コーヒーの定義
姉さんは苦いコーヒーが好きだ。
「入りましたよ」
「ありがとう、イーエ」
姉さんの前にあたしなんて飲む気も起きない、真っ黒なエスプレッソを置く。姉さんにとってコーヒーといえばこれだ。
……姉さんが好きだから名前も覚えたけど、黒いので十分だと内心思ってる。
自分用にはあたしが飲めるくらい、なみなみとミルクと砂糖を加えたカフェオレ。うん、甘くておいしい。
静かに過ぎる、この時間が好きだ。父さんはいたらいたで邪魔してくるし、紅茶しか飲まない。だからいつも小さなお茶会は二人きり。
カフェオレの湯気越しに、そっと姉さんの顔を伺うのもいつものこと。でもたぶん、姉さんは気付いてないと思う。
幸せそうに、小さめのカップに口を付ける姉さん。たぶんあたしだけが気付ける、ささやかな微笑みのためだけに淹れ方を覚えた。
「イーエ」
「何でしょう」
「やっぱり、それは入れ過ぎだと思うな」
困ったような顔でほとんど真っ白なあたしのカップを指さす姉さん。でもこれだけは許してください。お茶会は最重要事項だけど、
「だって飲めないんです」
姉はイーゼ、妹はイーエ。母は既に他界。イーエはシスコンで父大嫌い。