11.人が考える正義
新たな体験に向けて逸る気持ちのボクを見てネオンが手綱を引いた。
「馬車まで時間があるから昼食にしようよ」
「あ、はい」
ホテルのレストランは親戚の結婚式で一度だけ行った披露宴会場のようだった。豪華さと華やかさの象徴のような空間にボクはたじろいだ。
「ボク魚臭くないかな。それより、こんな格好で入っていいの?」
「大丈夫だよ。ユートピアの人たちは心が広いから」
ニコニコしながら否定も肯定もしないネオンに乙女心の最適解を求める習性はないらしい。
釣った魚はホテルでのボクたちの昼食に姿を変えた。ネオンはボクの魚をチラッと見て自分の皿を見つめていた。ボクは釣りでネオンにも勝った。
「疲れてないかい?」
「うーん、大丈夫。それで、愛の都は遠いの?」
「乗り合い馬車で夕方には着くよ」
「たまには貴族が乗るような馬車にしてよ」
「あれは味気ないよ。物語が生まれない」
「はいはい、ボクがワガママだった」
「六花は忘れかけてるけど、見学ツアーだからね」
ボクは迷宮の虜になって知的探求心に夢中になっている。ネオンはたまに冷水を浴びせて夢を覚ます。きっと僅かな経験で結論を出すなと言っているのだろう。最初はユートピアに誘い込むのが目的だと思っていたけど今はそう思わない。
ガチャンという音でボクは我に返った。
給仕が隣の客のコーヒーカップを引っ掛けて客の服を少し汚したようだ。
ボクは小声でネオンに言った。
「あの人は星がもらえそうにないね」
「そうでもないよ。彼は去年の三つ星さ」
「弘法も筆のアヤマリ?」
「いや、彼はいつもあんなだけどめげずに誠心誠意で頑張ってるのが評価されてる」
「翼神優しいじゃん」
「演じていない部分まで見たら人間は評価を変える。良くも悪くもそこには物語がある」
「今の話で貴族の馬車も乗り合い馬車もそれぞれ長所があるって分かったよ」
「ネオンはユートピアを理想としながら勧めてこないよね?」
「公正中立と価値観の尊重。私はこれでもシステムの一員だからね」
「人類はみんな電脳化した方がいいと思う?」
「合理的にはそうだね。支配は格差を生み人から自由を搾取するし持続可能社会といいながら資源を奪い合ってる。野生の発散と個の自由の釣り合いが取れない社会は理不尽を生む」
「やたら理不尽を嫌うよね?」
「非合理的だからね。例えば地動説が真理だったのに天動説が人類を不幸にした」
「いじめと同じ…人は真実より支配する力が欲しい…」
「人間が考える正義はそういうものさ。翼神は公正中立を壊さずにいられない人類を野生と認めつつ独立して新世界を創った」
「遊園地の逆パターンだね。なんだか地球人類が馬鹿馬鹿しくなったよ」
「人類は物質的な価値観で真贋を定義して支配や優越感を守りたい。その構造を理解して新世界を見ないと価値は見出せない」
「また難しい話になっちゃった」
「このツアーの真の目的は六花の価値観を見学させることだからね」
「あー、もういい。お腹もいっぱいだけど頭もパンク寸前」
「そろそろ馬車の時間だ。風景でも眺めてリラックスしなよ」
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