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1-37 対策

 帰還したヤルダバルト達が封神アラクネーの所在を確認したこと、女神マーテラの封印が機能していて地上が襲われる心配が無いことを伝えると、トルステンは目に見えて安心した様子で一つため息をついた。



「まずは君たちが強行偵察を敢行してくれたこと、心から感謝している。礼を言わせて欲しい。封神アラクネー討滅のために必要な事なら何でも協力しよう」



「いやそうして約束するにしてもよ、何でもって言うのは流石に安請け合いが過ぎるだろ騎士団長殿」



「しかしなヤルダバルト、君は無理な事なぞそもそも頼んでこないのに何を言う。遠慮なんてせず少しは私達も頼って欲しいと思うのだが」



「もう十二分に世話になってるよ。でなきゃそもそもここにすら来れてねぇ。ともかく、今度はアラクネー討滅に向けて具体的な策を練りたいんだ。他に報告することもないしまた何かあったら連絡させてくれ」



三人はトルステンに別れを告げてひとまずアッシュグレイ家が用意した客室へ向かう。使用人に用意してもらったホットココアを片手に、三人はテーブルを囲んで相談を始めた。



「さて、あの封神アラクネーと改めて相対した訳だが……まず私の所感から言わせてもらうと、アレの動きは『クリファン』ストーリーのより後の方になって実装されたボスエネミーと比較してかなり動きが読みやすい。その事は三十分間無被弾のまま戦い続けたアンクルコミーも同意してくれるだろう。ヤルダバルトとて、増え続ける眷属を適切に処理できていれば特段問題なく戦い続けられたはずだ。となると結局の所、今回我々が敗北したのは、皇都にたどり着くまでの道中を強引にすっ飛ばした結果生じた全員の基本的なステータスや装備の不足に起因すると思う。その上でヤルダバルトよ、何か妙案は浮かんでいたりしないか?」



「いやー、まだ何もねぇな、カルマリオン。だからとりあえず前提の方から詰めて行こう。今回の封神アラクネーに限らず、強敵を倒すためのアプローチは大きく二種類に分けられる。つまり、強敵と真正面から戦えるまで自分達を強化するか、相手を自分達と同じくらいの強さまで引き摺り下ろすか、の二択だ。今回に関しちゃ、効率的なレベル上げや装備強化の方法ができてないから、後者のアプローチで考えることにしたいが異論はないな?」



「相手を我々で倒せる強さまで引きずり落とす、それはいい。だが、問題はあのアラクネーに限らずとも、ボス相手に強力なデバフは通らないということだ」



「そう、それが問題なんだよなアンクルコミー。『クリファン』に限ったことじゃないんだが、大抵のボスエネミーにはデバフ効果、つまり相手に不利な効果を与えるスキルや魔法が効きづらかったりそもそも効かなかったりする」



「私が時折使っていたフラッシュバンも効いている様子がなかったからな。『クリファン』にはボスにも効く強力なデバフの類は無いのか?」



「デバフ自体に関しちゃほぼ全ての職業にあるような攻撃力低下デバフがあるんだけどなぁ……効果量が低い上に時間も数秒間しか持続しないからアラクネーの完全無力化なんてのは無理だ。もちろん普通に攻略する分には強力な攻撃に合わせて決め撃ちで使えばかなり役に立つんだがな」



「となるとやはり違うゲームから強力なデバフを持ち込むことがカギとなるだろう。サイト・ディーモンアイでいくつか実験した時に、『クリファン』のデータで他のゲームのアイテムも問題なく使えていたな。ならば何か無いか、ヤルダバルト?」



「何かっつてもなぁ、そもそもゲーム自体の選択肢が多い上に、どのゲームのどのデバフが有効になりそうかってのを検討するのも結構骨だぜ」



ヤルダバルトはそう言ってマグカップから一口すすろうとしたが、カップは既に空になっていた。他の二人もそれぞれの分を飲み切ってしまっていた。



「ハイランドのココアはやたらと美味くていけねぇや。俺はおかわりをお願いしに行こうと思うんだが、二人はどうだ?」



「私も貰おう。考え事をするにも糖分補給はあった方が捗る。気分だけだったとしてもな」



「僕も貰いたいと思っているが、わざわざ自分でキッチンまで行く必要もないだろう、ヤルダバルト。使用人に頼めばいいじゃないか?」



「まあたかだか飲み物三杯のために呼びつけることに気が引けるってのもあるがな、カルマリオン。何より俺達の会話の内容を聞かれるリスクを避けたい。いずれ出回るだろうことでも、他のゲームのデータを利用できるって情報はなるべく俺達だけで秘匿しておきたいんだ。ウォルター達『大地の盟約』側の攻略組に対して俺達が有利に立てるアドバンテージだからな、漏れる可能性は減らせるだけ減らしたい」



「それもそうだ。そういうことなら君に任せるとしよう」



ヤルダバルトは三人分のコップを持ってキッチンへと向かった。そこに居た使用人におかわりを頼むと、彼は新しいカップを用意してココアを注ぎながら、ヤルダバルトに話しかけた。



「御三方とも、随分と気に入ってくださったようですね。よろしければ、ブランデーもお入れしましょうか?」



「あー、いや、せっかくの提案だが遠慮しとこう。悪いね、ありがとう」



「いえ、お気になさらず。どうぞ。熱いので、どうか気をつけてお持ちください」



ヤルダバルトは先程の会話で何か気になったことがあるらしく、飲み物三人分を抱えて客室へ戻りながらしきりに頭をかしげていた。部屋に到着した彼はカルマリオンに扉を開けてもらい、カップをテーブルに置いてから椅子に座る。ヤルダバルトが難しい顔をしていることに気が付き、カルマリオンが問いかけた。



「どうかしたのか、ヤルダバルト。何かあったのか?」



「いや、さっきからずっとなんか引っかかってるんだよ。何か思いつきそうな感じがしてな」



「我々との話ではなさそうだな、これをもらってくる時にアッシュグレイ家の使用人と何か話したとかではないか?」



「そういえばこのホットココアにブランデーを入れるかどうかって聞かれたな。ブランデーか――そうか! そうだ酒だ!」



「うおっ、いきなり脅かさないでくれヤルダバルト! 危うくこぼしかけたじゃないか。それで、その様子だと何か妙案を思いついたらしいな」



「ああ、確かに思いついたぜカルマリオン。実際問題として、ボスエネミーに有効なデバフってなると中々無いのは事実だ。だが、逆に有効なバフの方ならどうだ? とびっきり効果が強くて、副作用まで発生するようなバフアイテムを使えば実質的にデバフを通せるんじゃないか?」

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