14.ベアトリーチェ
ネオンはボクのカテゴリーだと貴族の馬車と呼ぶ豪華な馬車を呼び止めた。
「さあ、乗って」
「ボクのワガママを憶えててくれたんだ!」
「違うよ。こういうのじゃないと入れない区域なんだよ」
「ネオンは本当に乙女心がわかんないよね」
「私はツアーの案内人だからね」
「俺に惚れるなよって?」
「恋愛は精神の病気と理解する私がそういう感情を抱かせるのは案内人失格だもの」
「ネオンは愛の都に一番相応しくない」
「そう、だからベアトリーチェなんだ」
ボクたちを乗せた馬車は高級住宅街に入り停まった。
「六花、腕を組もうか」
「相応しくないって言ったから?」
「君のためにそうする」
「今さら気を使わなくていい」
「そうじゃない。ここはちょっと特殊なんだ」
「分かんないけど分かったよ」
ネオンの態度が黙って従えと言っている。
怖いの嫌なんですけど。
しばらく歩いてそれがネオンの配慮だと分かった。道行く人々は皆美しくボクみたいなチンチクリンは居ない。ボクを微かに冷笑しながらすれ違う人や珍しいペットだと思っているかのような視線が痛い。そしてネオンは住民側の容姿なのだ。
「美しさの追求も極まると少し怖い」
「人間が大切にする個性を捨てる行為だよね。六花には皆同じに見えないかい?」
ファッションやメイクの流行はそういうものだけどネオンはボクの価値観を知りたいのだろうか。
ボクは可愛いが嫌いだ。
「どっちがいいかは分からない。それより、誰一人性別が分からない違和感がある」
「ああ、その続きはベアトリーチェに任せるよ。ここだ」
屋敷と言っていい白亜の住宅。農村の人たちがこういうのに憧れないのが不思議でならないが、それも価値観の押し付けなのか
。ギャップに慣れるのに時間がかかりそう。
「ベアトリーチェ」
ネオンが玄関の前で合言葉のような口調で声をかけるとドアが開いた。どういう仕組みかは分からないけどなんとなくネオンの超常な気がした。
「ネオン、そっちが六花ちゃんね」
ボクが想像していたベアトリーチェは神託の巫女のような姿だったが、目の前に現れたのはフリフリの衣装を着たミニスカアイドルだった。顔立ちはネオンと同じ中性的だが、メイクで女性を強調している。
「六花、ベアトリーチェだ。私は教会に行くからあとはよろしく頼む」
「早っ!雑!」
ボクは思わず突っ込んだが、時間を見て迎えに来ると言ってネオンは去っていった。
「あ、あの…改めまして悠木六花です…」
「ベアトリーチェよ。緊張しないで、私はただの人間よ?」
「え、翼神の関係者じゃないんですか?」
「あんな、血も涙もない連中と一緒にしないでよ。ネオンじゃ、歌も愛も創造できないでしょ」
「確かに…」
「まあ、そんな訳で私に頼んできた。それもよくあることだけど、中学生は初めてで正直ちょっと戸惑うわ」
ベアトリーチェは自信に満ち溢れているが傲慢さは微塵も感じられない。どちらかと言えば頼りになるお姉さんだ。
「とにかく受けたからにはきっちりやるよ。六花ちゃん、何でも聞いて。あ、その前にマンゴージュース飲む?」
「…大丈夫です」
「あちゃあ、嫌いだったか。じゃあエナドリいっちゃう?元気出るよ、ね?」
「あの…」
「ごめんね、遠慮させるような聞き方した私が悪い。さあ、六花ちゃんも一緒に言おう、ベアトリーチェが悪い!」
「…ボク、マンゴージュース好きです」
「うひゃ、やっぱりか。いいよいいよ、ちゃんと言える六花ちゃんが大好きになっちゃったよ、いいかな?」
「別に…」
「よおし、じゃあ乾杯するからちょっと待ってて!ベアトリーチェさん、特盛ふた丁!」
ジュースを取りにいくベアトリーチェのスキップを見てボクは気を遣われているのが痛くて少し嬉しかった。




