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1-14 変装

 ムサマンサへと到着した彼らはまずプレイヤー達が利用する宿屋兼酒場である店に向かった。ウォルターの見た目では否が応でも目を引くため、どこか落ち着ける場所での情報交換をカルマリオンが提案した。装備の調達でダランをほぼ使い果たしたヤルダバルト達に代わり、ウォルターが決して安くはない酒場の個室代と食事代を出した。そうして彼らは酒場の個室へと入り、それぞれが椅子に腰掛ける。ヤルダバルトの真正面にはウォルターが座った。ヤルダバルトがキグルミの生気がない瞳に気圧されているうちに一通り料理が運ばれ、カルマリオンは店員へ彼らが店員を呼ぶまでは誰もここに入れないよう頼む。ヤルダバルトの隣に座っているアンクルコミーがヤルダバルトへ話しかける。



「なんというか、随分と念入りに人払いをするのだな」



「わっかんねぇ。そりゃあ情報交換をするのは大事だけどよ、わざわざここまでする必要があるのか?」



廊下を覗き込んで店員らの様子を見ていたカルマリオンが戻り、ウォルターへ話しかけた。



「もう大丈夫だ。この様子なら他のプレイヤーに話を聞かれる心配はないだろう」



「ようやくか。全く、人気者は辛いもんだな」



「ちょっとまて、今の誰だ。この誰もが羨むようなイケメンボイス、まるでウォルター・ムーンクレストそっくりじゃないか」



声がした方にヤルダバルトが振り向くとウォルターがキグルミの頭部を外してその素顔を見せていた。真っ白な髪に少し日に焼けたような浅黒い肌、ニヤリとニヒルな微笑を浮かべていながらもなぜか温かな印象を受ける彼は、NPCウォルター・ムーンクレストそのものの顔をしている。



「流石にあの頭で食事は無理な話だからな。俺だけごちそうにありつけないかと思ったぞ」



「オイオイオイオイオイオイオイオイ、ウォルターさんよぉ! そんだけそっくりな声出せるんだったらわざわざあんな別の声使わなくても良かっただろ! なんでそこまでなりきりを練り上げておいてロールプレイ諦めたんだ?」



「ヤルダバルト」



「なんだよカルマリオン、だってそうだろもったいない!」



「そのウォルターNPCだぞ」



「なぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁ、何を馬鹿なこと言ってるんだカルマリオン。本物のウォルター・ムーンクレストがあんな馬鹿げた格好してさっきみたいな間抜けな声で喋るわけ無いだろ」



ヤルダバルトはコンソールウィンドウを呼び出し、ウォルターのキャラクターステータスを開いた。プレイヤーであるならばそこにアバターの情報が表示されるはずであったが、そこに表示されていたものは――



『NPC ウォルター・ムーンクレスト』



「モノホンじゃねーかよ! 騙された!」



「ハハ、相変わらず愉快なヤツらだなお前らは」



当のウォルター本人は心底愉快そうに笑っていた。



「い、いやいやいやいや、やっぱりちょっと待て! やっぱりおかしいって、どう考えてもありえねぇよ! なんで本物のウォルター・ムーンクレストともあろう者があんな馬鹿げた珍妙な格好して普通に歩いてるんだよ!」



「そりゃぁ、あの格好しているのが俺本人だって、お前は夢にも思わなかっただろう? それが全ての答えだ。色々と変装のパターンを用意してはいるが、お前らプレイヤーに紛れるのならあの変装を使えば見破られることはほぼ無いのさ」



その言葉にウォルター以外の三人が互いに視線を交わす。そして今まで食事をつつきながら彼らのやりとりを眺めていて疑問が浮かんだのか、アンクルコミーがヤルダバルトに話を振った。



「そもそもの話だ、なぜウォルターがわざわざプレイヤーに紛れる必要がある?」



「お前もストーリーでウォルターと絡んだことは覚えてるだろ? だからアイツも『クリファン』での人気NPCの一人だ。今回のような状況以外でも、プレイヤー達に群がられて身動きが取れなくなるようなことも少なくはなかったんじゃないか?」



「まあな、それなりに覚えはあるさ」



「でなぁ……これが他のNPCだったら、その場でサブクエストを発行してプレイヤーに仕事を手伝わせれば十分ファンサービスにもなるし、仕事の助けにもなってお互いWin-Winになるんだ。けど、ことウォルターに関してはそういったプレイヤーに手伝ってもらえるような仕事だけをしているわけじゃねーんだ。表に出せないような仕事、特に敵陣に潜入するようなタイプの任務や、裏の人脈を必要とするような取引などはプレイヤーを伴っても邪魔になるだけの可能性が無視できない程度にある」



「敵地潜入なら私も手伝えるだろう?」



「そりゃあ、当然プレイヤーの中にはアンクルコミーみたいに潜入系のゲームを遊んだヤツとか、裏取引のロールプレイを楽しんだ結果そういうった類の話にも明るくなったヤツもいるだろうよ。でもな、プレイヤーの全員が全員できるかっていうとそんなわきゃない。んで多分だけど、ウォルターの側から目の前に居るプレイヤー自身が備えるスキルや適正を判断する方法は残念ながら無い。だろ?」



「ああ、流石にそこまではな」



「だから結果として、ウォルターがそういう裏側の仕事をしている時はプレイヤーとの接触は極力避けたいわけで……そんな時に役立つのがさっきのキグルミによるプレイヤーに紛れる変装ってわけだな。普段の仕事のためにまた着替える手間はあるんだろうが、それでもプレイヤーに見つかって無理にひっつかれるよりは良いってことなんだろ」



「なるほどな、ウォルターがあんな格好をしていた意味はわかった」



アンクルコミーは一つ納得したように頷いてから、それまで隣のヤルダバルトへ向けていた身体を改めてカルマリオンへと向け直した。



「ではだ、カルマリオン……なぜお前は彼が本物のウォルターだとわかったんだ?」



その質問を聞いてヤルダバルトが素っ頓狂な声を上げる。



「あっ、本当だ! 確かにウォルターはあの時プレイヤーを避けるための変装をしてたんだから、一目でそれがNPCのウォルターだとわかったカルマリオンはそりゃおかしい!」



だが、カルマリオンはあたかも何の不思議もないかのように、にっこりと笑ってこう答えた。



「そりゃあ、僕が彼にこの変装を教えたのだから、見ればすぐわかるに決まっているだろう?」



「なーるほどぉ、あの誰がどう見てもふざけた変装パターンを教えた本人だから、あの格好をしているウォルターが重要NPC本人だってわかったわけだ。何ならあの時の交渉も実のところ対等な交渉じゃなくて、むしろ一方的な脅迫に近かったんだな? 一見するとプレイヤー同士が対等に情報を出し合おうという提案のようで、その本質はむしろカルマリオンの提案をウォルターが飲まなければウォルターが本物だっていうことをバラす可能性をチラつかせて選択肢を一つに絞らせてたってわけか。だからあの時カルマリオンは速攻で交渉の詰めに入ってたし、ウォルターもカルマリオンの視線にビクついてたんだな。なるほどねぇカルマリオン、全くお前ってやつは本当に馬鹿だなぁ……」



「フッ、最高の褒め言葉をありがとうヤルダバルト。さて、そろそろ本題に入ろうじゃないか。ヤルダバルト、何から始めればいいと思う?」



「この状況作っておいて速攻俺に振るのかよ、まあいいけどな。そうだな、じゃあまずはさっき俺達のことを指してプレイヤーと呼んだことについて話してもらおうか。やっぱり、俺達がこの世界でどういう存在なのか、理解してるってことでいいんだな? 俺は聞き逃さなかったぞ、さっきお前があの変装をする理由として、俺達プレイヤーに紛れるためと言ったのをな」



先程プレイヤーの三人が互いに視線を交わした理由がこれであった。そのタイミングでカルマリオンが会話を打ち切ろうとしなかったことは、それまでの受け答えの中に疑わしいようなことはなかったという証拠である。彼らも確証が得られてはいなかったが、ひとまずはあの神を名乗る巨人の制御下にあるわけじゃないと仮定し、少しずつ重要な話へと進めていくとしたのである。

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