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1-33 ハイランド

 そうしてトルステンが皇都へと帰った翌日、皇都防衛騎士団の使者がサイト・ディーモンアイに来訪し、三人は皇都入りを果たすこととなった。どうやらプレイヤー達の状況を重く見た騎士団長が随分と骨を折ったらしく、極めて異例の速度で各方面に話を通したらしい。プレイヤーの三人が軽く宿舎の片付けを済ませてフォルストンへ出発の挨拶をすると、結局彼らが皇都へ向かう際に同行する話になっていることを、さもなんでもないことのように普段の穏やかな笑顔で伝えた。強行軍をした結果周辺のエネミーの強さに比べてプレイヤー三人のレベルが低すぎることもあり、彼らが無事安全地帯にたどり着けるまで見送りを兼ねての護衛を行うためであった。出発の支度を終え、つかの間の休息を兼ねて四人でホットココアを飲んでいる時、フォルストンはプレイヤー三人を監視塔へ登るよう誘った。その日は雪が降り積もるサイト・ディーモンアイとしては珍しく晴れており、監視塔頂上から皇都全体が美しく見える時間であった。各々が飲み物を手に塔の階段を登っていく途中、ヤルダバルトはフォルストンヘ問いかける。



「いやしかしフォルストン卿も騎士団長殿もよくここまで俺達のために無茶をしてくれるよな。俺達が来てから二人ともえらくリスキーなことばっかしてるじゃねーか」



「それほど気にすることでもない。実のところ、我々の方も打算があって君達に協力しているだけのことだ」



その話をしている内に彼らは階段を登りきる。雲一つない青空に皇都がその白い城壁に日光を反射させ輝いていた。マグカップ片手に皇都を眺めながら、フォルストンは静かに言った。



「私達は、あの皇都を、あそこに暮らす民を守るために戦っている。だが、君達と出会って蘇った記憶だと、結局は妖魔軍の策を見抜けずに多くの命を失うことになった。我々がなんとしてでも守りたかったものを、結局は守りきれなかった。だから私達は二人共、君達に期待してんているんだ。あの惨劇をなかったことにしてくれるんじゃないか、とね」



フォルストンは一口マグカップから飲み、一つため息をつく。その白い息が、陽の光に照らされた皇都に重なって、消えていった。彼は外へ向かって両腕で前のめりにもたれかかり、目を細めてじっと皇都を見つめる。誰に言うでもなく小さくつぶやくその声を、ヤルダバルトは聞き逃すことは出来なかった。



「やり直したいのは、何も君達だけではないんだ」



 彼らはやがて皇都防衛戦線の舞台となる雪が分厚く積もった巨大な橋を渡って行く。橋と街の境に設けられた防衛設備を兼ねる検問所を抜け、一行はようやく当面の拠点とする目的地へとたどり着くことができた。薄暗かった検問所の扉を開けると、ヤルダバルトには辺りがいやに眩しく感じられた。雲の合間から太陽の光が射し込む。ムサマンサのものとは異なった石造りの町並みに、積もる雪が日光を反射して白く輝いていた。古くからの歴史を感じさせる建造物のすぐ横に、真新しい木材で階段や渡り廊下などが増築されているこの街は、ハイランドの民にとって常に安住の地であったわけではなかった。



ハイランド皇国がこの地で創設されるはるか昔、この場所で妖魔が都市を築いて暮らしていた。だが、ある時点においてこの星から妖魔は姿を消した。そうして妖魔達の都市も荒廃し、その果てに痕跡すら地下に埋もれてしまった。そうして何もかもが無くなった後、都市づくりに適した土地としてハイランド皇国の創設者らが選んだのがこの皇都であった。



ハイランド皇国が設立してから二百年が経ったある時、妖魔が再びこの土地へと現れた。彼らはかつて暮らしていたこの場所を、遥かなる昔から約束された妖魔安住の地として認識していた。妖魔達は安住の地を奪われた怒りから、そして彼らの聖地を奪還すべく、皇都への侵攻を行う。突如現れた外敵にハイランド皇国はなすすべもなく敗走し、数多の犠牲と共に遷都を余儀なくされる。皇国の民は、彼らの視点において理由もなく襲ってきたとしか思えなかった妖魔に対し報復を誓う。これこそが既に千年以上続いている妖魔戦争の発端であり、ハイランド皇国と妖魔軍とは度々互いにとっての聖地であるこの皇都を奪い合っていた。



片方がもう片方から”聖地”を”奪還”し勢力下に置く度に、この街は解体され、または建て直されてかつてあった街の上に新たな街並みが築かれていった。そうして幾度も破壊や改築、増築が繰り返されていく内に様々な時代の建造物が混在しながら一つの都市として形作られていった。



今彼らが歩いている石造りの道は古い時代に人間が作ったもので、その目の前にそびえ立つ大きな建物は妖魔が支配していた時代に、妖魔が暮らすために建てられたものである。現在はそれを補強するため、そして人間が暮らす上での利便性のため、出っ張った出入り口を支えるように木材で足場と階段が組まれていた。



このような歴史をたどったことから、この皇都の地下には広大な妖魔の遺跡が眠っている。そして、皇都防衛戦線での惨劇を引き起こした封神が封じられていたのもその遺跡であった。ハイランドの人々にとって、皇都はいわば核弾頭の不発弾が埋まったままの土地のようなものだったのである。

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