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レディだけの空間

「カレン、そろそろ準備はいいか?」


「お待たせしてすみません。大丈夫ですわ」


「…………」


 アイリン殿下に見せつける為には、あまり得意ではないが大いに華やかに飾りつけをしてもらった。婚約パーティですら躊躇(ちゅうちょ)したきらびやかなドレス、アクセサリー、メイクにヘアアレンジまで、今日は侍女たちの思う存分に実力を発揮してもらった。


 思わず、完成した姿に侍女達が興奮して自分たちの力作をおさめようと絵師を呼び出そうとするほどだったが、さすがに時間がないためミクリが止めてくれた。


 どうかしら。慣れない雰囲気にやりすぎだと言われてしまうでしょうか。


 公爵の反応を見るも、仮面の公爵の表情のままだ。


「あの、やはり着替えなおしてきますわ」


「いや…………良い」


 公爵は上から自分の上着を着せるとようやく、いつもの様子に戻る。


「では、どうぞお手を」


「っ!! はい」



 何も部屋からエスコートしなくても……いいえっ、今回の目的はまさに嫉妬をあおぐものですもの。本番までにいっ、いちゃついた雰囲気を醸し出さなくてはいけませんものっ。


 ヤドラ医師との約束で、生き霊のことは言わない約束だ。今回の目的は、殿下に2人の仲の良さを見せつけ、つけいる隙がないことをはっきり分からせること。そして、結婚式の許可まで直談判するの2つになっている。


 最初は反対していた公爵だったが、とにかく説得に説得を重ねた。




 あの日


「仮に僕が目的だったとして、王都に近づくのは危険だ。君がわざわざ巻き込まれる必要はない」


「いいえっ、これはリドル家の為でもありますわ。今のままでは、皆がお互いを監視するような状況です。理不尽や我慢、恐怖でおさえつけられた生活では、生きているとは言えません。上に立つ者はお手本となるように、でしょう?」


 それは、世間体と崩壊しかけた家で暮らしてきたカレンだからこそ言えたものだった。


「……でもダメだ」


「〜〜〜〜っ、私もウェイド様の妻となる身です」


「カレ……っ!?」


 公爵の胸に思わず身体を預ける。手をまわせば抱きしめているようにも見える近距離に、思わず本音が出る。


「リドル家に嫁ぐと決まった日から、全て覚悟しています。でも、わずかな期間ではありますが、私にも譲れないものが出来ましたわ」


「っ!!??」


「ウェイド様の隣に立つのは私です」



 ここで公爵は折れた。






 ただ1つ、条件を足して。


「あぁ、ウェイド様。出発の準備は整いましたか?」


 エッルさまぁぁぁぁぁっ。まさか王都へのパーティ参加の条件にエル様達も同行をだなんて。まぁ、パーティに参加する以上、顔見知りがいれば心強いのは確かですが。それにしてもエル様を前にいちゃつくなんて、それは別の意味で心配が……


「カレン様〜〜〜!!」


 エル様の隣から顔を出し、嬉しそうに手を振る彼女の姿に心配も一瞬でとけていく。


「ニーナさん」


「ニーナ、公爵夫人を前にそれは少し落ち着きがないぞ」


 手を振る彼女の手を優しく止めると、妻の行動を注意する。


「あっ、ごめんな……いえ、申し訳ありません」


「良いんですよ。お身体の具合はもう大丈夫ですか? こちらこそすみません。せっかく来てくださったのに巻き込んでしまって」


「そんなことありませんわっ!! カレン様のおかげで、私人生初のお茶菓子を楽しむなんて経験が出来ましたもの。それに、あのあとピーナッツが原因かもしれない助言のおかげで、それを取り除いたお菓子も食べられるようになりましたのよ」


 嬉しそうに笑う妻の姿に、さっきまではしゃぎすぎだと注意していた夫もつい微笑んでいる。



 これはっ、いけませんわ。


「ではっ、さっそく参りましょうか」


 慌てて出発を促す。


「あぁ、そうだな。ではカレン、手を……」


「ウェイド様、ブラン伯爵様!! レディには着いてからも準備がございますので、私達は先に馬車に乗っていきますわ。ニーナさん、行きましょう!!」


「えっ、えぇ。では、お先に失礼いたしますわ」


 ニーナ夫人の手をつかむと、急いでもうひとつの馬車に乗り込み出発する。



 あっぶなかったですわ。久しぶりのエル様の生ほほえみに思わず興奮してしまうところでしたわ。それにしても、おそらく、いえ確実にそれぞれのパートナーごとで行く予定だったはずですのに、勢いよくニーナさんをこちらの馬車に乗せてしまいましたわ……


「あの……カレン様」


 あぁ、ニーナさんに合わせる顔もありませんわ。次期公爵夫人としてこんな取り乱した姿を見せるなんてきっと戸惑われているはずですわ。


「会場についたら、やっぱりアレをつけられるのですね?」


「…………?」


「もうっ、分かっておりますわ。殿方と別の馬車にしたのもその為だと分かっておりますもの」


「…………?」


「大丈夫ですわ。まだ正式に婚姻関係を結んでいないので、準備するのも大変だと思いまして、私ちゃんとカレン様の分もご用意しておきましたわ」


 そう言って手に持っていた鞄から香水を取り出す。


「…………これは」


「もちろん、殿方を興奮させる香りですわ。カレン様をイメージして選んだのですが、もし気にいらなければ先にあちらで手に入れることも出来ますわ」


「っ!?」


「だって、せっかくの王都でのパーティですよ? 今夜はお泊まりになるのでしょう? せっかくでしたら、殿方にいつもよりも情熱的になって欲しいですものね」


 小声で、恥ずかしげもなく話す彼女に、そういえば彼女が既婚者だったことを思い出した。










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