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愛と推し


「それで、お茶会第2弾ですわね!! うふふ」




 なぜ、こんなことに……。


 ミクリはまさかもてなされる側には不慣れで、くつろぐことが窮屈(きゅうくつ)|とでも言わんばかりの顔で座っている。


 ニーナ夫人はつい先ほどのパーティであんな目にあったというのに、恐ろしいほどの気持ちの切り替えだ。



「ウェイド公爵様はいつも最低でも小一時間はこちらのお湯に浸かられます。考え事があればあるほど。今回は……お客様にお茶菓子をお出しするほどの時間は十分にあるかと。どうぞ、ごゆるりとおくつろぎくださいませ」


「素晴らしいです。通常、秘密裏の行動とあらば一刻も早く収束に向けて動くものだと。どんな短い時間でも最大級のおもてなし……さすが、王都でもトップクラスのサービスを提供する屋敷だけのことはあります」


 ミクリは思わず、師匠を見るかのような眼差しだ。


「……えぇと。ニーナさん、エッ……ご主人を置いてきて良かったので?」


「はい。全く問題ありませんわ」


「せっかくの……想いが通じあったお相手でしょう? 離れるなんて心苦しいとか……」


「……確かにそうですけど、夫婦となると離れる時間も時には必要ですわ。それに、カレン様だって、こんな素敵な場所に泊まっているというのに、公爵様と離れていらっしゃるでしょう? カレン様のいらっしゃるお茶会なんて参加しないわけにはいきまけんわ」


 そう言うと、美味しそうに紅茶と焼き菓子を口にする。あらかじめ、材料を説明するあたり、さすがの一流と言わざるをえない。


「会話を邪魔しない程度のさりげないアレルギーや好き嫌いへの気配り、さすがとしかいいようがありません」


 1人だけ研修のようになっている気もするが、ここは単刀直入に話を進めるしかない。


「……もし、想う方が既にいらしているのに、別の方を意識する……なんて、はしたないかしら」


 カレンの言葉に、ミクリが青くなる。この話題を自分が聞いてもいいのかと思っているのだろう。彼女には可哀想な気もするが、限られた時間でもうなりふりかまっていられない。先ほどの手紙から薬のせいではないと分かった以上、こんな気持ちのまま公爵夫人など務まるわけがない。批判覚悟で話すしかないのだ。


「それは……推しですか?」


 ニーナ夫人からの返事は意外なものだった。


「オシ?」


「はい。もちろん、夫婦としての愛は大前提として神聖なものですが、素敵な殿方や可憐なレディを見れば思わず萌えますし、推したいと思いますわ。最近では子どもでも様々な芸を身につけているみたいですし、お芝居でもすごく上手なのですよ!!」



 なんででしょう。ニーナさんのこの熱弁は……オシ? モエ? って一体……


「カレン様はやっぱり流行りのゼビオ様がお好きなのですか? それとも実力派のロード様とかでしょうか? もちろん、ユアご令嬢も素敵ですわね」


「…………?」


「おそらく、一部の女性たちの中で白熱している孤高の貴公子や歌姫たちのことかと」


 ミクリが小声でそっと話しかける。


「????」


「あっ、すみません……てっきりその話題でしたのでカレン様も密かな推しがいらっしゃるのかと……私、ずっと1人でしたので、そういった類の密かな趣味がありまして……」


 カレンの反応が思っていたものとは違うことに気づき、話題を勘違いしたのかと顔を真っ赤にさせ、恥ずかしそうにしている。




「それは、愛とは違うものなのかしら?」


「え、あっ、もちろん。これも1つの愛と思っておりますわ。元気のない時、辛い時、想うだけで力が湧いてきますもの。思わず大声で叫びたくなるくらい身体中が熱くなりますわ」


 どこかで覚えのあるその感覚に、思わずエル様が思い浮かぶ。


「……何が違いがあるのでしょうか」


「そうですね……私の個人的な考えですが、推しは誰かとその素晴らしさを分かちあうことに喜びが出ますが、主人を思うこの気持ちは、もっと心が暴れるような……独り占めしたいと思ってしまいますわ」


 独り占め……エル様を想うとすごく元気が出ましたわ。ニーナさんに対して初めは羨ましいと思いましたが、エル様が幸せそうだからそれで良いと……


「推しが圧倒的な活力ならば、愛する方への想いは時にプラスに、そして時には不安な気持ちや苛立ちを産んでしまうこともあります」


 ウェイド様の前でだとなぜか自分をよく見せようとしたり、いつも理性で抑えられる気持ちが平静を保てなくなって……


「病める時も健やかなら時も一緒に乗り換えると違うのが夫婦ですわ」


 私が倒れた時、襲われて不安になった時、いつもそばにいてくれたのは……いいえ、側にいて欲しいと思ったのは……


「私……が愛しているのは、ウェイド様ですわ」


 自分の気持ちがはっきりする。ニーナ夫人が愛を語った時、真っ先に思い浮かんだのは公爵ただ1人だった。


「はいっ、見ていて分かります」


「よっ、良かったです」


 ほほえむニーナ夫人とその隣で安心したように力が抜けるミクリ。


「ニーナさん!! 私、あなたのご主人から、ずっと元気をもらっていたんです」


「はい」


 急に手を握られ、少し驚いたように、だが真剣に聞いてくれている。


「だから、推しとか……まだ分かりませんが、こうしてニーナさんとも仲良くなれて……お2人には感謝しかありませんわ」


「カレン様……私も、大好きですわ」




「なんだかとても感動的な場に居合わさせて頂けました。カレン様、ご主人様のこと宜しくお願い致します」


 ミクリは自分が少し場違いだったのではと思いながらも、公爵の気持ちを知っているだけに本当に良かったと胸が熱くなる。


「あら、今日はお時間がないので聞けませんでしたが、次は是非、あなたのお話も聞きたいですわ」


「はい? 私ですか?」


「えぇ、そうね。ミクリ、この手紙を届けてくれてありがとう。是非、屋敷に戻ったらきちんと説明するようヤドラに言いつけておいてくれるかしら?」


「もちろんですが、カレン様からのご命令ですからそのように……」


「ミクリ、あの男は私のいうこと、全く聞いてないわよ? あなたが言えば、もう少し聞き分けが良くなるはずだわ」


「……?」





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