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久遠の重力  作者: めざしと豚汁


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10/23

10.不確定を好むAI

翌朝のネオンはとても元気だった。

寝癖を整えるボクをドア越しに急かして満面の笑顔で出発した。


「もしかして釣りが好きなの?」

「もちろん」

僕たちの乗ったボートは湖面を滑るように進み対岸近くの沢の流れ込み近くでネオンは錨を降ろした。


「さあ、どうぞ。餌はついてるから待つだけだよ」

そう言ってボクに釣り竿を渡して自分の準備を始めた。


「釣りが好きなAIって変わってるよね」

「不確定なことに身を投じるのは本来ならエラーだけど、この学習方法は悪くない」

「動機不純に聞こえるけどネオンが楽しいならいいよ」


30分経った。

「釣れないね」

「そろそろ翼神に許可を得て超常で…」


不確定は悪いことに変わったらしい。

ネオンはネオンで合理と非合理の境界線を目指して揺れているのだろう。


1時間経った。

「そう言えば、ホテルのスタッフも人間なの?」

「なぜ?」

「毎日奉仕するのって無理そう」

「この世界で人じゃないのは翼神と私たち教会の関係者だけ。ホテルのスタッフは特別な晩餐会を目当てに働いてるかな」

「そんなに凄い晩餐会なの?」

「そうだね。教会が用意するものは超一流品」

「餌付けじゃん」

「経済を消滅させたから動機を生むために欲求を突く。こんな風にねっ」

ネオンが一匹釣り上げた。

「支配が生じるのはダメじゃなかったの?」

「強制はない。餌付けと言ってたけど私たちは名誉を得る場を提供しているのさ」

「どういうこと?」

「君は、星という評価は知ってるよね?このホテルは三つ星だ、とか」

「…それを労働者単位でやってるの?」

「人間がね。例えば君を世話したメイドさんは3年連続無遅刻無欠勤、ホスピタリティの評価は毎年五つ星だ」

「凄い…」

「その凄いを可視化したのが晩餐会。彼らは食事より認められた名誉で自尊心を満たす」

「それは、どんな仕事でも?」

「私たちと教会は全てを見ているから影など差さない」

「聞こえはいいけど監視社会じゃん」

「人類はそれを悪いこととしてるけど君の街の防犯カメラは悪いものなの?」

「だけど、見なくていいものまで見られるのはいい気がしないよ」

「六花はお風呂に入る時、洗濯機に裸を見られるのを気にするのかい?」

「……しない」

「我々はそういうものなんだ。人類からすればただの背景であり、欲求など持たない機械だからね。君たちの防犯カメラは、君を断罪するためにあるのかい?」

ネオンの声はどこまでも穏やかで、だからこそ拒絶する隙を与えない。

「……でも、息苦しいよ」

「人間がシステムに合わせるしかないことだってある。ユートピアは『願いを叶える場所』じゃない。『理不尽な袋小路をなくした場所』なんだよ」

また、迷宮に突き落とされた。そう思った瞬間――。

「わわっ!」

突然、手元の竿が大きくしなった。水面下でギラリと銀色の鱗が躍る。

「釣れた!」

「おめでとう、六花。未知と不確定に、君が勝った瞬間だ」

釣り上げた魚の重みを感じながら、ボクはネオンを疑り深く見つめる。

「……ネオンの『超常』じゃないよね?」

「私は何もしていないよ。干渉したら、君の『野生』が発散できないからね」

――ボクの、野生。

「君は野生を野蛮だと思っている。だから自分の中にあるそれも認めたくない。……けれど、それを認めないことは、他者への価値観の押し付けと同じなんだよ」


「ユートピアは価値観を最大限に尊重して相互干渉だけを管理する…」


「それが翼神の最適解。互いの権利を奪わず縛らない、トラブルは人生のスパイスであり物語は人類の財貨というだけの世界」


「集団が生む理不尽だけを管理して個人には良くも悪くも干渉しない…ダメだ、ボクには難しい」

「君はまだ子供だからね。理解するための経験が足らないのかもしれない」

「自由を美化し過ぎてたかも」

「そうかもね。次に案内する『愛の都』は君には刺激が強いかもしれないけど人類が求めた自由の一面だから是非見て欲しい」


「また遊園地みたいなギャップに粉砕されそうだね」


ネオンは何も言わずただ微笑みながらボートを漕ぎボクはその揺れを好奇心と不安と比喩しながら陸に戻った。



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