15.そこまでする?
ベアトリーチェはジョッキを2つ持って戻ってきた。
「さあ、乾杯するよ!うぇーい」
「…ぅぇ-ぃ」
「声が小さい!もっと元気を頂戴!」
彼女はスターでボクはプライベートを邪魔する面倒事だろうに本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。だからボクは声を張り上げた。
「うぇーい!!」
「六花ちゃん最高!」
「ベアトリーチェさん最高!」
「よし、元気出た。じゃあ質問タイムいくよ?」
「はい!」
…………………。
「あ、質問するの六花ちゃんね」
「あわっ、そうだった!何でもいいですか?」
「ユートピアやこの街のことを聞きたいんでしょ?私の身の上話でもいいけど話し出したら夜が明けるからそっちはまたいつか。それと、ネオンと同じ口調でお願い、アイツより親近感ないのは許せないから」
「ふふふ…アハハ!」
「別に仲が悪いわけじゃないんだけどアイツの妙な理屈はいつもイラッとするのよ」
「分かったよ。ボクも素で話したい」
「そうそう、本音出すなら敬語は邪魔!」
「じゃあ、始めるね。まずユートピアに来てギャップに悩まなかった?」
「あ!説明されてなかった?私ここの生まれ、2世代目」
「そうなの?」
「生まれも育ちもユートピア。もはやユートピア人と名乗りたい」
「そう、なんだ。もしかしてここら辺の人たちはみんなそうなの?」
「そだよ。何で分かっちゃった?」
「…見た目の雰囲気?」
「ぎゃはは、何それ!でも正解か」
「みんなきれい過ぎて輪廻転生で容姿選べるのかなって」
「いきなり核心きたね。でもいいよ、教えちゃいます。ワレワレハ、リョウセイルイニ、シンカスルノダ」
「嘘だあ。からかわないでよ」
「やっぱりそうなるよねえ…よし、六花ちゃん覚悟して」
「はえ?」
ベアトリーチェはボクの前に立ちとんでもないことをした。スカートをめくり上げて「正体」を晒したのだ。
------六花はフリーズしました。
「あばばばば………」
腰が抜けて床を這ったが、思うように体が動かない。ベアトリーチェは席に戻りボクがパニックを抜けるのを待っていた。
「どう話そうか迷ったんだけど、ネオンが六花ちゃんを凄く賢い子だって言ったから…だから私は待つわ。悪ふざけじゃないと六花ちゃんが思うまで」
ベアトリーチェはもうおちゃらけてはいない。まるでステージで前奏が始まるのを待つディーバの静の瞬間のようだ。
「さ…最初は口で説明して欲しかったかな」
「私は聞くのも話すのも理屈が苦手なのよ。さあ、座って」
ボクは足に力が戻ったのを感じて席に着いた。
「これも翼神が言う最適化なんだって。地球人のジェンダーフリーとかいうのを参考にしたらしいよ?」
「確かに、そういう運動もあるし手術だってあるけど、そこまでする?」
「私たちにはこれが当たり前だからよく分からないけど、選べない世代からすると六花ちゃんみたいな反応も当たり前かな」
「む、胸は女性…的なの?」
「大小は個人差だけどそうだよ」
「じゃ、じゃあさ、あの…」
「妊娠について話そうか?」
「…は、はいぃ…」
そこからベアトリーチェは性別を超越した恋愛と行為について語り始めた。妊娠出産はパートナーと役割を決めて行われる。世代間交渉の制約はないが子は必ず両性で生まれる。ベアトリーチェは子供の頃から女性的な人生を決めて今に至る。
「翼神は公正中立の最適解としたけど第一世代は拒否感から輪廻転生をやめる人も少なくない。六花は私が家族だったら拒否する?」
「…いきなりで難し過ぎるよ。でも差別をなくすための設計を差別するのは違うし、肉体を離れて精神生命体になってるから肉体の形状や性別はどうでもいい気もするし…」
「私たちは今のところ隔離みたいにここで暮らしてる。六花は私たちを理解しようとしたけどしない人は私たちを変な目で見るし私たちは君たち第一世代を暗に差別しているから」
違和感が一瞬で溶けた。
「理不尽…」
「翼神のしたことが成功なのか失敗なのかは未来に決まる。自然淘汰という形でね」
「…翼神は間違いを認めないのかな」
「私たちは不自由もないし想いを性別ごときで否定される社会なんてまっぴらごめんだから性別がないのは間違いとは思ってないよ」
しまった。また価値観を押し付けた。
「ご両親は…どうなの?」
「教会が告知してるから分かってて産んで育てたはず。でも見た目が女の方がしっくりくるから女だと思って育てたって最近ママから聞いたよ」
「ベアトリーチェは本当は親孝行で女性的にしたとかはないの?」
「もちろんそれもあったよ。親を戸惑わせないのも家族の役割だしどっちでもない私にはどっちでも良かった。六花は選べたらどうする?」
「正直まだショックから立ち直れてないから分からないよボク」
「私が六花を食べちゃう心配はないよ」
「そういう問題じゃなくて…」
「はは、悪かったよ。ところでさっき六花ちゃんが言ってた精神世界っていいね。何で翼神は肉体なんか作ったんだろ」
「そうだよね。ボクらの場合捨てさせて加工しただけだよ」
「ま、表現には便利、愛にはあった方が深まる、悪くないからいいけどそれで心が傷つくならいらない気もする」
にへっと笑ったベアトリーチェは少し母さんを思い出した。ボクの心の壁を理解したけど何も言えない辛さを隠す笑いだ。
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