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1-12 人海

 意気込んでポートエスケンに向かった三人だが……結局、道中で敵に攻撃されるようなことは無かった。怪訝そうにするヤルダバルトが気になったのか、アンクルコミーが声をかける。



「どうしたんだ、ヤルダバルト。このところ運良く敵とあまり遭遇せずに進めているじゃないか」



「いやというよりもな、今フィールドに居る敵の数が普段ここを通る時に記憶に比べてかなり少ないんだよ。さっき出発した当初はそう思わなかったが、ポートエスケンに近づくにつれ敵の数が段々と減ってる。いや、むしろこの少なさはエネミーを間引きした直後っていう感じがするな。この辺りで何かあったのか……?」



「まあ、今は急いでここを抜ける必要がある。今は運が良かったと思ってこのままポートエスケンに入ってしまおう」



「そうだな、カルマリオン。あと少しの距離だが頼んだぜ」



 彼らはポートエスケンに到着してすぐ、その理由を知ることになった。



「わぁ……」



「これはなんとも凄まじいな……こうなると予想して急いでいたのか、ヤルダバルト?」



「イヤ流石にここまでとは思っちゃいねーよアンクルコミー。何ならこうなる前に到着できると思ってたけど……まあ流石に考えが甘かったか」



今、彼らの目の前にあるのは人、ひと、ヒト……小さな港町であるはずのポートエスケンには、その全てを埋め尽くさんばかりのプレイヤーの群れが押し寄せてきていた。既に人で溢れているような状況の中、港の船からは更に続々と人が降りては人の波に飲まれていく。呆れた様子でカルマリオンが首を横に振る。



「いやはや、これではもはやコミックマーケットだよ」



「大人気壁サークル『大地の盟約』でござい、ってか? つか、これひょっとしてアレか? 本来人口密集を避けるために設置されるミラーワールドが機能してないヤツか? だからこんなに人が集まってるってことなのかよ!?」



「そういうことだろうな、ヤルダバルト。でなければこうまで人が密集することもあるまい。これではNPCとの接触も望み薄だが、まあ僕の方で少し情報収集でもしてみよう。この辺りで少し待っていてくれ」



そう言ってカルマリオンが人混みの中へ消えていくと、戦闘の音が街の入口から聞こえた。敵が湧いたかと思ったヤルダバルトとアンクルコミーが振り返って見れば、ポートエスケンの門番とプレイヤーとが協力しながらエネミーを倒していた。エネミーが倒れると同時にプレイヤーの身体から一瞬光が放たれる。ヤルダバルトは誰に向けてでもなく、つぶやくように言った。



「アレはレベルアップした時のエフェクト……ってことはあのプレイヤーひょっとしてエネミーをこの門番のところまで連れてきて一緒に倒すことでレベル上げをしてたってことか」



「ふむ、レベルアップしたプレイヤーが門番にお礼を言って……またフィールドの方に駆け出して行ったな。ヤルダバルト、アレは一種のパワーレベリングというやつか?」



「そうだな。ああやって敵を街の門番のところまで連れてくりゃ、一緒に戦ってくれるわけだ。門番をしてるだけあって、あのNPCは周りの敵より強いから安全に狩りができる。なるほどそういうことかよ、アイツみたいなヤツがさっき通ったフィールドの敵を全部こっちに連れてきて倒してもらってたから道中あんなに敵が少なかったのか」



二人がまた街の方に目を向けると、カルマリオンが肩をすくめながらこちらへと戻ってきていた。どうやら辺りのプレイヤーやNPCに話を聞きに行っていたようだ。



「どうもここに居るのは皆、やはり君と同じ発想でNPCに会いにきたプレイヤーらしいな、ヤルダバルト。ムサマンサから来た者はどうも我々が最初のようだが……」



「つっても結局は海路で来る方がはるかに早いってこったろカルマリオン。正直ここまでえげつない人の集まり方をするとは思いもしなかったけどよ……」



ポートエスケンへ向かうルートはムサマンサからの陸路以外にもう一つ、メディカ・アカイアから船を使うルートがあった。



暖かな陽光と穏やかな潮風によって祝福された白い港町メディカ・アカイア……そこは外洋とこの大陸とを結ぶ海の玄関口であり、また数多くの人々や物資が船で行き交う交通の要所だ。かつては数多の海賊が集う略奪と暴力の拠点であったが、現在のメディカ・アカイアを治めている総督がかつて一人の船乗りであった頃、正面からその海賊全てを単独で制圧して平和な街へと生まれ変わらせた経緯がある。そして、この街もまた、ムサマンサを含めて三つある初期開始地点の一つである。



ヤルダバルトらの三人は緊急メンテの前の時点で既にムサマンサで集合していたために彼らは同じ場所に出現したが、当時『クリファン』ログインしていたプレイヤーは皆データが初期化された上で、初期開始地点として設定されている三つの都市の内いずれかへとワープされられていた。その人数もまた、それぞれにおおよそ三分の一ずつ振り分けられている。そして実際にポートエスケンへ向かうまでのルートを考えた場合、海を隔てているということを差し引いてもメディカ・アカイアから出発するルートが最も早く。そして安全であった。少額の運賃さえ払えば後は安全な船旅を過ごすだけでたどり着くことができ、その程度の金額であれば都市内で達成可能な、いわゆるおつかい系と呼ばれているサブクエストを一つこなせば稼げ、ゲーム的な都合によってか船旅自体の時間もかなり短い。つまり、地続きのムサマンサから向かうルートよりもはるかに、ポートエスケンへ向かうまでのハードルが低いということである。その結果が、今彼らが目前としている通りの人の山であった。想定外の事態にヤルダバルトは手を額に当てて天を仰いだ。



「さーって、こっからどうするかな……いくらなんでもこの状況で数人しかいない重要NPCを見つけるなんて流石に無理がありすぎる。何か、何か手が……ダメだ、思いつかねぇ……」

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