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1-8 暗中模索

あれだけ騒がしかった辺りのプレイヤーも、その最後の言葉に呆気にとられたのか、しんと静まり返っていた。ふと、噴水から水が流れる音が聞こえ始め、NPC達がまた動き始める。ムサマンサはあたかも何事も起こらなかったかのように先程までの喧騒を取り戻す。一人のプレイヤーが頭を抱えながら崩れ落ち、嗚咽混じりの声で泣き叫んだ。



「ふざけんな、ふざけんなよ……! なんで俺達がこんなふざけたデスゲームに巻き込まれなきゃならねぇんだよぉ……!」



ヤルダバルト、アンクルコミー、カルマリオンの三人は互いに顔を見合わせる。少しの沈黙の後、ヤルダバルトが口を開いた。



「流石にここまで来てたちの悪い冗談、ってわけはねぇよな」



カルマリオンは絶え間なくコンソールウィンドウを操作していた手を止めてヤルダバルトに答える。



「ああ、ダメだな。ログアウトの項目が完全に飾りになっている。残念ながらやつの言葉に嘘は無いらしい」



アンクルコミーが肩をすくめながら首を振る。



「私にはヤツがふざけていたようにしか見えんがな。とはいえふざけながら事実を語っているということもありうるか。さてヤルダバルト、これからどうしたものかな?」



「オイオイそこでなんでいきなり俺に振るんだ」



「こういう時に行動の指針を立てるのはお前の領分だろう? いつもの通り、アテにさせてもらうとしよう」



「全く好き勝手言いやがってよぉ……」



ヤルダバルトは少し考え込むが、すぐにかぶりを振って二人へと向き直る。



「ダメだ、何か考えるにしても情報が足りねぇ。結局あのデカブツが言うところの攻略にしたって、実際どのエンドコンテンツが門に繋がってるのかだとか肝心なことは一切わかってねぇからな。まずは何よりも情報収集が先だ」



コンソールウィンドウを操作しながらカルマリオンが答える。



「それもなかなか難しいのではないか? ユーザーの掲示板を見るに上から下まで罵詈雑言がビッシリだ。これでは情報収集もままならんぞ」



「ま、俺もそんなこったろうと思った。当然他のプレイヤーも俺達と大差ない状況だろうからな。だから欲しいのはこんな状態でもある程度信頼できて俺達の持っていない情報を持っているであろう情報源、つまり…… NPCに会いに行かねぇか?」



「NPCに……なるほど、ポートエスケンに向かうということか」



 今この三人がプレイしている『クリファン』に限らず、現行のVRシステムでプレイできるゲームのNPC達は作り込みが異様に細かいことで知られていた。そのNPCが主要な登場人物であるか否かにかかわらず、全員がまるで実際に生きている人間のようだと、ほとんどのプレイヤーが評価している。生身の人間と同様に行動し、思考し、反応する。それは人間やそれに類する異種族のNPCに限らず、動物やモンスターに至るまで共通している特徴である。NPC達がプログラムで動いているとは思えない、とは初めてこのVRシステムが世に出た頃、ゲーム雑誌のレビューに記された一文であった。



さながら生きた人間のようでありながら、ゲームシステムによってプレイヤーとは異なる情報源を持つNPC達と接触するという方針に至ることは、長くVRMMOに親しんだ彼らであれば自然なことだろう。しかし、納得している様子のヤルダバルトとカルマリオンの二人とは違い、アンクルコミーは少し首をかしげていた。そして、そのまま二人へと質問を投げかける。



「あーすまない、NPCとの接触を試みるという大方針自体はわかったが、いかんせん私にはわからんことが多い。ポートエスケンとはどこだ? そこでどんなNPCと接触するつもりだ?」



「まあアンクルコミーはこっちにログインするのすら久しぶりだもんな。一応は一通りストーリーをやってたとしても、色々忘れちまってるのもしょうがねぇよ。まずポートエスケンってのはこのムサマンサから北西にある港町だ。この辺りの砂漠地帯と他の地域を結ぶ海の玄関口ってやつだな。こっからだと……間にワープポイントになる街を挟んで敵がいるフィールドを二つ抜けることになる」



「ああ、思い出したぞヤルダバルト! 確かストーリーで何度も向かうことになるクセに絶妙にアクセスが悪かったあの街か。そういえば序盤の頃はあそこにプレイヤーが所属する組織の本部が置かれてあったな。名前は思い出せんが……」



「おう、あってるぜ。名前が『大地の盟約』、ざっくり言えば世界中に埋まってる巨大な不発弾を一つ一つ秘密裏に処理して回ってる国連軍みたいなもんだな。どうだ、思い出したか」



「とりあえず私もストーリークエストでそのようなことをやった覚えはある。具体的な物語は流石に全部思い出せんがな。まあその話はまたおいおいで構わん。一時期どっぷりとこのゲームにハマっていたお前達のことだ、どうせ長くなるだろうし、今は重要なことではないのだろう?」



「まあそうだな。とりあえずはポートエスケンへ向かうことを最優先にしたいところなんだが……問題はどうやってそこまで行くかなんだよな」



その言葉を聞いてカルマリオンはコンソールウィンドウを操作し、その画面をひっくり返して二人に見せた。



「あいにくとご丁寧にワープポイントの登録も全て無効化されている。楽に到達はできないらしい。残念ながら正攻法で行くしかあるまい」



「マジか……いやまあ俺もそうだろうなとは思ってたんだけどな。となるとまずはフィールドを抜けられるようにレベルを上げるところから始めるしかねぇか。あんまり時間はかけたくねぇんだけどな」



「だからといってデスゲームである以上、レベルが低いままフィールドを抜けようとすればすぐにやられてしまう。そのリスクは流石に負えないだろう?」



「わかってるよカルマリオン。だから作戦はこうだ。まず俺達はこのムサマンサから出ないでこなせるサブクエストをクリアして多少レベルを上げる。んで、実際にポートエスケンへと向かう道中は、タンク役一人に敵の攻撃を引き付けてもらいながら敵のいるフィールドを強行突破しちまおう。残り二人でポーションをタンク役にガンガン使えば、まあなんとか死なずに突破できるんじゃねぇか?」



「ふむ、となると必然的にタンク役は私が行くことになるか。この中で純粋な戦闘の腕に関しては私が一番だろう?」



「いや、タンク役は僕が行こう、アンクルコミー。君が得意なのは敵の攻撃を引き付けながらそれを避ける回避型のタンク役だろう? 今回のような相手の攻撃を受け止めるタイプのタンク役に関しては君よりも私の方が習熟していると言っていい。ここは任せてくれたまえ」



「む、そうか。ならば『クリファン』を遊んでいた時と同じように、私が攻撃役でお前がタンク役、残ったヤルダバルトが回復役をやる形だな? 確かにその方が妙なミスで事故を起こすリスクも少ないか。では、レベル上げは具体的にどの程度上げるつもりだ?」



「そうだな、安全マージンを取ったとしても大体レベル十五近くまで上がってりゃなんとでもなるはずだ。道中での戦闘中とか戦闘後に使う回復手段も確保しなきゃいけないけど、まあそっちは俺がなんとかしよう。んじゃ、一旦それぞれが街の中で達成できる安全なサブクエストをこなしてレベル上げするか。大体一時間もあれば目標に届くだろうから、そのくらい時間経ったらまたここに集合でいいよな?」



三人は互いに頷き合い、それぞれが別れて街の中へと向かっていった。

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