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【完結】真心スイーツとは、あなたの『痛み』が代金です  作者: 櫛田こころ


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第21話 過度なダイエットにはどらやき①

 砂糖の塊、スイーツ。


 いくら和菓子に仕立ててあっても、本当にそれを口にしていいのか。ごくんと唾を飲み込みつつも、柚希は手を伸ばす衝動が抑えきれそうにない。


 向かいに座っている男性パティシエからは『どうぞ』と勧められるも、今までの苦労を水の泡にしてしまうんじゃ……と、柚希はいけないと手を引っ込んでしまう。



(けど……クリームもないし、だいじょ……いやいやいや!!)



 素直に食べればいいのに、と思うものの。今まで頑張ってきた『ダイエット』のために、糖類を極力抑えてきた意味がなくなってしまう。たしかに、和菓子はダイエット向きのお菓子とか謳い文句はあったが……顔くらいのサイズもあると、少しだけ抵抗を覚えてしまう。


 体型もやっと、今のところで折り返し地点にきたから……もう少し頑張りたい。けど、優しく微笑みながらも勧めてくれるパティシエの顔はなかなか好み、などと色々揺らいでしまう。


 無理し過ぎからの、意志が弱くなっているのか。また少し、茶色の丸が美しいどらやきに手が伸びてしまう。





 *・*・*





 三ヶ月前、久しぶりに体重測定してみたが……最後に計った記録よりもはるかに上だったことがわかり、さすがに落胆を覚えた。



「ま……じ、で?」



 外食は出勤時のランチのみだが、たまに飲みへ誘われることもあるので……いろんな高カロリーなものにアルコールもセットで蓄積している。


 自炊はどうだったかと思いだすも、米とみそ汁以外出来合いの総菜購入やコンビニ利用も多かった。間食も、ときどきが多々あるまで増えていた気がする。


 秋に向けての食欲増進を理由にしてはいけない。ここは、大幅に『ダイエット』計画をしなくてはいけないと、意識を切り替えることにした。



「けど。食事抜きダイエットって……逆に、脂肪を蓄積するって聞いてたから? まずは食事内容??」



 運動については、外回りが多いので歩数稼ぎは問題ない。まずは、無理のない食生活からの改善だとネットサーフィンなどで軽く漁ってから……食事の内容を変えてみた。栄養バランスもだが、脂肪が蓄積しにくいだけでなく燃焼しやすい食材を選んだりと。


 最初は慣れるのに空腹を強く感じたりと、慣れないでいたが。ひと月を越えれば、慣れ始めてきた感じが。その翌月には腹のぜい肉が少ししぼんだりとか。


 そして、三ヶ月目の今では体重に少しずつ好調の兆しが出ていた。どうしても食べたいときは自宅で出来るトレーニングを少し増やすことに決め、飲みの誘いや食事には言っていた。


 しかし、三ヶ月で微妙な達成感を得ると……柚希は『疲れた』の方が強くなってくる気がしたのだ。食事とトレーニングに気を遣い過ぎて、仕事への意識がおぼろげな感じに。ミスこそはしていないが、やる気が削げていくような。



(あ~……なーんも、気にしないと色々食べたい)



 特に、甘いもの。果物は逆に糖分の塊だから、食べるのを控えていた。なので、野菜や果物だけのジュースも同じように飲まない。プロテインも最初こそ使いはしたが、なんだか甘みを強く感じてやめた。


 しかし、実際には甘いものを異様に欲している。ダイエットの飢餓症状が出ているのかもしれない。どこかで、水分を一旦摂った方がいいかとコンビニにでも入ろうとした。



 チリン……リン。




 まだ秋に入ったばかりだから風鈴を片付けていないのか。それにしても、綺麗な音だときょろきょろしてみたら、次の角を曲がればその正体が分かった。


 大きなガラス窓が特徴の洋菓子店。今まさに、柚希が行きたくてたまらない場所だったが足がもう自然とドアを開けるまでに至っていた。頭の中では、今日くらいもうチートデイにでもしてしまえという勢いだった。



「いらっしゃいませ」



 中はガラスのショーケースに会計カウンター。窓側にはイートイン用か待合用のテーブルセットがひと組。色は白と水色のパステルカラーで統一されていて、なかなかに可愛らしい。声の主はカウンターの内側にいる背の低い店員のものだった。平均身長もないが、そういう女性は意外に多いのを知っているから柚希は気にしないでいる。



「わ! 可愛い!!」



 ショーケースには、凝った細工の洋菓子以外に和菓子もあった。和菓子なら……と食べていい意識がさらに傾くが、じっくり眺めて冷やかすのは非常によろしくないので和菓子を中心に見ていくことにしたが。



(……ようかん、がない)



 寒天菓子は他にもあったが、ダイエットのご褒美おやつにしていたようかんが並んでいなかった。それなら、店を出る理由にはなると思って店員に声をかけようとしたところ。



「いらっしゃいませ。お待ちしていました」



 奥から、なかなかにスレンダーな体格の男性が出てきた。コックスーツを着ているので、彼がパティシエなのはわかったが……あいさつのあとの言葉がよくわからない。


 柚希を、待っていたというのは宣伝文句のひとつなのだろうか。



「ご所望の品は、ちゃんと?」

「うん。若葉くんはドリンクをお願い」

「承知しました」

「え? 注文してな」

「だから、お待ちしてたんですよ。お姉さんは、窓際の方へ」



 嘘ではなく、勝手に注文したことにされているが。パティシエがどうぞどうぞと勧めてくるので……少し悩んだが、お金は別にあるし。たまにはスイーツもいいかと思うことにした。本音は食べてみたかったのもある。


 荷物籠とかも用意してもらえたので、ゆっくり座ろうとしたあたりであの店員がトレーに何か乗せて戻ってきた。パティシエの方は、なにか話でもあるのか向かいの席に腰かけていたが。



「お待たせいたしました。ご褒美の黒糖どらやきです」

「……黒糖?」



 ネーミングセンスは少しあれだが、普通のどらやきよりも生地が薄めなのに直径が大きい。


 おしぼりとあたたかいほうじ茶が用意されていても……一瞬嬉しくなったが、これを食べていいのか本気で悩んだ。てっきり、ようかんとかが出てくると思ったのに、同じ和菓子でも炭水化物多めではないかと。



「ん? お気に召さなかったかな?」

「あの……お金、払ってませんし。注文したかったのも」

「大丈夫。代金は今もいただいているし。……過度なダイエットはいけない。和菓子の中でも、どらやきはたまになら食べていいご褒美なんだ」

「……ご褒美? ようかんよりも?」

「食べ応え抜群。さ、どうぞ」



 料金のプランなどもよくわからないが、店側が食べていいというのなら……なかなかにイケメンパティシエの方が栄養部門は専門家だ。専門の当人が言うのなら、無理してダイエットのために我慢するのもよくない。


 おしぼりを取り、きれいに手をぬぐったあと……両手でも持つのが大変などらやきにかじりついた。

次回はまた明日〜

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