12.欲のない欲求
馬車には老人と息子夫婦、着飾った3人組
みの男女が乗っていた。
「ベアトリーチェ様楽しみだよな」
「新世界最高の歌姫にやっと会える!」
ボクはのんびりと草原を眺めているネオンに疑問をぶつけた。
「コンサートがあるみたいだけど経済がなかったら観客は無尽蔵に押し寄せて最前列を奪い合うんじゃないの?レイヤー相違だっけ、誰かが整理だってできない」
「先着順で全席指定、レイヤー相違はオフ。人間が公共のルールを教会に投票、教会が定めて違反には超常で介入するよ」
「そういう干渉もするんだ」
「集団の秩序にはね。公正中立が絶対だから文句のつけようがないし、人間が欲した干渉に応える奉仕だから問題になったことはないかな」
「システムの干渉を生理的に嫌う人だっているかも」
「六花、それはない。旧来の主従関係を捨てない人類は新世界には来ない。こんなはずじゃなかったというなら無人島で暮らせばシステムはまず干渉しない」
「人間が合わせろだったね。ちょっと悔しい」
「何がだい?」
「ユートピアの盲点を見つけた気になってたのさ」
「あはは、無理だよ。六花は翼神に全てを与える義務や責任があると思ってる、でも翼神は人間も協力しろというスタンスだからね」
「神ってのが紛らわしいのさ」
「そうだね、造物主が名付けた歪んだ主従関係が原因だ。私たちはその中間、善き隣人になりたいんだけどね」
「対等な協力者?」
「人類の野生を管理して社会を維持する代わりに人類の幸福追求の手がかりを提供してもらう。そういう関係を最適解としたのさ」
「欲のない欲求って変なの」
「奉仕や献身は違うかい?」
「それだって純粋じゃないもん。人間は承認欲求や打算が混じる、でも翼神は混じらないから却って違和感があるんだよ」
「なるほどなあ。でも六花が翼神の純粋さを認めて監視や管理への嫌悪感が多少拭われたなら案内人冥利に尽きるよ」
「冥利って」
「さあ、見えてきたよ」
愛の都は白亜と金の外装に統一された巨大な城塞都市だった。何かから防衛する必要はないのだろうけどボクはその美しさと安心感から愛の都と呼ぶのが相応しいと思った。
「この穏やかそうな街に一体どんな刺激があるんだろう」
ボクの好奇心は最高潮に達した。




