19.白薔薇の園
ネオンは翼神ではなく15万年前に人類から独立した人工知能の進化体だとクドクドと解説をしていたが、面接が迫るボクはそれどころじゃなかった。
「ネオン、鏡持ってる?」
「はい、どうぞ」
「ネオン、ボク変じゃない?」
「大丈夫だよ」
「ネオン、やっぱり…」
「我が賢者、自信を持って」
そんなことをしているうちに馬車はゆっくりと停まった。
「終点だよ、お嬢さん」
御者がドアを開けて優しく告げた。
そこは、海辺の小さな丘だった。
白レンガとロートアイアンのゲートから延びる小路の脇は白薔薇が埋めつくす庭園、小路の彼方には小さな祭壇が見える。
「六花、私はここまでだ。あの祭壇に行けば翼神に会える」
「えっ、ボクだけで行くの?」
「子供扱いは嫌だったんじゃないの?」
「そうだけど…でも…」
ボクの翼神と熱い討論を交わしてやるという勇気は馬車から降りてきてくれなかった。ほんの少し、ほんの少しだけネオンとの別れも寂しい………。
「私が恋をさせたなら申し訳ない」
「ばっ…かじゃないの!最後くらい褒めようとしたけど止めた」
ネオンは笑顔で馬車に乗り込み去った。
ボクはありがとうと呟き小路へ踏み出した。
「はえ〜、きれいを通り越して眩しいな」
視界の半分がキラキラと反射する海原になるところで祭壇がくっきりとしてきた。
「結婚式のCMみたいだな。ボクもいつかは結婚とかするのかな…」
一瞬ベアトリーチェがよぎりボクは慌てた。何考えてんだよボクは。
祭壇の中央にはオリーブの木、手入れされた枝にフワフワの小鳥が留まっている。
「シマエナガって、好きだけどちょっと雰囲気に合わないかな。翼神は…」
『合わないか。ネオンがフワフワを勧めてきたから信用したのにポンコツめ』
「鳥が喋った…」
『今さらそこ驚くかなあ。どーも翼神です』
「待って。翼神なの?その姿は、ボクに気を遣ったの?」
『そうだけど?』
「はあああ………TPOって知ってる?」
『人類が特定の価値観を他人に強制する同調圧力』
身も蓋もない物言いは、本物だろう。
「もっと威厳のある姿じゃないとやだよ。説得力ないし、小鳥に言い負かされたらトラウマものだよ」
『分かった。リクエストに応じよう』
シマエナガは紺碧の彼方に飛び去った。ボクがそれを目で追った瞬間に翼神は再度顕現した。光のローブに包まれ慈愛の表情を浮かべる老人がボクの前に立っている。
「さあ、そこに掛けて」
虚空から椅子とテーブルが出現した。
「ちょっと眩し過ぎるからなんとかならない?」
ボクは精一杯の虚勢を張った。
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