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真心スイーツとは、あなたの『痛み』が代金です  作者: 櫛田こころ


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第13話 風邪にはプリン①

 アラモードには不似合いなくらいに、やわらかくてなめらかなプリン。


 焼いたものも、蒸したものももちろん嫌いではないけれど、亜沙美の好みはゼラチンでゼリーのように固めたそれが好みだった。蕩けるような舌触りのみの、カラメルがほんのり苦みを引き立たせるそれが。


 好みは多々別れるにしても、求めていたそれが今目の前にある。喉の痛みと止まらない咳を抑えるためには必要不可欠。しかし、料金を金銭で払う必要のないことがさっぱりわからなかったが……風邪っぴきなので、いいだろうと用意されていたデザートスプーンを手に取った。




 *・*・*




 光崎亜沙美は、成人してから珍しく風邪を引いてしまったようだ。しかも、大学の講義の真っ最中に。一限から少し熱っぽいなと咳が軽く出るなと思ったのがきっかけだった。


 二限が終わると、同じ講義を取っていた友人に顔が真っ赤だから医務室に行きなよと言われるくらいのレベル。医務室は最悪なことに、保健医が不在だったから午後の講義がない日だったこともあってすぐに帰宅することにした。発熱は確実でも、家でゆっくりすれば治るだろうと安直な考えで歩くがなかなか家に着かない。



(コンビニでも寄ろうかな? プリンとかアイスがあれば、少し落ち着くよね?)



 風邪にはのど越しのいいお菓子。


 誰が最初に言いだしたかはわからないが、亜沙美も小さい頃から母などに看病してもらうときはそんな感じで食べさせてもらっていた。特に、プリンが好きだ。蒸しや焼きじゃないちゃんとしたのとも違う、ゼリーのようになめらかなプリン。


 ホットケーキミックス粉のあれみたいに、作れる粉があるとは知っていたが。最近ではコンビニでも少し高い値段で買えるので、亜沙美はバイト終わりとかにあれば買うようにしていた。しかし、今回は薬のお供にしようと決めるも……残念ながら、いつものコンビニでは売り切れていた。時間もお昼過ぎていたし、誰かが買っていくのも仕方がない。夕方の品出しまでは待てる体調ではないので、ほかのも買う気にはなれなかった。



「けほ……げっ、ほ」



 ただ、マスクだけは買おうと支払いを済ませてからすぐにつけた。手で押さえるよりいくらかマシのそれに、思っていた以上に症状が酷くなりそうだと自覚したが内科へ行こうにも保険証がない。家に一旦戻ろうと、次の角へ曲がろうとしたら……。



 チリン……リン。




 鈴に似たドアベルにしては軽やかな音。素直に、綺麗な音だと聞こえてくる場所を探してみれば。角を曲がった先に、洋菓子店らしき看板があって木の扉には白くて可愛らしい風鈴が取り付けられていた。


『ル・フェーヴ』。


 外国語は英語しか履修していないので、ヨーロッパ圏の言語は読みにくいが可愛らしい印象は持てた。なんとなく、入ろうかと悩んでいると扉が開いて誰かが出てきた。



「おや? いらっしゃい」



 背が高く、コックスーツがとても似合う男性。帽子はかぶっていないが、紫のネクタイみたいなのには銀の留め具がかっこよくつけられていた。パティシエのランクとかは知らないが、年齢的にも店長であっておかしくない感じ。


 ほんの少し、彼に見惚れていたのだが。咳が込みあがってきてしまい、濁声まじりに出てしまった。



「すみません。風邪なのに、うろちょろ……して」

「それは大丈夫だけど。よかったら、うちの店に入りません? 待っていたので」

「……待って、いた?」

「さあ。中はあったかいから」



 どうぞ、と優しく微笑んでくれるのに。病院へ行く意識よりも、ついその笑顔に誘われて店の中へと入ってしまった。


 中でも可愛らしい女性の店員が亜沙美に挨拶してくれたあと、店長の指示でなにかを持ってくるように言われた。



「……かわいい」



 入ったときはすぐに気が付かなかったが、会計カウンターの横にはガラスのショーケースに色とりどりのケーキやらお菓子やらが並べられていた。値段は書いていないから見本品かもしれないが、それにいても愛らしい細工がとても美しく見える。



「ありがとう。お嬢さん、こちらの席に座ってもらえるかな? 立っているのも辛いだろう?」



 席はひとつしかなかったが、荷物入れにブランケットまで用意されていた。たしかに、少しふらつくくらいに熱が上がってきていたので……正直言って、ありがたかった。大人しく座れば、ふっ、と息を自然に吐けるくらいに安心感が。


 これで、もしメニューとかの中にプリンがあれば最高だ。イートインか待合用か聞けていないが、向かいにそのまま座った店長に聞いてみようと思っていると……先に、店員がなにかを持って来てくれたのかテーブルに置いてくれたのは。



「お待たせいたしました。風邪緩和のなめらかプリンです」

「へ?」



 素っとん狂な返事をしてしまったと思うが、薄いけれどぽてっとしたフォルムのガラス容器の中には、『なめらかプリン』がたしかにあった。


 焼いたものでも、蒸したものでもない。乳白色でとても色合いがパステル調に近いそれは、亜沙美がコンビニでいつも買うものより……数倍美しくて美味しそうなものだった。固いプリンではないので、プリンアラモード仕立てにはされていない。皿の上には、容器以外に生チョコの小さい欠片がいくつも添えられていた。


 飲み物は、湯気が優しい揺れのホットカフェオレ。皆、亜沙美の好みだった。



「さあ、どうぞ。お代は今ももらっているから、遠慮せずに」

「え? けほ……お金もですけど、注文もしてないですよ?」

「知らせが来たから、僕が仕上げたまで。君がここに来ることは必然。その『痛み』が代金なんだよ」

「……よく、わからないですけど」

「でも。プリンは好き?」

「はい! ……なめらか、なのが特に好きです」

「それはよかった。召し上がってほしいなー」

「……はい」



 ネーミングセンスはあれだが、風邪っぴきにはたしかに嬉しいプリンであることに違いはないので……亜沙美は添えられていたデザートスプーンを手に取り、空いている手で器をそっと持ち上げたのだった。


次回はまた明日〜

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