についた腐葉土を膝で掃い
立ち上り、周囲をしっかりと注意深く見渡す
自分が食堂と認識していた場所が、ゆっくりと…
月が照らす、薄暗い森へと変化していく
『この場所と一緒で、君も偽りだらけだったりするのかな?』
山中は警戒心を露わに女友達を睨みつけ
手に持ったままでいた棒を、女友達に向けた。
女友達の表情に、山中を嘲け笑う表情が生まれる
『兄妹みたいに育った幼馴染が嘘を吐かないなんて思うなんて
それだけで、理解してるなんて思うなんて…愚かね
偽善者な君に真実を見せてあげる…
私が、君の愚かさの為に受けた仕打ちの対価を
今…これから全部、支払って貰うわ』
向けられた棒に、コサージュの花に混じり女友達を飾っていた蜘蛛が
飛び移り、早いスピードで山中の手に移る
慌てた山中が棒を捨て、蜘蛛を手から掃い落そうとすると
山中の手を後ろに引張り誰かが捩じり曲げた
小さく悲鳴を上げた山中を見て、女友達が微笑を浮かべる
『あら、橘君…橘君の復讐は、もう良いの?』
『いやいや…僕のは、復讐じゃなくて
持ち込まれた御悩み解決ですから…「適当に」で、OKなんですよ』
山中の後ろから、聞き覚えのある橘の声が聞こえてくる
更にもう一人・・・
蜘蛛を掃い落とした場所から、橘と似た雰囲気で
見た目は椿に似た感じの男が、身嗜みを整えながら現れる。
『橘…何故こんな事するんだ?』
山中が、橘を「自分の知る橘か?」の確認してから声を掛けると
『君の大好きな「幼馴染の絆」ってヤツだ、理解できないか?
橘は、幼馴染の俺の姫君の復讐を手伝ってくれてるんだよ』
と、もう一人の方が答える
『榊…お前の姫君はコイツの「幼馴染」に酷い目に遭わされたんだろ?
幼馴染を強調するのは姫君に良くないぞ』
山中の質問を橘はスルーして、もう一人の方「榊」と話す
2人は山中の近くで楽しげに会話し
『そろそろ、君の幼馴染で行方不明だった最悪の恋人と
その仲間達に登場して頂こう』と、言って・・・
手品の様に「樹と樹の間」に「大きな蜘蛛の巣」と…
蜘蛛の巣に貼り付けられ「蛭塗れにされた山中の恋人」
そして、その恋人が昔、雇った男友達の遺体を出現させた。
彼女の全身…あちらこちらでナメクジの様に這いまわる
滑り照かる赤黒く大きな蛭に、山中が言葉を失う
女友達が着用しているワインレッドのドレスと同じ色の蛭が
恋人の白い皮膚の上を這い、新しい場所に吸い付き太って
真丸く膨れては滴る赤い筋を残して、ポトリと落ち
また、新しい蛭が這い上がっているのを見て
山中が何か言おうとして、口を開くのを見計らい
橘が身動きを押さえる山中の口に、榊が猿轡を噛ます
『黙って聴け、君の幻想を破壊する為のショータイムの始まりだ』
榊と橘の手で、恋人と同じ様に蜘蛛の巣に貼り付けられた山中は
静かに、恋人が過去行った暴挙の全てを耳にする事になった。
女友達が姿を消した理由は・・・
恋人の足元に転がる、男達を使った犯行
自分の幼馴染の計らいによる犯罪によって齎された結果だったと
自分の恋人で幼馴染の女の言葉で、直に山中は聴く事ができた
その理由も…
今まで山中の周りの異性が、その幼馴染によって
どれだけ「傷付けられてきたか?」と、言う事実を・・・
知らぬまま気付かぬまま来た事を突き付けられ、山中は呆然とする
山中の女友達は「傷付けられてきた者達の代表」の様に
山中の恋人を優しい美しい微笑を湛え、罰していく
『さぁ~…懺悔しなさい、まだ…あるでしょ?
山中君の可愛がってた小さなお友達に何をしたか…詳しく聴かせてよ』
耳を塞ぎたくても塞げない山中を見て
生き霊になった心達が、喜び舞い踊っていた。
橘が一息付く
『これで、山中に真実を告げて罵られた子達も浮かばれたかな』
『何それ、橘ってば…僕の仕事を手伝いに来たんじゃなくて
自分の仕事も完了してるかどうか、確認しに来てただけなのかよ』
蜘蛛の姿に戻り、見守る橘と榊は…
山中の足元で山中を見上げ、人には聞こえない声で会話する
『榊と椿が命懸けで叶えると言うなら
全部は持ってかないでくれって、願って依頼を受けるのが
僕にできる、最大級の友情だと思ってるんだけどどうかな?』
『ホント…橘は、御節介だな…感謝するよ
人の振りして、苦手な蜂の居る場所に近付く為に
命懸けで、虫除けスプレー使っちゃうくらいの愚か者だけどな…』
榊が昼過ぎくらいに見掛けた、駐車場での橘を思い出し笑う
『アレ、見てたのかよ…』
橘は恥ずかしそうに笑った
一番高い樹の枝の上、時の止まった森を眺め
黒猫は、後ろ足で耳の後ろを掻き欠伸をしていた。




