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No.1 目覚めと出会い

「…?」


 目の前には真っ暗な視界が広がる。謎の場所で急に俺は目が覚めたようだ。

 体を起こそうとすると、天井らしきものにぶつかりうまく起き上がれなかった。

 なんだ?と思い俺は手をうえに伸ばそうとするが、思ったように腕が上がらない。長年運動はしてこなかったがここまで弱くなるほど運動していなかったわけではない。

 制御の効かない両腕をなんとか動かし天井に触れてみる。すると、案外簡単に動き、天井と思っていたも のはすぐにガタッと音を立てて横に倒れる。

 そうして俺は起き上がり、周りを見渡す。すると、そこは所々が白いが、ほとんど黒が茶色で木の根っこやコケに侵食された場所だった。所々に空いている天井の穴から差し込む光だけが光源になっている。


「どこなんだ…ここ…」


 思わず声が漏れてしまう。こんな場所に来た記憶はない。しかも、こんなところで寝ていた記憶なんか何もなかった。

 これまで自分が何をしようとしていたか必死に思い出そうとしてみる。そうしたら、一つ重大なことに気がついた。

 俺の記憶が後輩たちに別れを告げて手を振った中学の卒業式で終わっている。

 それ以上は何も思い出せない。なぜここにいるのか、そもそもここはどこなのか。その全てが分からない。

 俺はどうやら記憶喪失とやらにでもなったのか、それとも、誰かに誘拐でもされてこんな山奥のような場所にでも送られたのか。それも、何の目的で。


 とりあえず、今は助けを呼ぼうとポケットに入っていたはずのスマートフォンを取り出して電源をつける。しかし、スマホは光を出さないただの重りと化していた。

 いつもあまり充電しない癖があったが、それがこんな形で失敗するとは…と少し後悔する。


 とりあえずここから脱出するために当てもなく歩き出す。

 この部屋には扉が一つなのでそっちに向かって歩き、扉らしきガラクタをどけて先に進む。

 歩いている途中、何度も転びそうになった。どこからか伸びた木の根っこらしきものは自分の体の大きさと同じ程の直径をしており、見たことのないような大きさだった。

 それ以外にも、地面には細長く伸びた根っこや滑りやすいコケなど本の中でしか見たことのないようなものばかりだった。


 この施設のような場所を歩き回って研究室のようなところにたどり着いた。

 部屋は4畳ほどで狭く、真ん中に机が置かれ、周りの壁にはたくさんの本が置かれている。

 真ん中の机には錆びたペンと茶色になってほとんど読めなくなっていた紙のような物が置かれていた。


 この部屋なら何かわかるかもと本棚にある本をほとんど読み漁ってみるが、そのほとんどが腐っていてまともに読める本ではなかった。

 ただ一つだけ、唯一ぎりぎり読める本が置かれており、俺はその本を手に取って読んでみる。

 その本はどうやら昔の天体の話であり、星がなんだか、地球がなんだかみたいなことが書かれていたが、空に微塵の興味もない俺にとっては読む気になれず、手に取ってそのまま元あった場所に戻す。


 大した収穫のないまま研究室を出て、外につながっている道を探す。しかし、似たような通路ばかりでだんだん混乱し始める。


「あれ、さっきも通らなかったっけ、ここ。もうわかんねえよ。」


 そう愚痴を吐き出しながらも歩き続ける。そして、数時間ほど歩くが結局抜け出せないままだんだん暗くなり始める。

 外の光だけが光源なので、日が落ちると施設の中は真っ暗で完全に光がなくなる。そんな状態で歩くのはあまりにも危険すぎるので、今日は近くの部屋でひと休みすることを決意する。


 今いた場所から一番近い部屋へと向かい、壊れかけの扉を蹴り破ってなかにはいる。その部屋はどうやら天井に穴があいてないらしく、開けるまでは完全に真っ暗な部屋だった。

 その部屋には壁が一部へこませられており、そのへこませられたあたりからいくつもの出っ張りがでている。それらがなんなのか気になり、わずかな光源を頼りに見てみると、扉から奥の方のあたりの出っ張りから少し光沢が出ていたのが見えた。


「ん?なんだ、あれ。」


 俺は少し近づいてみるが、日が落ち始めたからか、光が奥まで届いておらず、何があるかを見ることはできなかった。

 ただ、触ってみると、その光った部分あたりだけ平らのガラスがあるようだった。

 そのガラスを割って何かないか探そうと少し思ったが、とりあえず、それは明日にしようと考え、今日はひと休みをする。

 周りの小さな瓦礫を端に避けて、何か枕になる柔らかいものを探してみる。すると、だいぶ壊れているけど、まだぎりぎり使えそうなクッションが入り口あたりに置かれていた。

 そのままそれを枕として頭の近くに置き横になる。

 そしてそのまま目をつぶり、意識が遠のいて行く…。


 ふと目が覚めた。今までは憂鬱だった寝起きが何故か楽に感じた。

 今までは無理やり起こす人がいたからだ。自分の休息という快楽を強制的に終わらせて現実に引き戻す人がいたからだ。

 ただ…憂鬱じゃないから幸せというわけではなかった。逆に、その自分を起こしてくれる人がいない寂しさを少し感じていた。

 …帰ったら、今まで起こしてくれていたのにキレていたことを謝ろうかな、と少し思った。


 昨日見れなかった奥の方のガラスの部分を見てみる。すると、ガラス越しには壁のでっぱりにちょうどはまるように立てかけてある銃があった。


 俺は腰を抜かした。銃が保管されている。そして、周りにも似たような形のでっぱりがある。これは、誰かが銃を持ち出したことになる。つまり、銃を持った人間が、この施設のなかにいるかも知れない。

 途端に怖くなった。ここが、世界が。


 一応自衛のために俺も持っておこうと近くにあるコンクリートの欠片を拾ってコンコン何度もぶつける。そして、だんだん力強く思いっきりぶつけてみる。それでも、なかなか壊れない。

 そして、何度もやるうちにヤケになって全力で投げてみる。すると、壊れたのはガラスではなくコンクリートだった。


 打つ手がなくなり少し困っているとある科学好きの友達との話を思い出した。


〜〜〜


「強盗ね…。あそこの銀行って確か強化ガラスじゃなかったっけ。あれって普通は割れないんだろ。どんなパワーしてんだよ。」

「まあ、一応力で割るのもできるけど、あんまり現実的じゃない。それに、それを割る方法ってのはあるんだよ。一番簡単なのがハンマーで端を狙うこと。それだけで壊れやすくなるんだよ。」

「へ〜、けど、犯人はハンマー持ってなくて拳で真ん中を開けたって言ってるよ。」

「それ怪我するだろ…。あとホントにパワーで割ったんかい。」


〜〜〜


 そういえばと思い出し、一度ハンマーを探してみる。すると、近くにちょうど小さなハンマーが落ちていた。

 俺はそれを握りガラスの右上の角あたりを狙って思いっきり振り落とす。すると、ピキッと音を立ててガラスにヒビが入り始め、何度も打っているとそのガラスが全部崩壊した。


「うわっ。」


 割れたガラス片に当たらないように咄嗟に後に下がる。そして、前に出て立てかけてある銃とマガジンとベルトを取り出す。

 ベルトを腰につけ、そこに6個分のマガジンを取り付ける。そこで、一つ気がついた。あるマガジンにだけ特殊弾と書かれて、弾がほかのやつよりも大きくて鋭かった。

 何かあった時の最終手段としてそれを一番後ろに取り付けて、そしてとうとう銃を取り出す。

 見た目からして多分アサルトライフルだろう。

 ゲームでしか見たことなかった銃を今手に持ち、初めて俺は命がかかっていることを実感した。

 そして、俺はこの部屋を出た。


 部屋を出た瞬間、誰あの足音が聞こえた。音もなく静かな場所だからこそ、その音はよく響きどの方向からも分かった。右側から誰かがやってきている。

 一度部屋に戻り上半身だけだし銃を構える。

 誰か分からない恐怖、殺されるかもしれないという緊張感で、手や足が震える。

 そして、少しずつ人影が見えてきた。詳しい顔とかは分からない。けど、身長が低く、女の子のような感じに見えた。

 一応警戒心は解かずにこちらに来るまでじっと待つ。そこで、天井から漏れ出る日光に照らされてやっとその近づいてきた人が分かった。


 やはり、思った通り身長の低い女の子で赤い髪に白のワンピースを着ている。

 そして、初めて見た時、第1印象はとにかく猫みたいだった。

 何か武器を持っている様子は無かったので一応構えていた武器を下ろして背中に装備し女の子に近づく。 


「あれ?まだ人いたんだ!」


 元気で嬉しそうな声でそういったあと、その女の子は走ってこちらに近づいてきた。


「ねえ、名前は?」

「答えたい気持ちはあるが…そもそもあんた、なんでここにいるんだ?ここは危ないんだぞ。」

「危ないの…?ここ。」


 その女の子は何も知らなそうだった。

 何もわからない状態で迷い込んでしまったその子を可哀想に思い、少しでも頼りになるお兄さんっぽくいられるように威厳を持ってつよい口調で話す。


「当たり前だ。ここには本物の鉄砲があるんだ。つまり、ここのなかに鉄砲を持っている人がいたら俺たちは撃たれて死んじゃうかもしれないんだ。」

「ほかにもまだ人がいるの?」

「それはわかんない。ただ、そういう危険性があるって話だ。」

「そっか、じゃあもういないね!」


 その子はとても笑顔でそう言い切った。俺は怪訝な顔をして聞き直す。


「なんでそう言い切れるんだ?」


「だってもう()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


「…え?」


 俺は驚き、固まった。

 この世界はとっくに人類は絶滅した。そんな話をいきなり信じられるわけがない。最後の記憶ではみんなで泣き笑い合ったところで止まっているのだ。

 そもそも世界には約80億人もいるのだ。そんな生物が寝て起きたときにはもう全滅している?そんな話は何かの冗談だと思っていた。


「ハハ、何かの冗談かな?面白いね。でもね、もしそうだったら君はいないはずだし僕も死んでるはずだよ?」


 半笑いで聞き返す。でも、心は笑っていない。むしろ恐怖に包まれかけていた。

 しかし、返ってきた言葉は俺をもっと絶望させた。


「冗談でも何でもないよ。実際、あたしは人間じゃない。それに、あなた、少し特殊な体してるじゃない。」

「特殊な体…?何を言っているんだ、俺は普通の人間だろ?」

「だってあなたの体からエネルギーを消費してないでしょ。ここ最近でご飯を食べた?」

「言われれば…そういえばまる2日何も食べてないのにお腹がすいた感覚がないな。」

「そういうことよ。わかった?」

「ああ、まだ信じ難いけどな…。」


 話しているうちに少しずつ理解し始めた。まだすべては受け入れられないけど、今のこの状況を飲み込めるようにはなってきた。


「俺は…ここからどうしようかな…。みんながいないなら変える必要だってなくなったし…。」


 何もない地べたに座り込んで少し穴の空いた場所から空を見上げてそう言葉をこぼす。

 やるべきことなんか何もない。そんな世界で何をしろというのか。目標なんか何も思いつかなかった。


「じゃあさ、あたしについてきて。今、あたしはこの世界のあちこちを旅してるの。けど、ほかのあちこちが群れのボスのようなやつに支配されてて自由な旅ができないの。だからさ、手伝ってよ。」


 できれば安全な生活を送りたかった。けど、やることがなかった今、新しくやりたいことが与えられて拒否する気も起きなかった。


「仕方ねえな。やるよ。あ、そうだ。ただ一つ条件を出させてくれ。」


 今、思い出した。俺にもやるべきことはあった。


「俺は記憶が一部失われてんだ。なんで人類が滅亡したかなんてわからないんだよ。だから、その部分を教えてくれよ。」


 しかし、彼女は投げやりにするように答えた。


「あたしだって知らないよ。第一、この世界で人間について知ってるやつなんてあたしくらいなんだし…。」

「じゃあ、道中で色々調べさせてくれよ。人類が残したデータとかがあるかもだし…。」

「それならあたしも大歓迎だよ。そういうの調べんの好きだし。」

「んじゃ、それで契約成立だな。」

「けいやく…はよくわかんないけどいいよ。それで。」


 今まで選択を何もかも誰かに任せていたこの俺が、何もないこの世界で、俺は人生で初めて新たな旅に出かける。それも、不思議な女の子とともに…。

 何があるかは分からない。いつ死ぬかも分かんない。それでも、やれるとこまではやろう。


 俺はそう心に決めた。

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