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愛しています


 帰りの馬車で、拒否するアイリン殿下の意向に反し、陛下直々の治療の許可を取っているヤドラはそのまましばらく、裁判が無事に終わるまで王都に留まることになった。


 本人はかなり落ち込んでいたが、月に一度、公爵の診察をすることを条件にしぶしぶ納得した。



「ウェイド様、やはりヤドラにもう一度診てもらった方が……」


「表面をかすっただけだと言っていただろう。心配ない」


「ですが……」


「うーーん、そうだな。少し横になってもいいか?」


「もちろん、でっ……っ!?」


 カレンの膝枕に横になると、少し意地悪そうにこちらを見る。


「夫婦も同然なのだから、構わないだろう?」


「そっ、そうですが……人目が……」


「馬車の中は見えないだろう。それに、少ししたら皆の前で見せつけるのだから問題ない」


「見せつけるっですか!?」


「ははっ、領地中をパレードするのだからな」


「……何日もかかりそうですわ」


「ドレスならいくらでも用意したのがある」


「……そうですね。その時は、私の実家の皆も招待したいですわ」


 置いてきた侍女達や母親のことが気になっていた。


 


「あぁ。君の父上にも、この幸せそうな姿を見せなければ面目立たないからな」


「お父様ですか?」


「……君を幸せにして欲しいと、結納金を待っていった日に頭を下げられたんだ。自分は出来なかったからとな」


「…………」


「だから、とびきりのご馳走も用意しよう。大聖堂ではなく、君の両親の前でも誓いたい」


「…………はい。そういえば、ウェイド様のご両親は?」


「当主の座を交換してすぐに2人とも旅行に行っているよ。それこそ、羽を伸ばしているみたいだ」


「ふふっ、ウェイド様」


「どうした?」


「愛していますわ」


「っ!?」


 膝枕で無防備になる公爵の唇を奪う。



「それはずるいな」


 身体を起こした公爵におでこがくっつくほどの至近距離でささやかれる。


「カレン」


「はい」


「わざと殿下を挑発したのだろう?」


「……それは」


 あの時、アイリン殿下のアザを止める為には公爵を諦めてもらうしかないと思った。だが、いくら綺麗事を言っても、聞いてくれるわけがない。もし、自分が傷つけば、殿下の暴走の証拠になるだけでなく、ウェイド公爵が怒ってくれるだろうとふんでいた。


 ウェイド様が本気で怒れば、きっと殿下も少しはしおらしくなるかもしれないって思っていたのですけど……まさかご自身が盾になられるなんて。


「言っただろう? 何があっても君を守るって」


 今度は指輪にそっと口づけをしながらカレンを見る。


「〜〜〜〜っ」


「もう自分を犠牲にしようと考えないと約束してくれ」


「ウェイド様」


「ん?」


「すみませんでした」


「いいんだ」


 愛しい。気持ちが止まらなくなるのが分かる。穏やかな時間のはずなのに、心臓がどんどん暴れ出しそうになる。


 どうしましょう……先ほどキスなんて大胆なことをしたばかりですのに、もっと触りたいだなんて……私ってばなんて破廉恥な……


「あぁ、そういえば」


「なっ、なんですか?」


「ヤドラが毎月王都に来る時にはミクリを連れてくるようにと指名していたな」


「ふふ、そうなんですか」


「どうやら医療班にスカウトしようとしているのだろうが、彼女は優秀な侍女頭だからな。連れてくるが医療班には寝返らないと言っているんだが……」


「そうかもしれませんが、ミクリも王都行きは喜ぶかと」


「どうしてだ?」


「あのお屋敷。彼女もファンになったはずですから」


 正確には、あの素晴らしい使用人の師匠とも呼べそうな彼女のだが、公爵は確かにと納得している。


「なるほど。君は……どうだ?」


「もちろん、私もファンになりましたわ」


「では問題ないな。次は一緒に風呂にでも入ろうか」


「もちろ……一緒に、ですか?」


「そこが売りの1つだぞ」


「わ、分かりましたわ。お背中お流し致します」


「楽しみが増えたな」


 機嫌良く膝枕に再度横になる。


「ファンといえば……君が言っていた推しは誰のことなんだ?」


「推しのことご存知なのですか?」


「知ってるも何も、新事業として投資しているんだから当然だろう? 今までは貴族から容姿の優れた者や、歌や芸術に秀でた者を対象に演劇を扱っていたが、僕は身分を問わず才能ある者に新しく門戸を開くべきだと思っている。たとえ子どもでもね」


「……もしかして、パーティのあの子どももですか?」


「彼女は孤児院から引き抜いた1人だよ。本当は泣いたふりをしてエル伯爵をあの場から遠ざけるだけだったんだが……思ったより彼は強情で引き止めるのに苦労したらしいが」


「あんな……小さな子がですか……」


「カレン、彼女たちの生活はひどいものなんだ。仕事なんて、特に女性はほとんど選択肢がない。本来は親御さんの許可や働く時間も考慮していかなければならないから。新事業としては課題も多いがな」


 生活の苦しさは知っているつもりだが、孤児達(かれら)とは比べものにならない。公爵がやろうとしていることは、身分関係なく自分の才能を発揮、豊かな生活を送れるチャンスなのかもしれない。



「……もしかして、ゼビオ様やロゼ様、ユア様とかいらっしゃいますか?」


 名前を聞くと公爵は勢いよく起き上がる。


「君の推しは、まさか彼らか!? 長く慕っているなら……まさかゼビオ? あいつは……確かに性格もいいが……」


「ふふっ、違いますわ……私の推し、知りたいですか?」


「……いや、やはりいい」


「っ!?」


 今度は公爵から唇を重ねてくる。


「誰にも譲る気はないからな」


「……大丈夫ですわ」








 後に、リドル家が投資した新事業は貧しい生活から抜け出せる新たな選択肢として国外からも注目を集めるようになる。また、アイリン殿下は国外追放が決まり、2度と帰還が許されない判決が言い渡された。




「カレン、来月久しぶりに王都へ行くかい?」


「まぁ、是非行きたいですけど……でも、急では?」


「あの2人が第2土曜日を埋めるわけがないだろう。行くと決まっていないというのに、いつでもこの日は空けておくと譲らんからな。ヤドラなど、もう専属医じゃないというのに、いまだに僕の健康状態を管理したがるからな……」


「ふふふ、2人の休日になっているのかもしれませんわね。今では国外からも王族クラスがよく泊まりにくる人気ぶりですし」


「久しぶりにブラン侯爵家も誘ってはどうだい? たまには妻と2人きりで子育てから息抜きをしたいと嘆いていたぞ」


「そうですね……でも、やっぱりまた次の機会にした方がいいかと。数時間馬車に乗るのは、まだ不安定ですから……」


「体調でも悪いのか?」


「ふふっ」

 

「?」


「ヤドラとミクリが長期休業すると言わなければ良いですが」


 そう言ってお腹を優しくなでる。


「っ!? まさか?」


「はい。王都に行くのは当分先になりそうですわ」


「……そうか!! ええと、どうしたら!? とりあえず医者を!! それとお湯か!?」


「まだ産まれませんわ。ふふっ」


「なるほど、ではとりあえず安静にだな!?」


「きゃあ!? ウェイド様??」


「確かに重くなったような……」


「まだ体重は変わりません!!」


「……守る存在が増えるんだからな」


 公爵の手が震えているのが分かる。


「1人じゃありませんわ。一緒に、ですわ」


「そうだな」


「ウェイド様」


「ん?」


「愛してますわ」


「また、そんな不意打ち……」






 

 最後までお読みいただきありがとうございます。温かいコメント、応援のおかげで無事に書き上げることが出来ました。良ければブックマーク、評価宜しくお願いします。コメントやレビューもいつも励みになっております。


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