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13.陽動作戦

2月5日 早朝

イラク、クウェート、サウジアラビアの国境線交差点“ルーキー・ポケット”

 砂漠に戦列を敷く戦車と装甲車の背後に不思議なトラックが停まっていた。荷台には空中に向けて突き出したレールのようなものが載せられており、その上に飛行機のようなものが搭載されていた。

 翼はまっすぐと伸びた長方形で、機体の後部には尾翼を支えるブームに挟まれる形で小さなプロペラがつけられている。さらに機体の下部にはカメラのレンズらしきものが取り付けられており、おまけにこの機体にはコクピットが見当たらなかった。

「しっかし正式採用されてから、こんなにすぐ出番とはな・・・」

 荷台に乗って飛行機を調整していた軍人が呟いた。この機体は昨年、導入されたばかりであった。

「よし出撃だ」

 軍人が荷台を飛び降りると、プロペラが回り始めた。軍人は運転席に戻り、荷台のレールのようなもの、実はカタパルトの操作台に手を伸ばした。

「準備良し。てっぇ!」

 次の瞬間、レールの上から飛行機が射出され、空中に舞い上がった。そして飛行機は上昇して南へ、国境線の向こうイラクへと向かって飛んでいった。それが大日本帝國陸軍の導入した無人偵察機RQ-2パイオニアの最初の任務だった。




近衛砲兵連隊司令部 射撃指揮所

 パイオニア無人偵察機の捉えたビデオ映像がプロジェクターで映し出される。司令部の分析班がその映像を食い入るように見つめ目標を探している。そして何か目標が発見される度に、指揮所の真ん中に置かれた大机の上に広げられた地図の上に書き足されていく。

 連隊司令部の参謀達はその地図を見ながら、指揮下の部隊にどう目標を割り振るか相談をしていた。この司令部は3個大隊の155ミリ自走砲54門―本来は4個大隊編制だが、1個大隊をサムライ旅団に配属している―、1個大隊の36連装130ミリロケット砲24輌、そして1個大隊のMLRS18輌を指揮する権限を持っていて、必要なら全ての火砲を同じ目標に向けることもできるのだ。

 この度、彼らが狙う目標はイラク軍の火砲や監視施設が主な目標で、激しい攻撃でイラク軍に多国籍軍の攻撃がここから行われると勘違いをさせるのが目的である。軍人達はここではないところで行われる攻撃に参加したかったが、それが適うかは未定である。

 目標を選定し、攻撃の割り当てを伝達すると連隊長が無線のマイクに向かって叫んだ。

「撃ち方はじめ!」

 多数の火砲群が一斉に砲撃を開始した。




“ルーキー・ポケット”

 国境線をイラク側に進んだところに、幾つも見張り台が建てられている。原始的だが、制空権を失い偵察飛行が行えず、また一帯を見渡せるような丘がない砂漠の中では最も確実な情報収集手段だ。多国籍軍側もわざわざ見張り台に見られる場所で目立つ行動はしないが、国境線のすぐ近くでの行動を制限できた時点でそれなりの意味はある。そして多国籍軍は攻撃に備えて鬱陶しい見張り台の排除に乗り出した・・・イラク軍にはそう思わせたかった。

 見張り台1つに最低でも2つの中隊の砲が攻撃を加えた。12門以上の155ミリ榴弾が帝國陸軍のお家芸である同時着弾で見張り台に命中したのである。数度の斉射を経て見張り団は粉々に砕け散った。

 一方、ロケット砲隊はイラク軍の砲兵陣地に襲い掛かった。イラク軍の火砲は大半が牽引砲で、日本軍の攻撃から逃げる機動力も、爆発から兵士を守る防御力も持ち合わせていなかった。

 数時間に渡る砲撃で目標となったイラク軍の施設は完全に粉砕された。こうした攻撃は地上戦が始まるまえの20日間の間、続くことになる。




ペルシャ湾 戦艦<大和>

 中東に派遣された海軍部隊も陸軍と同様にアメリカ海軍の指揮下に入り、アメリカ中央軍の海上部隊である中央海軍の一員として行動していた。

日本海軍がペルシャ湾に派遣したのは空母<大鷲>と戦艦<大和>を中心とする艦船30隻ほどの艦隊であり、小国の海軍相手なら単独で戦えるだけの戦力を持っているがペルシャ湾には既に撃破すべき敵艦隊は存在していなかった。当然ながら主な攻撃目標は陸上の部隊、施設となった。

 こちらでもパイオニア無人偵察機が活用された。上空からイラク軍の陣地を見つけると、そこに<大和>の46センチ主砲が撃ち込まれる。精密な照準で、ほぼ百発百中の命中率で陣地に砲弾が吸い込まれる。世界最強を誇る46センチ砲の前には急造陣地はまったく無意味だった。後には立ち上る噴煙が残るばかりである。

 <大和>はアメリカ海軍の戦艦<ミズーリ>、<ウィスコンシン>とともに、その巨砲をもってイラク軍の海岸陣地を1つ1つ潰してまわっていたのである。こうした攻撃は海兵隊―日本から派遣された海軍陸戦隊―が“海上からクウェートに上陸して奪還する作戦の為の下準備”として行われた。



「待機中の陸戦隊の連中が不憫でならんな」

 <大和>の艦橋からイラク軍の陣地が粉砕される様を双眼鏡で眺める艦長が呟いた。

 陸軍と共に派遣された海軍陸戦隊は現在、洋上の揚陸艦に乗って、上陸作戦に備えて待機している。しかし、彼らがイラクに上陸することはない。実のところ、クウェートへの上陸作戦というのはイラク軍を海岸陣地に張りつかせる為の壮大なブラフなのだ。

 多国籍軍がペルシャ湾で上陸作戦を行う風に見せておけば、イラク軍はそれに備えて戦力を沿岸に配置しなくてはならない。その分だけ陸軍部隊の作戦が楽になるというわけだ。

 46センチ砲の攻撃により、また1つのイラク軍陣地が吹き飛ばされた。それによって何人かのイラク兵が消滅した筈だ。そして、<大和>に乗る水兵たちは歓声をあげる。

「なんと残酷な茶番だ」

 ここで大規模な上陸作戦も熾烈な戦闘も起きる筈ないのに、それの為に戦いが続き、人が死んでいくのだ。

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