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刃金の翼  作者: 山彦八里
一章:出会い
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14話:ギルド連盟

 『ギルド』とは原義では同じ職業の者が寄り集まった組合を指す。

 商人ギルドなどはまさにこの意味合いだ。また、ギルドと名が付いていなくとも船乗りや樵にも似たような組織がある。

 しかし、ある職種だけはこの原義から外れた意味で使われている。


 ――『冒険者』である。


 あるいは旅人でも何でも屋でもいい。呼び名は関係ない。彼らは三人から百人以上と人数の括りなく、様々なクラス、職業の人間が組み合わさって“ギルド”を形成する。


 そして、その仕事内容は『依頼を受けて遂行すること』


 これほど使い勝手が良く、そして傍迷惑な存在もないだろう。依頼さえ受理されれば彼らは敵にも味方にもなる。

 現在では約定によって登録された冒険者を国家間紛争に従事させるのは禁じられており――逆に傭兵と言えば未登録の契約者を指す――そこまで冒険者が危険視されることはない。

 ただそれも実際に戦争になればどこまで守られるかは怪しい所だ。


 たとえばクルスとソフィアは学園登録の冒険者だが、同時に白国の貴族でもある。

 故に、もし他国と戦争になれば領地を守る為に戦わねばならない。それは徴税権と表裏一体の義務だからだ。

 そのようにして四大国のどこも何かしらの抜け道を持っており、英雄級は大抵どこかの国に囲いこまれていた。五百年前の戦乱期から続く工夫だ。

 英雄級の個人戦力は文字通り一騎当千。国家間紛争で使わない手はない。


 そうして時に戦術で戦略をひっくり返しつつ、呪術や魔物等の様々な問題を抱えながらも各国は戦争と休戦を続け、三百年前に四大国を中心とする今の国境線が確定するまで戦乱期は続いた。

 その後も大陸で紛争は絶えなかったが、ある出来事を境に各国で全面的な休戦協定が結ばれた。


 『魔物の大量発生』である。

 今から二百年前、暗黒地帯の急激な拡大と共に魔物の数が激増した。

 それはあまりにも唐突な出来事で、青国へと侵攻していて北部の警戒を怠っていた赤国は大打撃を受けた。


 ここで話の焦点は冒険者に戻る。

 その危機に立ち上がったのが『ギルド連盟』だった。連盟の名の通り、それは冒険者ギルドを連結させ、束ねる組織である。


 連盟は国の垣根を超えた冒険者支援組織として発足、アルバ式通信魔法具で大陸通信網を形成、初めての依頼にして初めての『防衛戦争』を指揮し、赤国の窮地を救った。

 現在、赤国に連盟本部があり、四大国の中で冒険者が最も優遇されているのはこの一件によるものだ。

 ギルド連盟はその後も大陸各地に支部を設立し、代々、四人の支部長による合議制の元で勢力を拡大していった。

 百年前に設立された学園とも提携し、今、ギルド連盟は最盛期を迎えていた。



 ◇



「でかいな」

「おおきいです……」

「でっかいねー」

「……」


 晴れた空の下、アルカンシェルの面々は街のほぼ中央にある連盟本部を見上げていた。

 天辺にギルド連盟を示す鐘の紋章の旗がはためく威容は、さすがに王城よりは小さいが、外観から見るに七階建て、赤国の煉瓦造りの建物の中では最大規模だろう。

 時刻はまだ午前中、街はようやく起き出した頃だというのに、本部の入り口では人の出入りがひっきりなしに続いている。


「っと、いつまでも見上げていても仕方ない。用事を済ませてしまおう」


 我に返ったクルスが仲間を促して扉を開ける。

 今日、四人がギルド連盟本部に来たのは防衛戦争の説明を受ける為だ。配置、輸送の日程、必要な装備など訊いておかなければならないことは少なくない。


 入ってすぐに広大なロビーと複数の窓口が並び、壁際には依頼が張られた掲示板がある。かなり清潔に保たれていることと、順番待ちの人が列をなしていること以外は他の街のギルドと同じような雰囲気だ。

 奥には食堂もある。混んでいない時ならここで食事を摂ることもできるだろう。


「ギルド連盟本部へようこそ。初めてのお越しですか?」


 明らかに初めて来た風に周囲を見回しているクルス達へ眼鏡をかけたエルフが声をかけてきた。落ち着いた色合いの上着とタイトスカートの制服は彼女が連盟員であることを示していた。


「ええ、そうです。準三級ギルド、アルカンシェルと言います。ギルドハウスの登録手続きと防衛戦争の説明を受ける為に参りました」

「ギルドカードを拝見しても宜しいでしょうか?」

「はい、こちらに」


 クルスが懐から情報記録、偽造防止の術式をかけられた金属製の札を取り出す。

 エルフの女性がそこに魔力を込めると宙空にアルカンシェルの情報が投影される。


「……確かに確認いたしました。防衛戦争に関する説明は半刻程お待ちいただくことになります。ギルドハウスの登録はすぐに済みますので、まずはそちらからどうぞ」

「分かりました。カイ達は此処か食堂で待っていてくれ」

「了解」


 何枚か書類を取って来た女性と共にクルスが奥の受付に向かって行った。

 食堂は遅めの朝食を取る冒険者で混んでいるようなので、カイ達はロビーの奥の待合室に移動して待機することにした。


 連盟員が離れた途端に周囲から新参者を値踏みする視線が突き刺さる。

 元々、ソフィアとイリスは外見的にもかなり目立つ。そこに居るだけで神秘的な雰囲気を醸し出すソフィアと、周囲を引き立てながらもそこに埋没しない存在感を持つイリス。対称的な二人が並ぶとその美貌を互いに高めているようだ。

 加えて二人はロビーにいる冒険者の中でも一等若い。

 多少のやっかみと不審と、野卑な視線は仕方ないだろう。


 イリスはこっそり周囲を探っているが、感じる気配の多くは木端程度だ。

 中にはそれなりの気配もあるが、そういった者は一瞥をくれると興味を無くしたように自分の用事に戻っていく。

 一定以上の名声と実力があれば、肩肘張らなくとも依頼の方から転がって来るからだ。


「……ッ」


 ソフィアが小さく震えた。周囲の思念に軽くあてられたのだ。時間をかければ慣れるのだが人の出入りが激しいとどうしても処理が追い付かない。

 ただ、少女の様子に気付いたカイが殊更に睨み返すと多くの視線は外れていった。


「ありがとうございます、カイ」

「気にするな」

「いやいや、頼りになるねー」


 イリスやクルスではこうも上手く出来なかっただろう。

 気の扱いに長けるカイだからこそ視線一つにも錬度が表れる。だが、本人は誇るでもなく思案顔のままだ。


「どうかした?」

「クルスは準三級ギルドと言っていたが、そもそも級とは何だ?」

「……説明してなかったっけ?」

「おそらく」


 カイも最近自覚した。自分はギルドのサブリーダーだというのに知らないことが多すぎると。魔力が無い為に授業や各種施設は使えないが、それは言い訳でしかない。

 防衛戦争の準備やらで忙しくここで訊いておかなければ次の機会はないだろう。


 本人を含め誰も気付いていなかったが、それは知らないのではなく知ろうとしなかったからだ。

 より正確に言えば、今までのカイは戦闘以外の知識が必要無かったのだ。

 戦闘に直接関係のない事を知ろうとするのはカイにとって地味に大きな変化であったが、自覚はない。

 対峙する者を斬ることが全てとするなら不要である情報が増えていく。そうして蓄積していくモノが何をもたらすのか、侍はまだ知らない。


「えっとね、級っていうのはギルドランクのことなんだけど――」


 従者は笑顔で説明を始める。侍が知ろうとしてくれていることも喜ばしいことだし、自分が他者の役に立てることも嬉しいのだ。



 ◇



 イリスの説明によると、ギルドのランクは依頼成功時に蓄積される貢献度によって最低の五級から最高の一級までに分けられ、基本的には自分達のランク以下の依頼しか受けられないという。


 五級はほとんど一般人と変わりない。ギルドの管理する訓練所で能力を見て教会で基本職を付与されているだけだ。最初の依頼での死亡率も五割近い。半ば使い捨ての扱いだ。

 一般的には四級でようやく冒険者を名乗れる程度といわれている。また実力さえ足りていれば五級から四級は比較的上がりやすく、級を上げるごとに難度も上昇していく。


「ま、学生で構成されたギルドは学園が責任を担保して元から四級だけどね。私達はギルドを組む前に受けていた依頼分の貯金もあったから準三級なの」


 三級となれば大口の依頼への参加要請を受けたり、領主からスカウトされたりする実力があると判断されたに等しいが、それは自分達の実力があることを単純に意味する訳ではない。

 むしろルベリア学園の教育水準の高さを考えるべきだろう。確かに、何の後ろ盾もなく冒険者になった一般人と比べれば、最低でも国の兵士程度には鍛えてからの出発となる学園生は別格だろう。


「それで、二級は国から依頼を受けるから審査も厳しめで降格もあるの。学園で有名なのはアイゼンブルートね」

「あの錬度で二級か」

「そそ。まあ、その上の一級は殆ど名誉職みたいな物だけどね-。大事件を解決したり、長く連盟に貢献したギルドに与えられるの。ギルドを組んだ以上は、基本的にこれを目指していると言っていいわ」

「成程」

「私達は当面は三級を目指すことになるわね。そう考えると防衛戦争への参加はオイシイわねー。どこに配置されるかにもよるけど」

「級が上がると依頼の幅が広がる以外に何かあるのか?」

「……保護区域の探索許可や秘匿技術の開示があります」


 疑問に答えたのは二人のやり取りを笑顔で見ていたソフィアだ。

 準三級では閲覧できない禁書もある。ある意味、ソフィアは四人の中で最も昇級を求めていると言っていい。


「連盟では秘匿技術はそう扱っているのか」

「三級になったら自クラスの秘匿技術がひとつ開示されるわ。レンジャーの秘匿技術の“隠し身”は便利だから楽しみなのよねー」


 秘匿技術とは学園やギルド連盟における通称で、各クラスにおいて特殊な条件を満たすことで修得できる高位スキルの通称だ。

 実力が足らないまま手を出すと命の危険があったり、氾濫を防止する必要のある技術であったりする為、各国やギルド連盟にて管理し、情報取得に制限がかけられている――正しく伝える為の措置でもある――のが、その名の由来だ。

 修得自体に制限はないが、よほどの実力がない限り自力での修得は不可能だと言われている。

 その代わり、性能は折り紙つきだ。技能でありながら心技に迫る、あるいは新たな心技そのものとなる場合さえある。


 レンジャー以外ではファイターの『技能合成』、騎士の『心鎧』、ウィザードの『相転移』、アーチャーの『魔弾の射手』、あるいはクラス自体が秘匿技術である『ロード』などがある。


「ちなみに、サムライの秘匿技術は『雷切』っていうんだ」

「そうか」


 無表情に頷くカイの顔をイリスは穴の開くほど凝視する。オマケでじーっと擬音も付けてみるが侍にはまったく通じない。

 仕方ないので直球で行くことにした。


「見たことないから断言できないんだけど……雷斬ってさ、ぶっちゃけカイの魔法斬るのと同じじゃない?」



「……さてな」

「あー誤魔化した!! やっぱり雷切なのね!! どこで習ったの!?」

「近衛騎士団だ」

「こ、国営だからって卑怯なぁ……」


 項垂れるイリスと慰めるソフィアを尻目に侍は目を閉じた。

 ここは少し人が多い。



 ◇



 そうして雑談しながら見るとはなしに本部に訪れる冒険者や依頼者を眺めていると、昼食の時間帯に入ったのか更に人が増えてきた。

 そして、連盟本部とはいえ集まる人材はピンキリなようで、食堂側のたまり場でやれ女子供がどうとかとこれ見よがしに揶揄する男達も出て来た。時折投げかけてくる視線もいやらしい。

 イリスは気づかぬ振りをしながら心中で苦笑する。文句があるなら直接言えばいいのに面倒な連中だ、と。


「やっちゃう?」

「……研究中の魔法を試してもよろしいでしょうか?」

「いやいや冗談よ、ソフィア。ギルド同士の私闘はご法度だものねー」

「ふふ、そうでしたね」


 冗談めかして言った言葉に調子を取り戻したソフィアが追随する。

 そうして笑い合う二人は、彼女達を下衆なネタにして盛り上がる男達に向けてカイが一瞬だけ“気”を飛ばしていたことに気付かなかった。


 モンクの『発剄』という技能を応用した、俗に気当たりと呼ばれる技術だ。

 特に効果はない。彼らが向けてきた無遠慮な視線と同じような物だ。ただ、ほんの少しだけ殺気が混じっているだけだ。


 男達は突然の殺気に反応して椅子から転げ落ちた。戦闘を生業にしているからこそ反応は過敏だった。

 首を傾げているのはレンジャーだろう。気を抜いていたのか、カイの悪戯だとは気付かれなかったようで、バツの悪い顔で椅子を戻しながら周囲から笑われている。


「……カイ?」


 しかし、この距離で大気中に違和を持ち込んで、少女の感応力から逃れるのは至難だろう。

 ソフィアがこちらをじっと見ているが素知らぬ顔をする。隣のイリスもその様子に口の端を曲げているが無視する。

 手荒い歓迎に挨拶を返しただけだ。特に何か言う必要もない。


「へえ、面白いことするじゃねえか」


 ――瞬間、すぐ傍からぞっとするような冷たい声が聞こえた。


 冷徹という概念を押し固めて声にしたようだ。


 ソフィアが硬直し、接近に気付かなかったイリスが咄嗟に背の弓に手をかける。

 二人の視線の先には自然な所作で立つ男がいた。

 男性用の制服を着ていることから連盟員だとは考えられるが、その顔に浮かぶ笑みは蛇を連想させる捕食者の笑みだ。


「落ち着け」

「……はい」

「あ、うん」


 二人を制するカイは表立っては動いていないが、内心は久しい驚きに満たされていた。

 イリスとカイの二人に感知されずに接近したことだけではない。この男はカイの気当たりを感知したと見られる台詞を吐いた。

 だが、感じる気配では男の位階は低い。しかもレンジャーやウィザードではなく、おそらく感知系の技能を持たない『ロード』だ。


(クラス外かつ高位の気配感知、あるいは固有技能か?)


 前者の可能性は低いし、ロードでは得られる効果も高が知れている。後者は読心などが該当するが、それこそカイが気付かない筈がない。

 口元を裂いたような笑みのまま沈黙する男を見つつ、カイは結論を出した。


(純粋に読まれたか)


 技能に依らない推理、推測、直感。

 ただの人間が持つ機能で気配感知を潜り抜け、雨粒の如き微かな気を読んだのだろう。


「今戻った……何か問題があったのか?」


 その時、タイミングがいいのか悪いのか、クルスが戻って来た。連盟員と思われる男との間に妙な雰囲気を発している仲間の様子に警戒を高める。

 そして、その後をついて来ていたエルフの連盟員はカイと睨み合う男を見ると慌てて頭を下げた。


「お帰りなさいませ――“支部長”」


 その一言で騒然とするロビーの中で、男――ギルド連盟赤国支部長ベガ・ダイシーは冷ややかに笑った。



 “ベガ・ダイシー”

 各国に四人いるギルド支部長の中でも、この男は一等変わり者だと一般に言われている。

 天才、と言い換えてもいい。

 ある日、ふらりとチェスの大陸統一戦に出たかと思うと、圧倒的な実力を以って優勝し、以降無敗を貫く。その他、あらゆる盤上遊戯、ギャンブルにおいても負け無し。

 ならばと軍の戦術演習に連れて行けば、赤国将軍率いる部隊を相手に壊滅判定を叩き出す始末。


 ついた二つ名が『盤上の魔王』

 史上はじめて、平民のままロードの取得を許された男である。



 混乱を収束させる為と尤もらしい理由でアルカンシェルの面々は最上階の支部長室へと連行された。

 なし崩しにエルフの連盟員も連れて来られたが、本来はこのような場所に来る役職ではないようで先程から壁際で居心地悪そうに侍っている。


 だが、それはクルス達も同様だ。

 新興ギルドが防衛戦争の説明を聞きに来ただけなのに、何故支部長と対面するような事態になっているのか。本来は二級以上のギルドの役回りの筈だ。


(あれが“怖い人”ねえ……確かに)

(イリス、一体何があった?)

(私も分かんないわ。けど、たぶん最初からこうするつもりだったんじゃない?)

(何?)


「で、サムライ、さっきのは何だ?」

「気当たりだ」

「へえ、試合で何度か感じたことはあるが、そういう名前だったんだな」

「……」


 ふむふむと頷くベガにクルスは言いようのない凄みを感じた。テーブルを挟んで座る姿からは戦士たる気配を感じない。

 年齢はおそらく三十歳前後、若さ以上に弱さが際立つ。白国の連盟支部長が英雄級であることを考えれば不可思議に思えるほどだ。

 無論、この男の経歴を考えれば位階の高低など関係ないのかもしれないが、しかし――


「それで戦場に出るつもりか、ってツラだな、クルス・F・ヴェルジオン」

「ッ!? まさか読心!?」

「いいや。人間、大抵の事は顔に出る。お前らは技能技巧に頼り過ぎだ」

「……」


 緊張を深めていく四人を見回すと支部長は薄い笑みと共に一度頷いた。


「いい雰囲気になったな。オレはベガ・ダイシー。ここの支部長だが、今は置いておくか」

「いや、流していい話では……」

「気にするな。ひとまず説明を先にしとくか」


 ばさりと投げ出された書類がテーブルの上に広がる。


「それ読め。以上」

「――――」


「……駄目か?」

「端的に言って」

「じゃあ、お前、こいつらの担当な。説明頼む」

「え、あ、はい!! それではご説明させていただきます」


 なし崩しにクルス達の担当になったエルフの連盟員はペルラと名乗り、状況に流されながらも自己の職をまっとうしようと奮起した。


「アルカンシェルの皆さまの移動日は二週間後となっております。軍団行動時は部隊編入、掃討時はギルド単位で動いていただきます。よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 基本的にアルカンシェルのような少人数ギルドは部隊に編入される形で従軍するが、本人の適正如何によっては個々に別れて配属される可能性もある。

 ソフィアやカイのような一芸に特化した者は特にそうだろう。


「移動日までは遠隔地の依頼は受けられません。また、一日に一度本部及び提携している帝都内の各店に人を寄越して状況を御確認ください。それが難しい場合は連絡員を雇っていただくことになります」

「大丈夫です」

「ありがとうございます。続きまして装備についてですが、一度評価審査を受けて頂くことになります……本日は戦闘装備でお越しになられていますか?」

「全員武装しています」

「では、この後、教会にて審査を受けて頂きます。それから、報酬ですが――」


 その後も定型的な説明が続いた。四半刻ほどでひと段落し、説明を終えたペルラがほっと息をついた時、それまで黙っていたベガがおもむろに口を開いた。


「ああ、学園からのお達しでな、お前達は一番きつい所に送れとさ」

「はあ!?」「なんだと!?」


 クルスとイリスの声が唱和する。

 そんなことをしても学園には何の利もない筈だ。

 ならば――


「学長の差し金か」

「そうだ。気に入った奴を谷底に突き落とす。あの婆さんの悪い癖だ」


 無表情と薄い笑み。鋭く視線を交わすカイとベガは互いの内を悟らせない。


「なら、あとは相手の出方次第か」

「魔法を使う奴が出ないことを祈っているのか、カイ・イズルハ?」

「……そこまで知っていて俺達を連行したのですか?」


 クルス達が驚く。カイの欠点を支部長にまで知られているとは思わなかったのだ。


「……それは学長からではないな。彼女に伝えたのとは内容が違う」

「クク、さあな」


 カイは驚かずただ会話を続ける。

 現在最も戦争が活発化している赤国のギルドを仕切っているのだ。配下の調査は当然しているだろう。問題はどこまで知られているかだが……


「そんな血の匂いばらまきながら素性隠すも何もねえだろ。それとも、わざとそうやって本当に隠したいもんを隠してるのか?」

「……」

「クク、まあそう警戒するな。お前達は中々面白そうだ。オレ個人としても期待させてもらう」

(実家の事、あるいはソフィアとカイのことか?)


 クルスが心中で呟く。ギルドの懸念事項は少なくない。


「そんなチンケなことじゃねえよ、ヴェルジオン」

「ッ!?」

「テメエらの家なんぞに期待はしてねえ。戦場じゃそんな肩書きは何の意味もない。そっちの二人も今のままならただの英雄級止まりだ」

「……では、新興ギルドの我々のどこに期待が持てるのですか?」

「さあな。オレの勘だ。ギルドをいくつも見てりゃそういうのが分かる。精々、惨めに死なんよう気を付けるんだな」


 言いたいことだけ言ってベガは立ち上がり、背を向けた。話は終わりのようだ。


 一礼して部屋を辞するクルス達の間には言い知れぬ緊張が漂っていた。

 現に説明を受けたということもあるが、何よりもベガという男の存在がクルスたちに迫る“戦争”を意識させていた。

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