ふれあい
「君を襲った男に毒を盛ったのも侍女なら可能だ。護衛は全員身元調査済みだ。念のため早急に身元の再調査もしているからそれまでは僕も側にいる。だから、安心してくれ」
公爵は頭を軽く撫でると、そっと抱きしめる。
今は誰も見ていませんのに、どうしてそんな振る舞いをするんですか。人目も気にせず、思わず熱い視線でニーナさんを見つめてしまうくらい好きなのでしょう? 今だってこんなに身体が熱いでは……ん? こんなにウェイド様の身体って熱かったでしょうか? それに、呼吸もいつもよりも乱れていらっしゃるような……
「ウェイド様、失礼します」
「うん?」
背伸びをして額に手を当てる。
「熱いですわ……」
「……少し着込み過ぎたようだ」
「いいえっ!! 明らかに熱がありますわ。まさか、ずっとこの状態でいらしたんですか?」
「いや、平熱だろう」
「そんなはずないですわ。いつも隣で寝ている私がウェイド様の体温を知らないとでも?」
「隣で寝ているだけで僕の平熱が分かるわけ……いつも?」
「あっ、いえ……きゃっ!?」
公爵が腰にまわしていた手を急に自分の方へと引き寄せる。
「あっ、あの?」
「いつも僕の体温が分かるくらいのことをしていたのか?」
見つめてくる瞳はどんどん近くなり、心臓の音で耳が壊れてしまうのではないかと心配になる。
「いつもではありませんわ。その……最近、夜中に目が覚めた時に、少しだけ……」
顔を真っ赤にうつむく姿に、思わず手を離す。というよりも、危険すぎる可愛さに、理性が飛びそうになるのをこらえ、ぱっと離れる。
あんな、あんな格好でくっついていただと!? それも頻繁に!!?? 僕はなぜ気づかなかったんだ!!??
遠く離れた刺客の視線にすらすぐに反応できるというのに、なぜそれに気づかないでいたのか、自分が信じられない。
「ウェイド様、もしかして、ニーナさんに挨拶された時も熱があったのですか?」
あの時、顔が赤く、見惚れていたように見えたのは熱のせいかと、思わず期待してしまう。
「えっ?」
「あっいえ、いいんです。それよりも、ヤドラ医師がお戻りになるまで休まれた方がいいですわ」
公爵の腕をつかみ、なんとかソファへと誘導する。
「いや、診察は無理だろうな」
「?」
大量に作らせた食事を完食出来るようになるまで、診察をさせないと言った手前、それを取り消すわけにもいかない。自分の都合で言ったことに責任を持てないなど、主人としてあるまじき行為だ。
「彼に課題を与えている。それがクリアできるまでは無理だ」
「ですが、このお熱では……っ!?」
「……そうだな、少しだけ休ませてくれ」
そう言うと、カレンの腕をつかまり返す。自分の隣に引き寄せる。そのまま膝に頭を乗せると、すっと目を閉じる。
「ウェイド様、あの、これは……」
「少ししたら起こしてくれるか?」
そんな風に甘えられては、何も言い返せない。
いつも頼りになるウェイド様が甘えるように……これは、かっ、可愛いですわ……。
そのまますぐに寝息をたてる公爵に、やはり体調が悪い中無理をしていたのだと分かる。
「おやすみなさいませ」
公爵の頭を少しだけなでる。
……それにしても、今日はやけにモヤモヤしたり軽くなったり、なんだか変ですわ。思ったよりも疲れたのでしょうか。
「ん?」
少しだけ横になるつもりだったが、思ったよりも深く眠ってしまったらしい。
おそろしいな。寝るつもりはなかったのに、すぐに寝入っていたようだ。それにしても、ベッド? それに、カレンは?
窓はまだそんなに暗くない。
時間はそんなに経っていないはずだが……しまった。王族が絡んでいる以上、もしかすると他に息のかかった者がいたのか!?
「カレンッ!!!!」
「はい」
「っ!?」
ドアを開けると、タオルを持ったカレンが驚いた顔で立っている。
「ぶ、無事ならいいんだ」
「すみませんっ、熱が上がってきたようなので護衛の方に氷水とタオルを持ってきてもらったのですが……」
顔を真っ赤に、話し辛そうに視線を床に向けている。
「その……汗もすごかったので、着替えを……させてもらったのですが。ちょうどヤドラ医師が戻られたと聞いて、部屋から出たところでして……」
そう言われて服を見ると、先ほどとは違う服に着替えている。侍女達は全員聞き取りのため、公爵が直接雇ったミクリ以外はこの部屋に入ることは出来ないはずだ。
「……侍女頭を?」
「いえ、今彼女は聞き取りの立ち合いに行っていますので」
ということは、護衛兵に頼んだか? いや、彼らが僕に触るのなら絶対にバカでかい声で敬礼と挨拶をするはずだから起きるはずだ。
さきほどから視線を合わせずに赤くなる彼女の様子に、まさかと思う。
「みなさん忙しそうでしたので……」
まさか、カレンが1人で? ソファからベッドに移して? えっ、着替え、全部……だよな。
「どうやって……」
「公爵様ぁ!! 完食致しましたぁああ!!!!」
思いがけないタイミングで、誇らしげに声を張り上げてかけてきたのはヤドラ医師だ。よく見れば頬の横にパンくずがついている。
完食って……え、まさかあの料理を? ではないよな。
風邪の上寝起きということもあるが、思考がまとまらず動きが止まる公爵に、興奮したようにヤドラ医師が近づいてくる。
「はぁっ、はぁっ。ようやく……これで触らせてもらえますね?」




