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綺麗だ

 公爵は言いにくそうに話を続ける。


「それと、アイリン殿下との一件で、エル伯爵の身動きを取れなくした方がいいだろうと……」


「まさか、あの子どものことですか!?」


 足止めをされ、困って動けない様子だったが、エル様も演技をしていたというんじゃ……


「いや、彼に演技は無理だろう。事実は伝えていない上での仕掛けだ。きっと真っ直ぐで正義感の強い彼なら子どもを突き放すなど出来ないだろうとふんでな。実は陛下の訪問も僕が事前に呼んだものだ……君の安全を最優先しての強行手段だったが……まさか彼女があそこまで危険な振る舞いをするとは。相談もせず、悪かった」


「…………」


 まさか、あんなに大勢の前で割れた破片で手を挙げようとするなど、さすがの公爵も予想外だったのだろう。


 でも、あの時ヤドラがすぐに取り押さえたってことは、それさえもリスクに入れていたのかしら。なら、彼が謝っているのは、私に怖い思いをさせてしまったから、ということでしょうか。


 こういう時、ウェイド様が薄情だと思う人も多いのでしょうね、きっと。


 公爵家に嫁ぐことの重さを知る。


 私だって、ウェイド様に言ってないことがたくさんありますし。


「いえ、驚きましたが、ウェイド様が謝ることはありません」


 そう、ウェイド様が謝ることはないですわ。仮にも主人の為とはいえ、ウェイド様とこの私を平気な顔で欺くあざむくのは家臣としてどうかと思いますけどね。


 いつか、あの医師を手玉にとってやろうと心に誓う。



「はぁっ、良かった。いや、本当に申し訳ないことはしたと思っている。自白剤入りのお酒を飲ませたことには変わりないからな」


 カレンの返事を聞くと、やっと公爵も息が出来たように大きなため息をつく。ようやく2人での食事を楽しむ。


「もしかして、それを言う為に2人に?」


 なぜ公爵が使用人ですら遠ざけ、わざわざ2人きりにしたのか。


 せっかく、ニーナ夫人とも過ごせる機会でしたのに。


 ずきっ。


 自分で思った考えに、思わず息苦しさを感じる。


 ???? おかしいですわ。今、心臓が重くなったような。



「…………そうだな。だが、王都に行く時があれば、君をここに連れてきたいと思っていた」


「っそ、そうですか。とても、素敵なところですわ」


 実際、屋敷の外の花の美しさにも目を引いていたが、ロビーの飾り付けや料理の鮮やかさには公爵家と互角なレベルだ。食事をするこの部屋にも、温室で育てたのか、この時期には見ない花が贅沢に飾られている。


「綺麗だな」


「はい?」


「ここには、特別な商談相手と話をする為に何度か利用したことがあったが、その時は花に気づかなかったが……本当に綺麗だ」


「そうですね」


 花のことを言っていると分かっているのに、間をおいてこちらを見る公爵の視線が、なぜか自分に向けて言っているのではと錯覚してしまう。


 私ったら、先ほどから心臓がおかしいですわ。もしかして、薬が合わなかったのかしら。


 以前に飲んだ時も身体が熱くなる感覚だったが、今回はそれ以上に頭がくらくらとする。


「どうかしたか?」


 手が止まったカレンの様子に、公爵が気づく。


「いえ、もうお腹がいっぱいで……」


「そうか。では、少し散歩しよう」


「散歩、ですか?」


「殿下の件は陛下にお願いしたし、ここには誰も入れないはずだ」


 警備の心配をしたのでなく、パーティでの目的を果たし、大勢に2人の仲を見せつけた今、誰もいないのであれば仲の良いフリをこれ以上する必要もないのでは……とは言いにくい。


 先ほどからその甘い微笑み全開でいらっしゃるのはなぜですか!? しかも、手ぇぇぇぇぇえっ!!?? 立ち上がってからも握り続けているこの手はなんですのっ!!??


 どの反応が正解なのか分からず、されるがまま庭を歩く。


「わぁっ!!」


 敷地の中には贅沢にランプが置かれ、夜の空間に光の道が作られている。


「足もと、気をつけて」


「あ、ありがとうございます」


「やはり夜は少し冷えるな。寒くないか?」


「いえ、大丈夫ですわ」


 そういえば、パーティの時、アイリン殿下に言われたとはいえ、公爵かずっと羽織っておくよう言われた上着を脱ぎ捨ててしまった。


「ウェイド様、上着……すみません。あの場の勢いとは言え、お約束を破ってしまいましたわ」


「問題ない……いや、そうだな……これからはもっと護衛を増やした方がいいかもしれないな……」


「えっ、まだ他にも刺客が?」


 当然、正式な夫婦になるまではいつ何があってもおかしくはない。だが、これ以上の増衛をするとなると、終始監視下での生活になることになる。


「いや、そうではなくて……君に下心を持つ者が増えるだろう」


「え、したご……え?」


「せっかく上着で公爵夫人だと分かるように牽制していたというのに」



 公爵が着る服には全てリドル家の家紋が刺繍されている。


「……あれは、私の格好が変だからなのかと」


「まさか!! そんなわけないだろうっ!! 隠したくなるほど綺麗だったから上着を着せていたに決まっているだろう!!!!」


「っ!?」



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