014「12 蜘蛛の襲撃」
「12 蜘蛛の襲撃」
あの後『大きいのを倒したから、もう大丈夫だろう』と
安易な考えで部屋に戻る者…
温室の中の家族の安否を確認しようとする者に分かれたが…
世の中そう甘くは無かった・・・
最初に悲鳴が上がったのは部屋に向かった人達の居る方向
さっき倒した蜘蛛と同じ大きさの蜘蛛が数匹
そっちへ向かった人達に襲いかかり
捕まった者達は、蜘蛛の糸で簀巻にされて蜘蛛の巣へ
中にはもう、美味しく頂かれちゃってる人もいた。
悲鳴・怒号・呻き声…大きな蜘蛛の足音と鈍い咀嚼音が
惨劇の場所を支配する
続いて、温室の方からも同じ様に悲鳴が上がり
為すすべなく一人、また一人と蜘蛛の餌食になっていく
部屋に戻ろうとし途中まで歩いていた5人は
前後で巻き起こる光景に驚愕し、立ち止まる
人が蜘蛛に生きたまま食べられていく姿を目の当たりにして
花井が『助けなきゃ!』と、言い行動を起こそうとする
勿論、勇気と山中が花井を取り押さえ押し留める。
『助けられもしない奴が行くのは許せんな』
林も花井の前に立ちはだかる
『お前が今やろうとしている事は・・・
まったく「泳げない奴」が
溺れている人を「泳いで」助けに行こうとしている様なモノだ』
『それでも何もしないで見ているのは嫌だ』と、花井は言う
前後を蜘蛛に挟まれ、左右には逃げ辛い場所で
林と花井の言い合いが始まる
残念な事ながら正直、この場合・・・
「襲われていない者まで巻き込む」危険のある
助ける処か助ける手立てがほぼ、無い状態で
「全員を危険な目に遭わせる」だけの、花井の方が間違っている
池田が溜息を吐き、我儘を言う花井の頬を叩く
『今…俺達ができる事
やらなきゃイケナイ事は、そうじゃないだろ!
俺達がやらなきゃイケナイ事は、キャンプ場に助けを求めに行って
助けられる人材を連れて無事に此処まで帰って来る事
蜘蛛を倒せる武器を持った、救援を呼ぶ事だ』
『それでも、さっき見たいにすれば…』と、食い下がる花井に
『無理だな、サラダ油の残量ねぇ~し!
冷却スプレーも残り少ないから、やったら破裂させて
やったヤツが大怪我する公算の方が高いんだよ』
林が吐き捨てる様に状況を説明した。
少し離れた場所で、悲鳴轟く…花井の暫くの沈黙の後
部屋に車の鍵を取りに戻るのは「危険」と判断し
荷物と此処まで乗ってきた車を諦め
徒歩で助けを呼びに行く事に意見が纏まる
外を歩き見付けた大きめの枝や、長めの薪を武器として手に入れ
病院の門の近くの車に蜘蛛が集っている事を目視で確認し
自分達がいる場所とは逆の草むらに小石を数個投げて
気を引き、蜘蛛に見付からない様に抜け出し5人は病院を後にする
『給油所まで歩けば、無事な人や使える車があるかもしれない』と
車を求めて近くのプレハブまで歩いたが、当てが外れて
そこは蛻の殻であった…
看板を照らす照明の他
月明かりで薄暗く照らし出される薄闇の中に
高額でガソリンを売り付ける髭オヤジも居なければ
そのオヤジが売る商品の入った小型のタンクローリーも
勿論、ガソリンを買いに来た客の姿も無い。
あのオヤジが商品のガソリンを売りきって調達に行っているのか…
実は、髭オヤジも蜘蛛側の生き物でって言う落ちなのか…
に、ついては…不明だが
気疲れ、歩き疲れ、動き疲れ…
酒を飲んだのと、食べた郷土料理の塩分がきつかった為5人は…
少し此処で休憩する事にして、
暗くても、蜘蛛に居場所を知らせない為に電気は敢えてつけず
『緊急事態だから仕方がない』と、言い訳しながら
ガサゴソ、ガサゴソ、ガサゴソとプレハブ内で
飲み物・飲める物・飲めそうな物を探して回る。
誰かが『みぃ~つけたぁ~』と、甘く囁いた
振り返るとそこには、プレハブの正面出入り口には…
大きな蜘蛛と犬程度の大きさの蜘蛛の集団が待ち構えている
他の逃げ道になりそうな窓や大きく開いた裏口にも
沢山の蜘蛛がワラワラと集まって来ていた。
『声が可愛くても、蜘蛛じゃ萌えもできねぇ~よ!』
大きな蜘蛛に多少慣れ、プレハブに入って来る蜘蛛を山中が
木の枝を振りまわし暴れ、入れない様に追い払う
『こいつは余り使いたくないんだがな』と、呟き
冷却スプレーとライターを使おうとする林の手を池田が止める
『ガソリンが無くても…
ガソリンの臭いが染み付いたこの場所で、それはヤバイ!』
『じゃあ、どぉ~すんだよ!』
林と池田が喧嘩しながら…
棒で蜘蛛を叩き、近寄って来る蜘蛛を撃退する
閉めれる窓を閉めて回っていた花井が
『勇気に考えがあるそうです、その場所開けて下さい』と、言い
皆が退避したのを確認し
勇気は消火器を手にし、蜘蛛に目掛けて消火液を噴射する
暫くすると真っ白になった蜘蛛は苦しそうにもがき出す
『どうなってるんだ?』と、言う林に対し・・・
『その手があったか…』と池田が、一人納得していた。
花井がプレハブに常備されていた消火器を皆に配り
『ゴキブリと一緒で、体の全部を消火液塗れにすれば
窒息死するかな?って思ったんだけど当たりだったね』
勇気が満面の笑みを浮かべる
消火器を受け取り、山中も蜘蛛に消火液を掛ける
『ゴキブリと一緒って…実験でもしたのか?』
『実験じゃないけど、昔…
俺の母親がゴキブリに対してパニック起こして
家で、やらかした事があるんだよ…』と、返した勇気の表情は
母親が、家でやらかした後の惨状を物語る
でも、勇気は密かに…
今回の事の御蔭で、初めて「型破りな母親の存在」に感謝していた。
「どんなに嫌な事でも同じ経験、記憶に積み重ね覚えておけば
きっと、何時か何かの役に立つ時が来る」
勇気は、小学生の頃に父親から言われた言葉も思い出し
子供の頃、無理矢理に習わされたゴルフのスイングの事を思い出して
嘗て真面目だった当時の父の存在にも感謝しながら…
手にしていた消火器をスイングさせて
白くなった小さい方の蜘蛛を大きな蜘蛛に向けて打ち出し命中させる
小さい蜘蛛に付着していた消火液が
べっとりと深く大きい蜘蛛にも付着する
蜘蛛の体に生える毛で届かなかった蜘蛛の皮膚にまで到達する
その攻撃は、大きい方に効果が高かった様子なので
全員で繰返し、やっとの事で…
大きく巨大な蜘蛛を2匹、倒す事ができた。
迫り狂う、蜘蛛をやっとの事で撃退し…
都会よりも気温が低く、涼しい場所で5人は
疲れ、汗だくになり、その場に足を投げ出し座り込む
更に、林はその場で寝転んでいる
『疲れたぁ~』と、誰とも無しに弱音が零れる
助けを求めに行く予定のキャンプ場は、遠い…
このまま此処に立て籠り、蜘蛛をやり過ごして
救援を待ちたい所だが・・・
此処で商売する髭オヤジが敵なら、こっちの方で商売せず
キャンプ場で商売して
キャンプ場からこちら側には、人を行かせなくする
そんな、救助を望む事ができなくされる可能性も捨てきれない。
池田が割れた窓、閉まらなくなった扉を見て…
『次、同じ匹数で攻めて来られたら…間違いなくアウトだな』
『空腹で動けなくなる前に、キャンプ場へ辿り着ける可能性低くて
行く途中で、奇襲受けてやられる可能性も高いけどな…』
林から思いの外、悲観的な言葉が齎される
『行くのと留まるのどっちがマシかな?』と、言う
山中の言葉に、勇気が呟く
『俺…神頼みで助けを待って、助けて貰えた事は無い気がする』
虫の声も途絶え、風のざわめきだけが聞こえる沈黙の果てに…
5人は、汗が引くのを待ち…意を決っし、立ち上り
まだ、未使用の残りの消火器を2本所持して
キャンプ場を目指す事にした。




