17.友情という引力
それからボクたちは互いの世界を語り合った。文明のギャップを競い、ベアトリーチェは差別的な表現を臆することなく口にしてボクも負けじとやり返す。それでもボクたちは傷つかないし対立もしない。それぞれの価値観の壁は崩れ溶け合って地面に引かれたただの線に変わった。
「六花ちゃん早く新世界に来なよ。なんなら私と一緒に、」
「ベアトリーチェ。そこまでだ」
いつの間にかネオンが戸口に立っていた。
「ネオン!私が着替え中だったらどうするのよ!」
「私がどういうものか知っていて、それは愚問じゃないかな?」
「あんたは、人間を知り尽くしてても配慮や思いやりを無視するから単純にムカつくの!」
「私から合理性を奪うのは非合理だ」
「うるさい!」
ボクはこのやり取りが面白くて笑ってしまった。翼神が善き隣人になるにはまだ時間が必要かもね。
「六花。ベアトリーチェから何か学べたかい?」
「うん。最初は衝撃的だったけど」
ネオンはまたやりやがったなという視線でベアトリーチェを突き刺したが、彼女は自信たっぷりに挑戦的な笑みで跳ね返している。
「私たちは互いを尊重しながら分かりあったわ。これがネオンには理解できない愛」
「理解不能ではない。人を狂わせ社会に様々な害をなすのが我々の価値観に合わないだけだ」
「地球には毒と薬というのがあるけど毒が薬に変わることだってあるのを知ってる。可能性に身を投げることができない管理者は可哀想ね」
「我々に感情はないから同情は不要だよ」
「くそっ。強がりじゃないのがムカつく」
「はいはい、六花が呆れてるからそろそろいいかな?」
「そうだ六花、明日私のステージにきてよ。この分からず屋を人間の愛でずぶ濡れにしてやろうよ」
ボクはチラッとネオンを見た。
ネオンは首を振った。
「残念ながら時間がない。代わりに戻ったら動画配信を提供するよ」
「そっか、仕方ないか。そのドーガハイシンは言わば私の複写だけど六花ちゃんは応援してね」
「絶対するよ」
別れ際、ベアトリーチェに強く抱きしめられた。
ずっと止まっていたボクの時間が、彼女の体温で溶けていく。
――友達。
一人の身勝手な嫉妬が燃え広がってボクの居場所は煉獄に変わり友達どころか誰も寄り付かなくなった。母さんが知ったらきっと飛び込んでくるだろうけど学校という歪な聖域に閉じ込められて巻き添えになるだけだ。
馬車に乗ったボクは、窓から遠ざかる白亜の街並みを振り返る。
「ユートピア……」
その言葉は、祈りのようにボクの唇からこぼれた。
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