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内緒の召集

「……すごい」


 こんなにも熱いお湯は初めてだ。リドル家でも手間のかかるお湯をいつでも用意してくれたが、ここまでの熱さに加え、とろけるようなお湯は別格だ。肌をすべすべにさえしてくれている。身体の芯がほぐされ、思わず何もかも忘れそうになる。



「格別だと、以前ここに来たウェイド公爵様よりお褒め頂いたお湯でございます」


「そっ、そうね。すごくいいお湯だわ」


 急に公爵の名前を出され、一気に現実に戻される。


 そうでしたわ。このあとどうしたら良いのでしょう。思わず1人になってお風呂に入ってますが、そのあとはもう寝るくらいしかありませんわ。そうすると、もう気まずいとしか……とにかく、この状態をなんとかするのが先ですわね。


「あのっ!!」


「はい」


「別の部屋というのは、遠いんでしょうか?」


 確か公爵はニーナ夫人達は別の部屋にと言っていた。ということは、すぐに来れる距離かもしれない。この気持ちを1人で消化するにはまず、ヤドラ医師による解毒をしてもらうのが先決だ。


「そうでございますねぇ……馬車で半刻程といったところでしょうか」


 思ったよりは遠くないことに安堵する。


「出来ればウェイド様には内緒でそちらへ行きたいのですが」


「内緒で、でございますか? それは……」


 少し困った反応に、彼女がこの屋敷の従者であることを思い出す。


 そうですわ。あくまでも私は主人ではないのだから、お世話以上のことを頼むわけにはいかないですわよね。



「あっ、いえ。いいのよ。それなら、呼んできてもらうことはできるかしら?」


「それでしたら問題ございません。すぐに迎えの手配を致しましょう」


 ようやく落ち着いてこの格別なお湯を楽しむ。


 解毒薬さえ手に入れば、今までどおりになるはずですわ。なんでもないふりをすれば、今回もウェイド様は許してくださるかもしれませんわ。


 でも、本当はニーナさんに相談出来れば良いのだけど……





 本当にすぐに手配をしてくれたのか、湯冷めしないうちに馬車がやってきた。カレンが屋敷にいるのであればと、このことは内緒にしてくれたようだ。


「ウェイド様はどちらに?」


「公爵様もお湯へとご案内しておりますので、しばらくは大丈夫でございますよ」


「良かったわ」


 馬車の扉が開くと、呼び寄せたはずのヤドラ医師はおらず、変わりに乗っていたのは


「カレン様」


「ミクリ!? それに……」


「ふふふっ、カレン様のピンチとあれば、私も行かないわけにはいきません」


 なぜかドヤ顔のニーナ夫人まで乗っている。


「どうしてっ!? とにかく、2人とも中へ入って」


 ヤドラ医師だけならば、すぐに薬を受け取って返そうと思っていたが、さすがにこの2人を同じように扱うわけにはいかない。何より、内心ちょっと嬉しいと思ってしまった。


「お紅茶の用意も出来てございます。何かあれば鈴を鳴らして下さいませ」


 あいかわらず抜け目のない用意をしたかと思えば、すぐにいなくなる専属侍女に、ミクリは感心する。


「さすが、五つ星屋敷に長年仕える方ですね。1人でいくつもの役割を無駄なくこなしています。それに、プライバシーを重視されているだけあって、身の引き方が一流クラスです」


「そうね。確かに仕事は早いわ。でも、私はミクリ、あなたがいいわ」


 完璧なセキュリティの中での美味しい食事に完璧な入浴サービス。だが、なぜかミクリとの時間の方が安心するのにと思う。


「〜〜カレン様っ」


 カレンの言葉に少しだけその喜びの余韻をかみしめると、自分の託された目的を思い出し、すぐに手紙を取り出す。


「ヤドラ医師からお預かりしていたものです」




ーーー拝啓、次期公爵夫人様


 きらびやかな粒子が大気をより大量にめぐる季節とらなりましたがいかがお過ごしでしょうか。特に生まれ育った土地を離れ過ごす次期公爵夫人においては……以下略。


 おそらく薬の解毒剤と説明をとお呼びがかかる頃かと思いますが、大変申し訳ありません。誠に残念ながらそちらへ行く前にやり残したことがあり、お手紙でお伝えさせていただきます。結論から申しますと、自白剤の効果は数時間、更に少量のみの摂取であれば1時間にも満たない為、次期公爵夫人およびニーナ伯爵夫人には不要となります。か弱き貴婦人にこのような大胆な協力を申し出たこと、お許し頂ければと存じます。出来るならば、またいつぞやの夜のようにお茶を囲んでお話しできれば……略 医師として最後に一言。もしご自身のお気持ちに変化を感じることがあるのだとすれば、間違いなく、私の処方とは無関係でございます。おそらく私よりも適任な相談役を代わりにお送り致します。それでは、また会う日までくれぐれもご体調にお気をつけてくださいませ。 

                   敬具ーーー


「…………」


「あの、カレン様?」


「お手紙にはなんと? ヤドラ医師がこれで大丈夫とおっしゃっておりましたわ」


 差し出した手紙に心配そうに話しかけるミクリと、まだヤドラ医師を疑おうとしないニーナ夫人がこちらを見る。


 そうですわね。確かに、この2人はこのタイミングで最強かもしれませんが。ニーナさんにどう相談しろと!?


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