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【完結】真心スイーツとは、あなたの『痛み』が代金です  作者: 櫛田こころ


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第46話 眼精疲労にはオランジェット②

 干した果物だからか、ぱりっとはしていない。少し噛み応えのある食感ではあったが、まずオレンジの部分を食べてみると、爽やかな風味だけでなくオレンジ特有の酸味で目の奥がしゃきっとしそうになった。



「……美味しっ」



 次は、チョコレートがかかった部分。ミルクチョコレートではなく、ほんのりビターで食べやすい。下にあるオレンジといっしょに食べるとフルーティで甘酸っぱく感じた。ボンボンチョコレートのお酒ではない、ソースが入っているタイプは食べたことはあったが。


 これはまったくの別物だ。爽やかな甘酸っぱさがクセになり、いくらでも食べれそう。


 三枚しかないので、ゆっくり味わいながら食べ終えると……なぜか、息をひゅーっと吐くくらいの落ち着いた気持ちになれた。やはり、目の疲労以外にも仕事や趣味で身体も参っていたかもしれない。



「お気に召したようでなにより」



 向かい側に腰かけていたパティシエに気づかなかったが、食べているのを見られていたのを嫌だとは思わなかった。むしろ、この感動をじかに伝えたかったのでちょうどよかったくらいだ。



「めちゃくちゃ美味しかったです!! これ、本当に店長さんが作ったんですか?」

「もちろん。それが僕の仕事ですから」

「いや~。俺なんて、自炊ほとんど出来ないからうらやましい……」

「米を炊くことは?」

「するかどうかと言えばしないですね。いっつもコンビニかテイクアウトばっかり」

「なるほど。これは余計なお世話かもしれませんが、ひと息つくのに米を炊くだけでも違いますよ。炊き上がり直前の甘い湯気にほっと出来るんです」

「……へぇ?」



 それは耳寄りな情報だ。彼女がいなくて数年経つが、自炊できるような男になればモテるかもと勝手に思ったりもしたが、目の疲労を軽減するようなルーティンが出来るのもいいことだろう。


 暇つぶし以上にのめり込む勢いでゲームをするのもよくない。ブルーライトカットでも間に合わないくらいの疲れなら、寝るか自炊をすべきかどうかで迷うのもいいはず。


 政彦はあれだけしんどいと思っていた目の奥の痛みがふんわり残るくらい辛さだけになったので、本当に『代金』として症状を明け渡したのかと不思議になったが。退店する頃には、スーパーに行って二キロサイズの米を買うことへ意識が傾いていた。


 店長に何か言われた気もしたが、ごちそうさまでしたの挨拶もそこそこに出ていってしまったので、あとで『あ』となったが。財布の中身を見ても金額は減っていなかったため、もう一度あの店に行こうにも道さえわからなくなってしまっていた。



「……無銭飲食じゃない、よな?」



 そうじゃないとはっきり言っていたのは覚えていたから、彼が言いたかったのは違うことかもしれない。店名もはっきり見ていなかったため、地図アプリを確認してもそれらしいピンは出てこなかった。



「けど。あれ美味かったな? 調べて作ってみるのも……初心者にはハードル高いか?」



 だがしかし、眼精疲労が軽減したのがきっかけで『自炊』を通り越して『料理男子』になった政彦は……ゲームの合間にはなにかしら『作り置き』『お菓子づくり』で目以外のデトックスも解消し。会社では手作り弁当を持っていくくらいになってから、実は前よりも体が整ってモテるようになったのは気づかない。


 女子社員の羨望の的になっていると気づいたのは、菓子店に行ってから半年くらいだった。そう、バレンタインのチョコの量がいきなり増えてしまうあのイベントで。



 *・*・*




 甘酸っぱいものに、ビターなチョコを。


 チョコレートボンボンのソースではなく、ドライフルーツに薄くのばす程度に。


 それを考え出したのは誰だったかまでは真宙も先代の大我も知らないでいた。



「俺。ポテチのチョコがけも苦手だったけど、真宙兄ちゃんのこれは食べれる」



 どちらかと言うと、柑橘系は苦手が多いとされている。調味料はともかく、ドライフルーツだと『見た目』『食感』が苦手というのは珍しくもない。ヒカルもそのひとりだったみたいだが、あのサラリーマンにも出したオランジェットは普通に食べれていた。



「僕の手作り、という魔法の言葉のおかげかな?」

「かなあ? 手間暇かけて作ったって、なんか惹かれる」

「わかるわかる~。ディスプレイにある琥珀糖もめっちゃ時間かけてたわ。お父さんもあれだけはこだわり強かったし」

「先代ですよね? 俺、千景さんしか偉い人会ってないですけど」



 わいきゃい騒いでいる若いふたりの会話を遮るように、表の方でベルの音がした。鳴り方からして、来店でも『客』ではないことがわかったので千景あたりが来たのだろうか。真宙がまず顔を出せば、ドアの前には大我ともうひとり……。



「あの、お久しぶりです」



 貧血のときに来店してきた、候補者の女性。若葉の後継とも言えるくらいに『痛み』を抱えた若いインターン。


 血色は特に問題ないそうだが、このタイミングでもう大我が連れてきたということは。『表』ではそれなりに『季節巡り』が終わったのだろう。『裏』のこちらに来ることが増えたヒカルも、あちらでは学生生活がそろそろ卒業というくらいに時間が進んでいるのだから。



「……ようこそ、ル・フェーヴへ」



 師として導いてやれるかはまだ自信がないが。『表』の惨劇が早く来ないように、ここを整えなくてはいけない。それでも、焦らずじっくり彼らを指導していくのも真宙の仕事だ。

次回最終回

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