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1-40 良心なく

 辺りにヤルダバルトがすりこぎをゴリゴリと動かす音だけが響く。石造りの床に錬金術の道具を広げ、彼は薬の精製作業に取り掛かっている。今この場に居るのは四人。アンクルコミーとカルマリオンは辺りを警戒し、ヤルダバルトの作業に邪魔が入らないようにしている。そして、もう一人は変わらず光のドームの中央に居座り、彼の作業を黙って見つめていた。今プレイヤーの三人は皇都の遥か地下深くに位置する巨大遺跡群の中、封神アラクネーの目の前に居る。この場所であれば誰かに作業を目撃される心配もなく、屋内とは言え縮尺が巨人向けの大きさであるため、作業のための空間も十二分に確保できた。件の封神アラクネーはいたく顔をしかめてヤルダバルトの方を見ている。それを見てカルマリオンが誰に向けるでもなく呟く。



「しかし、すごい顔をしているなヤツは」



「んあ? あー、確かにすげぇな。流石にわざわざここに来てまで制作系の作業をするヤツなんざ居なかっただろうからな。ともすりゃアイツにとっちゃ、手を出せないのをいいことにわざわざ目の前で素材の加工をするという、ある種特大の煽りをしているようにも見えるんじゃねーの?」



「こちらにはそんな意図なんてまるきり無いのだがな。しかし、随分と手際がいいな、ヤルダバルト」



「んお? そうか?」



ヤルダバルトが手元を確認すると、そこには四種類の薬の完成品が瓶詰めされて陳列されていた。それに加えてカルマリオンが調達した蒸留酒も置かれている。カルマリオンが瓶を一つ持ち上げ、中身をまじまじと眺めてからヤルダバルトに振り向いた。



「君はさっきから私と話をしつつも淀み無い動きでこれらを作っていたじゃないか」



「え、マジで? 半分無意識に手を動かしてたんだけどな。つか錬金術に使う道具一式も初期装備から更新してねぇのにこんなあっさり作れちまっていいのか? そりゃ工程を完璧にこなしちまえば、どんな道具を使っててもあらゆる物を最高品質で制作すること自体は理論上可能ではあるんだけどよ……俺そんなに薬の抽出なんてしてたっけか?」



「そりゃあ、『OSAKA』のアイテムなのだから、あっちで作っていたということだろう」



「いや、確かに『OSAKA』で一時期金をケチって薬を自作してた時期もあるし、何ならその後しばらく製薬がメインの金策だったこともあるにはあったな。あーいや、やめておこう。これ以上考えるのは、何かがとてもこう良くない気がする。それに、いくらアイテムとして作ることが出来たとしても、結局最低品質のものしかできちゃいないのかもしれないしな! よし、ともかく実験だ!」



ヤルダバルトは並べている酒と薬をインベントリに収納し、アンクルコミーへ頼んで猟師のスキルであるボムトラップを設置させた。その後錬金術の道具に残った薬を薬指にすくい取り、舐める。



「視界と思考が一気にクリアになる感覚。回りの動きがスローモーになったように錯覚するこの感じ、やはりヤバい! おっ、スッゲーキマる!」



ヤルダバルトはその叫びを上げた瞬間ボムトラップを踏み抜いた。当然その衝撃に反応し彼ごと辺りが一気に吹き飛ぶ。煙が晴れると、そこには全身が黒く焼けたヤルダバルトの遺体があった。その浮遊霊にアンクルコミーが話しかけた。



「ヤルダバルト、アラクネーの方を見てみろ。面白いものが見れるぞ」



「うわっ、ドン引きしてる。まあそりゃそうか。向こうからしたら、わざわざ目の前で作っていた物を味見したヤツがいきなり自爆したってことだもんな」



事情を知らぬ者から見れば意味不明な行為ではあるが、ヤルダバルトの視点から見れば実際に必要だから自爆しただけのことである。『OSAKA』ではこうした薬を使用した際、副作用が発生する前に死亡判定を受けてそのデメリットを踏み倒すプレイイングはよくあるものだった。アンクルコミーとカルマリオンには味方を復活させる手段が無いため、ヤルダバルトは一度皇都へワープしてからこの場所へと戻って来た。その姿を確認したカルマリオンが軽く手を振りながら声を掛ける。



「やあ、おかえりヤルダバルト。その様子だと中々に良いものが作れたらしいな」



「おう、あの感じは多分最高品質モンだと思うぞ。ま、後三回は試してみないとわからないんだがな」



「まあ、今まで警戒していた感じからすると、おそらくこの一帯は安全地帯と言ってもいいだろう。特に敵を警戒する必要もなく、気兼ねなく実験ができるな」



「まあ目の前にはでっけー敵は一柱いるんだが……警戒しなくて良いってのは確かにありがたいモンだ」



結果として、ヤルダバルトはこの後三回自爆することになった。彼が抽出した四種の薬全てが最高品質であったため、それに付随する極大のデメリットを踏み倒す必要があったのである。ヤルダバルトが実験を終えて床に積まれている巨人サイズの本に座りたそがれていると、アンクルコミーが腰に手を当てて話しかけた。



「流石だな、ヤルダバルト。やはり制作系で君の右に出る者はいないな」



「いやーなんだろうな、やっぱりクリファン産の材料から抽出した薬の方が全体的に薬効が強いだけだと思いたい。こんな薬を作る上達してた可能性とかあまり考えたくねぇわ」



ヤルダバルトは現実逃避がてらインベントリから酒を含めた薬を全部床に置き、ハイランドビーの毒針も全て床の上に広げた。そして三人で毒針に薬をスポイトの要領で入れていく。三人が黙々と作業を進めていく。彼らが全ての毒針を充填した後も、薬は全種半分以上が残っていた。ヤルダバルトが頭を抱える。



「まいったな、まさかこんなに余るとは思わなかった。金策に使おうにも、流石に犯罪都市でもない場所でコイツを売りに出そうとしたら犯罪者指名手配待ったなしだ」



「そんなことになったら今後身動きがとれなくなるではないか、どうにかバレないように死蔵するしかないだろう」



「やっぱそうだよなカルマリオン……ひとまずなんとかバレなさそうな方法でしまっとくか」



ヤルダバルトはシステムチェンジ設定を開き、データを『OSAKA』のものに切り替えてからインベントリに薬を全部しまい込む。



「これでよし、っと。流石に他人のインベントリ内を勝手に覗いたりする方法は無いはずだが、念には念を入れてより分かりづらい方法で収納しとこう。俺が間違えて人前でいきなり薬を取り出しちまうなんてことが無いようにもしたいしな。よし、こっからが本番だ。気合い入れていこうぜ」



ヤルダバルトは用意してあった粗製銃とそれぞれの薬が入った弾を三人に分配した。弾の数は全種類がアンクルコミーへ多めに渡されることとなった。



「私の分が随分と多いな、ヤルダバルト」



「この粗製銃で動く的にたやすく命中させられるのはアンクルコミーだけだろうし、今回俺もカルマリオンもあくまで脇役でしか無いからな。まあ、もちろんアンクルコミーが作ってくれた隙は俺達も有効に使わせてもらうぜ」



「わかった、せいぜい期待に応えられるよう、頑張らせてもらうとしよう」

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