23.激戦の予感
久々の更新です。
クウェート沖
その頃、沿岸部でも多国籍軍の進撃が進んでいた。それを支援すべく海軍部隊も積極的に動いていた。特に目立つのは巨砲を持つ大型艦艇である。アメリカ海軍の戦艦<ミズーリ>、<ウィスコンシン>に、日本海軍の戦艦<大和>。さらに戦艦よりは小ぶりながら連装15センチ砲2基という現代軍艦としては破格の砲火力を誇る日本海軍の栗駒型巡洋艦の<栗駒>と<穂高>の2隻も、その威力を十二分に発揮していた。
これらの火力はクウェート国際空港に向けられていた。クウェート国際空港に向けてアメリカ第1海兵師団が進撃しており、その支援の為に海軍の砲火力が徹底的な砲撃を加えていたのである。
そのさらに沖ではアメリカ海兵隊と日本海軍陸戦隊を乗せた揚陸艦がうろうろしていた。それを見てイラク軍は、すぐにでも精鋭海兵隊が上陸を仕掛けてくるかもしれないと思い込み、ずっと西でアメリカ陸軍が順調な進撃を続けているにも関わらず、1個軍団もの兵力を海岸の監視に注ぎ込むことになってしまった。
それは当然ながら、ずっと西を進撃する陸軍部隊を間接的に援護することになった。
第3軍団戦域
そして、その陸軍部隊。アメリカ陸軍第3軍団の部隊は猛烈な勢いでイラクの砂漠を進撃していた。
この日の朝、第3軍団の司令官が待ちに待った瞬間が訪れていた。第3軍団が配下に収める強力な戦闘集団、つまり第1騎兵師団、第3機甲師団、第1機械化歩兵師団の3個師団が横一列に並んだのである。イラクのパイプラインとそれに沿った街道が基準線となった。
第1騎兵師団は騎兵を名乗ってはいるが実質的には機甲師団であるし、第1機械化歩兵師団もM1A1エイブラムス戦車とM2ブラッドレー歩兵戦闘車を装備する強力な機甲兵団であった。第3軍団が揃えた3個師団は第二次世界大戦以来の強力な機甲兵団なのだ。
第1騎兵師団はこの日の未明にパイプライン近くにあったイラク軍の兵站施設を粉砕し、第3機甲師団も大きな戦闘を戦うことも無く基準のラインまで達した。そして3番目の師団であるが、第3軍団長ブラッドソー中将は本来は日本陸軍の近衛師団を使うつもりだったのだが、第3軍の予備部隊から外されるのが遅かった為に代替措置としてサダムラインの突破口を守っていた第1歩兵師団を充てることになった。
そして今朝、第1歩兵師団が軍団主力に追いついたことで、第3軍団は相対するイラク軍の精鋭、共和国防衛隊を粉砕する準備を整えたのである。彼らはこれから東へと進路を向けることになる。そしてクウェートに残るイラク軍の退路を断ち、強力なイラク共和国防衛隊を粉砕するのが彼らの任務なのだ。
イギリス第1機甲師団も軍団主力の側面を守るために東へ向けて順調に進撃しており、近衛師団も軍団主力に追いつくべく全力で北上していた。
そして、その大機甲軍団の先頭を進んでいたのは軍団の先遣部隊である第3機甲騎兵連隊であった。第3機甲騎兵連隊は騎兵という古い兵科を名乗っているが、その実態は機甲偵察部隊である。M1A1戦車とM3ブラッドレー偵察装甲車を主力装備とし、偵察ヘリコプターと攻撃ヘリコプターを保有する航空機部隊、自走砲装備の砲兵部隊まで配下に収めている強力な諸兵科連合部隊なのだ。
その任務は軍団の先陣を切って敵地に乗り込み、敵の部隊を炙り出すことである。これまでも第3機甲騎兵連隊は第3軍団の先頭を進んだ。イラク軍と接触すると、後続する主力部隊に対する防御を整えるのを防ぐ為に激しい攻撃を浴びせ、戦闘を強要した。
そして主力部隊が揃うと、第3機甲騎兵連隊は再び軍団の槍の穂先となりイラク軍を突破すべく進撃を再開した。
第3機甲騎兵連隊第2大隊E中隊は指揮官であるクリストファー・エリオット大尉の搭乗するM3ブラッドレー偵察車を先頭に砂漠を東へ進んでいた。彼らの任務は進軍を妨げる共和国防衛隊師団の陣地を発見することだった。
「大尉。まもなく50イースティングスを越えます」
イースティングスとは多国籍軍が戦場での位置確認の為に設けた基準線で、東西方向における位置を示す経線である。西から東へ向けて番号が振られていて、これから東に向かうにつれて数字は増えていくことになる。
「大尉!イラク軍の陣地です!」
砲手が叫んだ。彼の指すほうに車長用サイトを向けると、エリオットの目にイラク軍の塹壕が見えた。トラックに少数の装甲車の姿もある。
彼の騎兵中隊はM3ブラッドレー装甲偵察車12輌とM1A1戦車9輌から成るが、戦車隊を呼ぶまでの敵ではないとエリオットは考えた。
「撃て!」
M3ブラッドレーの25ミリ機関砲が発射された。瞬く間にトラックと装甲車を粉砕し、歩兵達は両手を挙げて投稿してきた。しかしながら彼の中隊には捕虜を収容する余裕は無いので、食料と水を与えて主力部隊の居る西へと自分の足で向かわせることになった。
エリオットの中隊はさらに西に進んだ。それから何度もイラク軍の遭遇したが、どれも小規模な部隊で敵の主力と言うわけでもなかった。しかし西に向かうごとに接触の回数は増え、敵の主防衛線に確実に近づいているということを教えてくれた。
海兵遠征軍戦区
一方、クウェートに向け正面から進撃する重要な緊要地の攻略に取り掛かっていた。そして、その攻略は配属された日本軍部隊、サムライ旅団に託された。
「ムトラ峠ですか?」
停車した2台の装甲指揮車の間に天幕を張って設けた指揮所に、中隊長以上の指揮官が集めらて作戦会議が開かれた。その場で旅団長が提示した聞きなれぬ作戦目標について成仁が聞き返していた。
「そうだ」
旅団長はムトラ峠の重要性について部下達に語った。ムトラ峠はクウェートの首都であるクウェートシティの西にある高地にあり、海兵隊部隊がクウェートシティに向かおうとすれば必ず押さえておかなくてはならない場所だ。
「それに加え、近くには空軍基地があり、さらに高地の稜線上からはクウェートシティとバスラを繋ぐ街道を見下ろすことができる」
つまりムトラ峠を占領すれば、クウェートを占領するイラク軍が逃げ出そうとするときに必ず使うであろう街道を丘の上から攻撃できるようになるということだ。そして、その方向からは今も爆音が轟いている。その意味も旅団長は語った。
「イラク軍がクウェートから撤退する兆候があり、航空部隊が叩いている最中だ。我々もそれに加わろう」