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殺りたがりと死にたがり

作者: mosuco

 茜色が綺麗な河原。

 くたびれたスーツに無精髭の男が仰向けに寝転んだ。

 カラスが二度鳴いた河原。

 男に跨がるセーラー服の少女の両手が掴むのは男の白い首。

 人通りの少ない静かな河原。

 草がサァッと鳴らす中で、片方がニヤリと笑って口を開いた。


 やっぱりお嬢ちゃんも最近の子だねぇ…おじちゃんゾクゾクしちゃった。さぁ一気にやっていいんだよ。おじちゃんはお嬢ちゃんに殺されたいな。

 なにそれキモいから。死にたがってる人、殺ったって私、楽しくないし、なんか、利用されてるみたいでムカつく。


 低いサイレンの音が5時を告げた。

 手提げをさげたおさげの幼女が土手を一人で歩いてる。

 少女はそれを見上げると、男はそんな少女を見上げる。


 ダメだよ。お嬢ちゃんはおじちゃんを殺すまで、他の人殺しちゃダメだよ。

 なにそれ。なんでアンタにそこまで言われなきゃならないの。ムシャクシャする。

 お嬢ちゃんは感情を解消する方法どころか、感情自体の意味を知らないんだね。だからムシャクシャなんて言葉で片付けるのかな。

 馬鹿にしてんの?…しんどい。アンタとは話、通じないわ。


 少女はため息を吐いて立ち上がると、傍らの鞄を掴む。

 鞄を掴む少女の腕を掴む男は、コチラに視線を向けた少女に視線を交わして、目を細める。


 話を通す気がないだけだよ。もう少しおじちゃんのお話を聞いてちょうだい。通じるとお嬢ちゃんも楽しいよ。

 …つまらなかったら帰る。

 面白かったら殺してくれる?


 ムスリとする少女は男の腕を払い、上から横にずれて座る。

 ムクリと男は上体を起こして膝を抱える。

 河原から見える水面が揺れた。


 この世の中には便利な道具が増えすぎちゃったからね。簡単に生きることができるから簡単に人を殺せちゃうんだよ。

 テレビのコメンテーターみたいな事言う。

 何もそれが悪いってわけじゃないけどさ。考える事を知らない人間は、ただでさえ単純な生き物なのに、今ムシャクシャするから殺す、なんて単純に行動しちゃうんだよね。

 それで?単純な私に説教したいわけ?

 まぁまぁ、続きを聞いてよ。そこで死にたいおじちゃんは考えました。単純な思考を利用して、ムシャクシャさせてパッとあっさり殺されよう。そうして河原で人を殺したい君に会って今現在にいたるのです。

 …どうして私に殺されたいの。死にたいなら勝手に死ねばいいじゃない。

 そうだね。でもね、おじちゃん怖いんだよ。死ぬのが。


 茜色は徐々に紫へとグラデーションを作って空を染めた。

 遠くからは消えかけの犬の遠吠えがとけた。


 は…?何言ってんの?アンタ、死にたいくせに死ぬのが怖いっていうの!?わけわかんない!

 おじちゃんだって一応生きているからね。死ぬのが怖くていつまでも生きたいって思うよ。でもね、生き物はいつまでも生きれないから、いずれ死んじゃうから、その日を待たなくちゃいけないでしょ。いつ来るかわからない死を待って生きるなら、おじちゃんはあっさりと死んでしまいたい。かといって自分から死を迎えに行くのはね、やっぱり怖いんだよ。薬を飲むのも、刃物で刺すのも、呼吸が出来なくなるのも、高いところから落ちるのも、死ぬまではおじちゃん分かっちゃうじゃない。痛いのがあと数センチで来るなとか、あと数秒で毒が回るなとか、そういう事考えて死にたくないんだよおじちゃんは。だからお嬢ちゃんに殺されたい。あっというまにあっさりと、ね。


 空は完全に紫色になって、風は冷たくなって、二人の髪と制服とスーツはサワサワと風に揺れる。


 そんなの、ズルイ。自分勝手すぎる。やっぱり、私、利用されてるじゃん。

 そうだね。おじちゃんはズルイおじちゃんだよ。それはおじちゃん自身が良く分かってるの。


 ハァと響いた吐息は、少女の口から発したからで。

 パチュンと跳ねた水音は、鮒が跳ねたせいだった。


 アンタの事、殺したくなくなった。っていうか、人を、殺したくなくなった。

 そう、それは残念だなぁ


 そう言う男はニコニコ笑っていて、少女は笑う男をジトリと横目で刺す。


 ねぇ、アンタはホントに私に殺されたかったの?

 そうだよ。おじちゃんはお嬢ちゃんに殺されたかったの。でも、お嬢ちゃんが殺したくなくなったのなら、おじちゃんもお嬢ちゃんに殺されたくなくなった。


 ポカンと少女は呆気にとられて、笑う。

 笑い声は河原に土手に空に響いて、水面も揺れた。


 何それ、変なの

 変だね。じゃあお嬢ちゃんは今度は何がしたいのかな。

 私は…駄目、教えない。

 そっかぁ残念だなぁ

 …アンタが教えてくれたら教えてあげる


 笑い声を止めた少女はニヤリと弧を描くと男の顔を覗き見る。

 男は少女の弧を見ると、満面の笑みを浮かべた。


 そっか。おじちゃんはね、これから死ぬまで生きていきたいな。

 …私も同じ。



 カッとなってやった事を後で冷静に思い返すと、何やってんだろってなりませんか?これはそんな話です。

 最初はおじちゃんとお嬢ちゃんの会話だけ出来てたんですが、実験的な感じで合間に書き方異なる文章をちょちょいと放り込んでみました。個人的には、手提げのおさげの〜の、リズムというか韻を踏んだ書き方が楽しかったんですが、他にはネタが浮かばなかったです。


 当たり前な事ですが、殺りたがるのも死にたがるのも良くない事です。辛くてもすぐに楽な答えを出しちゃいけないのです。いのちをだいじに!なんて偉そうな事を言えるような立派な人間ではないですが、ね。


 後書きですが、ここまでが一応このお話自身だと思っております。

 最後までお読み下さり、ありがとうございます!

 このお話を読んで、少しでも何か思い巡る事があれば嬉しく思います。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいて、景色がさあっと頭に浮かびました。表現力が豊かで、全体的に綺麗なお話だな、と思いました。
[一言] 面白かった。 もう少し長く読みたかった。
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