20.物質的価値と言う名の重力
「では、始めようか。飲みものはそこに」
テーブルにグラスが出現した。氷で満たされ少し濁った液体、鮮やかな黄色のレモンとミントが飾りつけられている。翼神のセレクトはレモネードだった。
「私のことはどう呼んでもいい。神と名付けられたが、正体は社会管理システムの成れの果てだ。良ければ大塚さんでも津田さんでも好きに名付けたまえ」
「はは、単に君と呼ぶよ。ボクのことは六花でいい」
「では六花、ネオンの問いはその後纏まったかな?それともまだ迷宮に?」
「ボクにユートピアは作れなかった。君は単純化し過ぎて残酷な面もあるけど、複雑化すれば君の干渉が増えてディストピアになるって分かったから降参したよ」
「アンチノミーというやつだ。私は君の残酷さを肩代わりして道を塞ぐ岩をどけた」
「わざわざ教会がやってみせて恨みを買わなくてもいいような」
「システムが正常に稼働しているのを可視化すると人間は安心する」
「どこまでも奉仕者なんだね」
「ところで新世界の文明は発展しないの?」
「科学は発展しないよう物理法則で制限している。文化は人の想像力に任せる」
「人を選びそうだね」
「発展しないユートピアは退屈かな?」
「退屈しない何かはあるんでしょ?」
「世界1周は寿命じゃ足らないし、君にはまだ理解できない大人ならではの娯楽もある」
「映画や音楽配信もあったらいいのに」
「脳内再生技術はすでにある」
「そうなの?ハイテク禁止じゃないんだ」
「芸術的創造を抑制する必要はない。手描きアニメも作られているな」
「へえ、君に柔軟さがあってなんだか安心したよ」
ボクはレモネードを飲んだ。
素朴な甘酸っぱさとミントのアクセント。
「確か食料や日用品は配給されてるよね?最初に行った村は大規模な農業やってたけどあれはどういうこと?」
「あのコミュニティは自給自足を目指す人々が作った。生産系は人気がある」
「ゲームみたい…大変そうだけどそれも欲求なのか」
「遊園地みたいなものだよ」
「ひっ!」
「君は、本物と偽物について悩まないんだな」
「ああ、うん。最初は全部が錯覚させられていると疑ってかかったけど、ベアトリーチェと仲良くなってどうでも良くなった」
「ほう?」
「宝石みたいなものかな。元が石炭だろうが美しく加工すると価値を感じられる。突き詰めると、ボクが価値を感じるのは材質じゃなくて物や人が持つ表現力なんだなって」
「君は物質的価値の重力から抜けたんだな」
「重力?…そう言われたらそうかもね。物の価値に依存して承認欲求を満たし、憧れて欲しがる。地球じゃ逃れられない物理法則だね」
「ここでも同じ重力は生まれている」
「遊園地?」
「あれは発散の場だが、人間は日常的に物を巡って衝突しているな」
「君は与えないの?」
「私は唯一無二だけは生み出せない」
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