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18.第3軍団行動開始

第3軍団戦区

 サムライ旅団を含む海兵隊の迅速な進撃は多国籍軍の計画にも影響を及ぼしていた。

 問題は海兵隊の左右を進むアラブ統合部隊の方が海兵隊ほど順調では無かったという事だ。このままでは海兵隊が敵中に突出してしまうという懸念が生じたのである。そこで多国籍軍司令部―厳密に言えばアメリカ中央軍司令官―はクウェート正面のはるか西に陣を構えたアメリカ陸軍第3軍団へイラク領内への進撃を繰り上げて開始することを要請したのである。

 攻撃は第18空挺軍団、第3軍団及びアラブ東部統合部隊のエジプト軍団が同時に開始することになり、開始時刻は午後3時に決定した。かくして後に“左フック”と称される華麗なる大旋回機動が始まろうとしていた。

 午後2時半、事前砲撃が始まった。軍団砲兵と各師団砲兵が一斉に砲撃をはじめ、イラク軍の主陣地を叩いた。激しい砲撃を受けて防御陣地に篭るイラク軍は身動きがとれなくなった。その間に第3軍団の機甲部隊が前進して、イラク軍の前に遂に姿を現した。

 思わぬ敵の出現にイラク軍の将兵たちは狼狽した。そして午後3時、彼らの目の前で第3軍団はイラク軍の主陣地の突破作戦を開始した。

 主陣地突破の立役者となったのは第1機械化歩兵師団であった。彼らの使った方法は海兵隊の使ったのと概ね同じ方法である。まずロケット付き爆薬で地雷を誘爆させてから地雷除去装置を装着した戦車を前進させて残存する地雷を片付ける。抵抗する陣地は戦車が120ミリ主砲を浴びせて黙らせる。

 通路が出来ると工兵が安全を確認―爆薬を背負って歩き爆発しないことを確認する―してから標識を立てて、安全なルートを示した。

 そして安全なルートに工兵用ブルドーザーを先頭にM2歩兵戦闘車の部隊が突入する。ブルドーザーはイラク軍が立てこもり頑固に抵抗する塹壕へと向かった。イラク兵は機関銃を乱射してブルドーザーを止めようとしたが、米軍のブルドーザーは砂を掬いながら前進して塹壕の中に土砂を押し込んだ。イラク兵はそのまま砂の中に消えた。

 ブルドーザーが塹壕を埋めると、歩兵戦闘車から兵士たちが降りて生き残って抵抗を続けるイラク兵が居ないか探してまわった。

 かくして午後5時までにアメリカ陸軍は24本の突破口を開き、第3軍団は進撃路を確保した。いよいよ主力機甲部隊の前進である。一列縦隊でサダムラインを突破すると、機甲部隊は横並びになった。一番西には第3機甲騎兵連隊が進み、隣の第18空挺軍団の戦区との間を埋める。そしてその横を第1騎兵師団と第3機甲師団が並んで北上し、一番東側をイギリス陸軍第1機甲師団が東へと進んで進撃する第3軍団を側面から攻撃しようとするイラク軍を排除するのである。

 第3軍団はほぼ無抵抗なイラク軍を尻目にイラク領内へと進撃を開始し、日が沈んで停止命令が出るまでに80キロも進んだ部隊もあった。




海兵遠征軍戦区

 東側の海兵隊の戦域でも日が沈んで、その日の作戦行動が終了した。彼らはイラク軍の数個師団を撃破して最大で40キロほどイラク軍の勢力圏内に進出した。そして、その日の進撃を終えると各部隊は防御態勢を敷いてイラクの反撃を警戒しつつ、夜を過ごすことになった。

 配属された第2海兵師団の左翼でサムライ旅団も防御態勢を整えていた。

「海兵隊の方は大活躍だったみたいですよ」

 連隊本部から補給物資を受け取って戻ってきた大滝曹長が一緒に持ってきたニュースを中隊長に伝えた。

「らしいな」

 この日、海兵隊はM1A1中隊が後にキャンディー・ケインズの戦いと呼ばれることになる戦闘を戦い、イラク軍の戦車部隊を圧倒して新世代戦車の威力を見せつけていた。成仁中隊も敵戦車と交戦していたが、あくまでも車体を埋められてトーチカ化された車輌だ。戦車乗りとしてはやはり機動戦で敵戦車と戦うことを夢見るものだ。

「この四四式にどれだけのことができるのか、ぜひ試したいのですが」

 愛車の横に立って車体を撫でながら大滝曹長が呟いた。彼はイラク軍の保有する中で最強の戦車であるT-72との対決を熱望していた。

「そうだな」

 成仁も同意した。彼も自らが指揮する戦車に絶対の自信を持っていた。それは中隊に所属する他の戦車搭乗員もだいたい同じで、充実した訓練と対トーチカ戦での勝利が彼らにそれだけの自信を与え、その能力を証明する機会を求めるようになっていたのである。

 かくして“砂漠の剣”作戦の初日が終わった。

 湾岸戦争における実際の戦況と私の理解に乖離があり、どうも矛盾した描写になってしまったようなので、第15話を改訂しました。


(改訂 2012/3/20)

 実在の人物が登場するところカット

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