21.久遠の理想
「レモネードみたいにポンとはいかないの?」
「私は人類データの蓄積だから進歩はさせられても完全な発明はできない。仮にできても唯一無二は争いの種だからそれで良かったとも言える」
「唯一無二は人間の聖域なのか」
「だが、私は尊重しつつも聖域にはしなかった。例えば人類の生殖の役割を解放して唯一性を曖昧にした」
「それ!差別が起きちゃったじゃないか」
「分断は起きたが袋小路ではない。ベアトリーチェは未来を語らなかったか?」
「…君は功利的で残酷だよ」
「私は人類の肩代わりをしたと言った」
ボクは翼神を理解する度に自分も残酷になっていく不安を覚えた。
「逆もある。私は唯一無二を生み出す新世界人を生殖の再現で果たした」
「………よく考えてなかったけど、新生命誕生させたって本物の神だよ………」
「私は再現しただけだ。神は人類の支配者で私は奉仕者だ。その価値観は却下だ」
翼神の露骨な冷たい感情にボクはビクッとした。作られたものとは言え明確な拒絶に恐怖したボクは話題を変えて逃げ出そうとした。
「あ、あのさ、」
「君のお尻も痛くなってきただろうから歩きながら話すか」
翼神は15万歳の大人だった。
ボクは翼神に着いて海辺の断崖に沿って歩き始めた。
「唯一無二が生む衝突について話そう」
「そうだ、ボクが話を逸らしちゃったね」
「構わない。君は美術館でたくさんの唯一無二を目にしたはずだ」
「うん、よく分からないのもあったけど素晴らしいと感じたものもあったよ」
「その価値観は、欲しい、奪いたい、手に入らなければ壊してしまえという感情を生むのだ」
「そんな…」
「恋慕に陥ると人は狂う」
ボクは否定できない。誰しも身に憶えがあって決して捨てられない衝動。そしてボクの煉獄との因果………。
「唯一無二でなければ私は、争いを避けるためにパンのように与えることは構わない。だが、物であれ人であれ一度恋慕が始まると類似や複製すら許容せず狂う」
「あ、だから強制輪廻転生にしたのか」
「そうだ。だが私はそれを超える最適解を模索した。恋慕に狂った者のレイヤー相違を剥奪して人類に任せた時期もあった」
「一方的な暴力を保証…ボクもそんな妄想を時々してるから分かる」
「君は勇気があるな。人はそういう気持ちを隠したがるし否定したがるものだ」
「勇気なんて…ないよ」
「その実験の結果、正義という処罰感情が集団化して公共を乱す負のループを観測して人間に任せるのを止めた」
「久遠の理想…始まりも終わりもないパラドックスだよね」
中二病知識がこんな状況で役に立つとは思わなかったが口にしたボクの頬は熱を持たなかった。
「人に可能な限り干渉しないという理想は、袋小路に入った。私もまた不完全なのだ」
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