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24.峠の死闘

 “120時間地上戦にする”と前に言いましたが、これ以上長々とやるのもどうかと思うので戦争の大枠は史実通りにしようかなと思っています。

 この日は風が吹き荒れ、視界があまり効かなかった。それでもサムライ旅団の将兵達は熱線映像装置を頼りに突き進んだ。目標はムトラ峠と、その近くの空軍基地である。

 先頭を進んでいたのは戦車第一連隊で、60輌近い四四式戦車の衝撃力で一気に突破する計画であった。最初の目標は空軍基地だ。

 空軍基地にはイラクの戦車部隊が待ち伏せをしていて、その中にはT-72があることも予測され、天候も相まって戦車乗り達を緊張させた。

「これでは熱線映像装置もあまり役に立ちませんね」

 砲手の大滝曹長が砲手用サイトを覗きながら言った。夜間のみならず霧や煙を通しても戦場を視認できる熱線映像装置であるが、砂という物理的な障害を前にしてはその威力は大きく制限されていた。

「まったくだ」

 成仁も同意の言葉を口にした。彼の不満は熱線映像装置が十分に使えないことではなく、天候の為にハッチを開けて直接外の様子を確認できないことにあった。光学機器の性能は日々向上しているが、やはり自分の目や肌を通じてしか分からないということも戦場には存在しているのだ。

 それでも戦車第一連隊は飛行場を目指して前進を続けた。そこに倒さなくてはならない敵がいるからだ。

「こんな状況ならイラク軍、強いんですかね。やっぱ地元民の方がこういう天候に慣れてるんでしょうし」

 神谷操縦手の漏らした言葉に大滝砲手が笑い出してしまった。

「おいおい。いくら地元民でも、砂嵐を透視できるわけじゃないんだ。条件は向こうも同じさ」

 成仁もそれに続いた。

「となると、戦闘は至近距離での戦いになる。いかに敵の出現に機敏に対応できるかが肝だ。大滝、俺とお前の連携が命綱だぞ」

「分かってますよ」

 それから2人は大笑いした。神谷もそれに釣られて笑ってしまった。

 戦車隊は砂嵐の中を前へ、前へと進んでいった。すると砲手用の熱線映像装置が前方に影のようなものを捉えた。

「敵か?」

 砲手用サイトの捉えた画像を映すモニターを見て成仁は唸った。しかし、ただでさえ不鮮明な画像は砂嵐のためにますます不明瞭になっていた。成仁はまず味方を掌握することにした。

「ヒナギク全車へ、こちらヒナギク6-0。戦列から突出している者はいないか?」

 すぐに返事が返ってきたが、どれも味方戦車と一定の距離を保ち戦線を構成していることを示すものであった。視界が悪い状況で、ここまで陣形を維持できるとは、と成仁は部下達の錬度の高さを実戦の場で確かめられたことに満足した。

「よし。敵だ。撃つぞ!目標、前方の戦車と思わしき車輌!弾種、徹甲!」

「了解!」

 大滝は既に目標となる影に照準を合わせていた。砲弾も既に装填済みだ。

撃て(てっ)!」

 次の瞬間、50tある四四式戦車の車体が揺れ、44口径120ミリ砲からAPSFDS弾が放たれた。モニターを見ていた成仁は砲弾らしき影が瞬く間に戦車と思われる影に飛び込んでいく様子を見た。その直後、戦車と思われる影は吹き飛んだ。

「命中!」

 大滝が報告した。

「よし、前進を続けろ!目標を確認する!」

 並んで進む戦車中隊。じょじょに撃破した戦車の輪郭もはっきりとしてきた。

「見えました。イラク軍のT-55です!」

 目標の正体を確認した大滝が嬉しそうな笑顔で報告した。

「よし。警戒を厳にしつつ前進を続ける。イラク軍の本陣がある筈だ!」

 敵の主力を追い求めて前進を続ける成仁中隊。すると行く先に黒い影の群れが見えてきた。

「戦車のようです!数多数!」

 大滝の報告に成仁は色めき立った。

「敵の主力だ!」

 これからどう動くべきか、成仁は悩んだ。態勢を立て直すべきか、それとも勢いに任せて進むべきか。難しい選択だ。砂嵐で視界が効かない中で下手に攻撃を仕掛けても隊列が乱れてしまう可能性がある。しかし、だからと言って敵前で停止するのも考え物だ。

「突入するぞ!全車、前進しつつ前方の敵に攻撃を開始!」

 戦闘は日本側の一方的な奇襲から始まった。14門の120ミリ砲の攻撃をイラク軍の戦車隊は第1斉射が命中するまで気づかなかった。初撃で8輌の戦車が撃破された。3分の1以上が外している計算になるが、視界不良な上に日本側が十分な連携を行えず重複した目標を攻撃したことが原因だった。

 一方、イラク軍も反撃を開始したが視界が限られる状況では、射撃統制装置の性能が大きく劣るT-55はまともな射撃はままならない。彼らにできることは陣地内を動き回り、日本側の照準を迷わすことであった。これは予想以上に効果をあげた。動きそのものは四四式戦車が十分追跡可能であったが、それによって巻き上げられた砂煙が四四式の照準装置からT-55を覆い隠してしまったのだ。

 第一斉射において命中率は60%以上であったが、その数値は射撃を加える度に急激に下がっていった。その間にもイラク戦車隊と成仁中隊との間の距離は刻一刻と縮まっていく。そしてイラク軍を無力化できぬ間に成仁中隊は危険な距離まで接近していた。

「どうする?」

 敵前で立ち止まるわけにはいかない。すべての決断を瞬時に下さなくてはいけない。このまま前進すべきか、それとも後退すべきか。

 その時、中隊無線網を通じて通信が入った。相手は中隊副長の上月中尉である。

『ヒナギク6-0、こちらヒナギク6-1。部隊を2つに分けましょう。奴らの挟撃するんです!』

 確かに上月の言うように挟撃して十字砲火を浴びせれば、イラク軍側が動き回れなくなり確実に撃破できるだろう。しかし、この悪天候、砂嵐の中で部隊を二分することに成仁は躊躇した。

 だが敵を目の前に迷っている時間は無い。

「ヒナギク6‐1、こちらヒナギク6-0。分かった。上月、3小隊をお前に預ける。こちらで敵を牽制するから、敵陣の左に回りこめ!ヒナギク3-1、聞いているか?」

 すぐに第3小隊の指揮官から返事が返ってきた。

『ヒナギク6-0、こちらヒナギク3-1。了解しました。任せてください!』

 上月の乗る戦車を先頭に第3小隊の戦車4輌が続いて、中隊の主力を離れていく。成仁は一抹の不安を感じつつも、目の前の敵に集中することにした。

「ヒナギク1-1、ヒナギク2-1、こちらヒナギク6-0。射撃を続けつつ、敵陣の右にまわりこむ。続け!」

 成仁中隊は敵の陣地を前に二手に分かれて、イラク軍を挟み撃ちにした。二方向からの十字砲火に、イラク軍は逃げ場を失い動けなくなってしまった。T-55は次々と撃破され、炎上して黒煙がもくもく立ち昇った。それが砂嵐に加わって視界をさらに悪くした。

 しばらく成仁中隊は前進しながら射撃を続けた。5分経つと、成仁は射撃中止を命じた。既に敵からの反撃は無く、ほぼ敵を殲滅したようである。

 成仁は車長用のハッチを開けて、外の様子をその目で確かめることにした。上半身を外に出すと、彼の目は砂嵐の向こうに炎上する戦車を微かに見ることができた。その時、砲声が轟いた。T-55の100ミリ砲ではない。友軍の120ミリ砲の砲声だ。成仁はすぐに砲塔内に戻った。

「こちら6‐0!誰だ、砲撃を続けているのは!撃ち方止め、だと言っているだろう!」

『6-0、こちら1-1。第1小隊は射撃を停止しています』

『6-0、こちら2-1。第2小隊も同様です』

 副長車と第3小隊から返事が返ってこない。通信が届いていないようだ。

「こちらヒナギク6-0。第3小隊!上月!誰でもいい!応答しろ!」

 返事は返ってこず、砲声だけが聞こえてくる。砂丘にでも遮られて成仁車の通信が届いていないのかもしれない。

「ヒナギク1‐1、ヒナギク2‐1、こちら6-0。第3小隊に射撃中止と呼びかけろ!」

 早速、第1小隊と第2小隊が第3小隊に呼びかけ始めた。だが、次の瞬間、第2小隊長の悲鳴が通信網に流れた。

『こちらヒナギク2-1!2号車が被弾!』

 総選挙自民圧勝ですね。地元の選挙区でも自民が民主から議席を取り戻しました。新総理には国防強化、デフレ脱却、国土強靭化に万進していただきたいです。

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