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2人の秘密

 公爵が用意してくれた宿とは、王都でも有名な屋敷だった。高貴な身分の方がお忍びで、または重役をもてなす際に使われる為、限られた者しか泊まれない。その存在は、侯爵令嬢のカレンですら聞いたことがなかった。


「ここは……」


 その屋敷にも驚きだが、先に降り、手を差し伸べエスコートする公爵に心臓が壊れるほど反応してしまう。


「足元、気をつけて」


「はい……」


 手が触れた瞬間、息の仕方さえ忘れてしまう。


「〜〜〜〜っ!!」


 おおおおおお落ち着くのよ、カレン。きっとあの薬を飲んでしまったせいですわ。じゃなきゃ、あんな風に殿下が怒りにまかせて取り乱したりするわけないですもの。でも……


 公爵のまなざしがこんなにも優しかったのかと驚く。


 聞こえていなかった、ですよね?


ーーーお慕いしております。


 実際は途中で止まったが、ほとんど言ったも同然だった。それも、すぐ後ろにいた公爵に聞こえていたかどうか、自信がない。


 あの時、アイリン殿下は目を大きく見開いて固まっていた。


 私から直接的な言葉を聞いて諦めて下さったのかしら。ウェイド様はいつも通りですし、それに、結果的に良かったのでは? お互い、殿下が入り込む隙もないほどの仲だと思ってもらうのが目的でしたし。


「あの、ニーナさん達は?」


 ほとんど同じタイミングで出発したように見えたが、後ろから馬車が来る気配がない。


「彼らには別の部屋を用意している」


「えっ、部屋ってまさか……この屋敷が部屋ですか?」


「そうだが?」


 この屋敷1つがまるまる部屋カウントですか? 

 

 改めて、リドル家の財力と由緒正しき上流階級の感覚の違いに驚く。


 まぁ、私も身分だけは上流階級なのでしょうけど……


 必要以上に増えてしまった名ばかりの貴族に、いや、よく考えずに時間を食いつぶしてばかりの父を悔やむ。


 隣を歩いていても、いつもと変わらない公爵の態度に、ようやく落ち着いてくる。


 ふぅ。平常心ですわ。大丈夫、きっと薬の成分のせいで一時的に混乱してしまっているんですわ。


「ようこそ、おいで下さいました。ウェイド様」


「あぁ、世話になる」


 お世話係も屋敷専属でついている。老夫婦だろうか。仲良さげに並んでいる。多少歳がいっているが、背すじは伸びており、礼儀の角度からしてもどこかの貴族に仕えていたのだろう。それも、かなり長く続いた家のはずだ。




 ん!? ちょっと待って……馬車の従者もどこかへ行ってしまったけど、まさか誰も来ないつもり!?


「宜しく頼む……こちらは……妻のカレンだ」


「っ!!??」


 妻と!? いえ、いちいち説明するのが手間だっただけですわね?


 思わぬ不意打ちに冷静になれていたはずの心臓が飛び出したかと思った。


「えぇ。ではウェイド様、カレン様、お食事の用意とお風呂の用意はしてありますので、何かあれば鈴をお使い下さいませ」


「奥方様には、のちほど部屋着をご用意して参ります」



「えっ、あっ、えぇ。ありがとう」


 確かに、ミクリがいないのであれば荷物も何もない状態だ。


 それにしても、食事はテーブルに並べていると考えても、お風呂は早く入らないと冷めてしまうんじゃ…… ウェイド様は来られたことがあるご様子ですし、ここは何も聞かずに堂々としていた方が良さそうですわね。


「では、私達はこれで失礼させて頂きます」


「えぇ」


 中に入ると、2人が言っていた意味が分かる。


「まぁ、これは……」


 テーブルにはフルーツや焼き菓子、一口サイズほどに盛り付けられた様々な料理がよういされている。


「良かったら、先に何か食べるか?」


「宜しいのですか?」


「パーティでは、ろくに食べられなかっただろう?」


 そういえば、私の分は結局あの騒ぎのせいで食べられませんでしたわ。


「僕も食事どころではなかったからな。聞きたいこともあるし、先に食べようか」


「はい」


 はい? 聞きたいこと?


 思わず返事をしてしまったが、にこやかな表情で席へとエスコートする公爵に、華麗にハメラれてしまったことに気づく。


「どうぞ?」


「はっ、はい」


 勧められるまま食事を口にする。


 っ!? 美味しいですわ。はっ、私ったら、つい食欲に負けて……


「くくっ、すまない。冗談だ」


「冗談、をウェイド様がですか?」


「僕をなんだと思っていたんだ」


「いえ、あの……」


「それとも、君が僕を慕ってくれていると言ったのも冗談かな?」


「っぐ、けほっ、えっ!?」


「大丈夫?」


「はい」


「それと、君が僕を愛しているフリをしていることも聞いても?」


「えっ」


 ころころと質問が変わり困惑するカレンに、公爵はふっと表情を崩す。


「すまない、読唇術がある。状況がああいう場面だったし、盗み聞きをしようと思ったわけではないんだが……」


「読唇術……」


「そしてもう一つ謝らないといけないことがあるんだ。今回は王族が関わっている以上、確実にボロを出させる必要があったんだ。それで、殿下が用意していた飲み物に自白剤を混ぜていた」


「自白剤?」


 それは、とても身に覚えのある薬ですわ。


「……君には内緒で、ヤドラに細工をしてもらっていたんだ。彼女が以前、飲み物を勧めた相手が精神的におかしくなってしまったことがあって……希少なお酒を入手した動きから今回もそれを使う可能性を予想して……」


「ちょっと待ってください。それでは、どこからがウェイド様の作戦なのですか?」


「君たちが2人で馬車に乗ったことは予想外だったが、あとからブラン伯爵夫人の持っていた香水に自白剤の香りを混ぜて下準備をしたと聞いた……」



 あの男っ、騙したんですわね。それも、私が自白剤の香りを危ない薬だと認識させるためにわざとあんな話を……


「それと」


 まだありますの!?



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