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彼は微笑う、いつものように。

「ファリエル」

「伯父上、」

 いつの間に来たのか。来訪者の背後で申し訳なさそうに縮こまっているメイドと目があった。

 ……なるほど、無理矢理入ったらしい。仕事中に無関係な来客は通すなと言づけておいたせいか、既に半泣きの彼女に一つ手を振って下がらせる。

「何か仕事上の不備でもありましたか?」

「ふん、仕事に関係なければ通すなとでも言っておったかのようだな」

「見合いしろと貴族たちが押しかけてくると仕事が捗りませんからね」

 睨まれたところで、嘘を述べたわけでもないし問題はない。……その見合いを持ち込んでくる貴族の筆頭が彼なわけだが。

「まあ不問としよう。この書類についてだが」

「ああ、土地の権利書ですね」

「何故所有者がわしでなくナリアになっているのだ!!」

 来る気は、していたけども。まさか本当に怒鳴り込んでくるとは。呆れが表情に出ないように苦心する。

「それはもちろん、ナリア伯母上が嫁いで来られる際に個人的に所有していらしたからですよ。ジール家の一員となられてから入手したものでしたらお二人の共有財産として記名されているでしょう?」

「持参金代わりに持ってきたのだからわしのものだろう!?」

「ラ・ジールともあろうものが生活に困っているわけでもあるまいし、法を捻じ曲げる必要もないでしょう。それとも…まさか資金繰りに不安でも?」


 やわらかく、心から信じ切っているかのように。連綿と続くラを冠する貴族に限ってそんなことはありませんよね、とでも言うかのような静かな圧力を微笑みにのせて。

「くっ……帰る!」

「おや、そうですか。では気をつけてお帰り下さい」

 笑顔を維持したまま鈴を鳴らす。すぐさまドアを開けたメイドの一人が丁重に送り出すのを確認し――溜息。

「旦那様」

「ああ、すまないね。しかし、なんとまぁ名に縋り付く者の多いことか」

 実際のところ、こうして怒鳴り込んでとまでは言わないもののファリエルに対する来客は多い。うち八割が特に仕事とは関係のないことであり、さらに言うならその半数が見合いを持ち込む貴族たち、残り半数がジールの名に連なる親族と姻族である。

 逆に商人やレを冠する“成り上がり”と揶揄される一代貴族はその辺りに敏だ。何が得になり何処が引き際なのかを心得ているため、誠意をもって対応すれば大体は収まってくれる。

 ……しかしまぁ、数多いる貴族の頂点に近いほど、権力や名に物を言わせて押し切ろうとする輩の何と多いことか。メイドのタッセが淹れた紅茶をあおり、思考を切り替える。

「さすがに、面倒だ」

 若きラ・ジール当主の悩みは尽きない。

ファリエルはマゼリア威国せいこくの第一位貴族。ラのミドルネームは貴族の証で、功績による一代貴族はレのミドルネームを有します。両親が不慮の事故で亡くなったため28歳ながら当主に。意地っ張りな弟がいるけど家出中。

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